超久しぶりに旭山動物園に行ってきました。多分、夏の来訪は10年ぶりくらい(冬は2012年3月)。

旭山動物園は、私が「慣性の法則」と呼ぶ観光集客トレンドを実証する施設なのですが、実は近年は、バブル前の傾向線となる160万人台を維持できず、130万人台まで下落しています(2018年度)。

つまり、「底割れ」してしまったわけです。

なぜ、踏ん張れずに底割れしてしまったのか…というあたりを実際に確認しておきたいというのは、今回の視察目的でした。

旭山動物園自体の魅力は、以前と変わることはありません。
ペンギンは空を飛ぶように水中を動き回るし、アザラシは水中トンネルを潜る。バブル後に整備されたオラウータンや、キリン、カバといった飼育舎も見やすく動物の行動を観察できるようになっています。

ペンギン@旭山動物園(2019年10月3日)

が、旭山動物園が提示した「行動展示」は、全国各地に拡がっており、多くの断面には既視感があり、予定調和的な楽しさでしかありません。20年前に起こしたイノベーションを、複数の動物向けに展開したものの、相対的なユニークさは薄まってしまったという側面はあります。

これが、集客トレンドを底割れさせた原因…ではありますが、ディズニーランドの「カリブの海賊」が、(リノベーションはしているものの)半世紀近く支持されていることを考えれば、定番となったから、必ずしも魅力を失うというものでも無いでしょう。

かつて、上野動物園をも凌ぐ集客数を誇った施設が、かつての魅力要素を依然として持っているのに、集客トレンドを底割れさせてしまった理由は、他にあると考えることが出来ます。

個人的な意見となりますが、その理由は、おそらく個の飼育舎の集合にとどまってしまったことにあります。

前述のとおり、一つ一つの飼育舎は動物の個性を活かすユニークな構造となっています。既に動物が「飽きて」しまって、当初想定したような動きをしてくれていない飼育舎もありますが、それでも多くは「おぉー」という言葉が出てくる展示となっています。

が、その感動は飼育舎を出た途端に霧散してしまいます。

なぜなら、あまりに園内の空間が「とっちらかっている」からです。

例えば、以下の2枚の写真は同じ場所の前後を撮影したものです。

上の写真では、休憩所とその先の売店が写っていますが、近接する施設にもかかわらずデザインには、全く整合性がありません。歩道の周辺には適度に緑地がセットされているものの、ストリートファニチャーとのつながりは曖昧でちぐはぐです。

同じ場所で振り返り、後ろ側を見ると(下の写真)、右手に公衆トイレ、左手に飼育舎(チンパンジー)があります。これらは前方の風景(休憩所と売店)と全く異なる造形です。公衆トイレと飼育舎は、同じRC構造のため、かろうじて「スクエア」という形状と、打ちっぱなしというテーストは似ていますが、色も違うし、雰囲気も違う。
さらに、せっかくある木々とのつながりも感じられない。

園内の様子は、一事が万事、こんな感じで建物と道路、植栽がバラバラ。特に休憩所はひどい。
プレハブはあるは、なんか頑張ってデザインしたものの浮きまくっている施設はあるはという状態。

そもそも、そんなに「無料休憩所」が必要なのかという疑問もありますが、それはさておき、ともかく、各施設のデザインが「行き当たりばったり」すぎる。

以下は、メインエントランスに通じる動線にある売店ですが、これを魅力的と思う人は居ないでしょう。

また、前述したように飼育舎での展示方法は創意工夫されたものですが、改めて見てみるとエントランスなどの造りは、かなり貧弱です。

ホッキョクグマの飼育舎入り口

さらに、(入場者数減少の影響なのか)リノベーションは進んでおらず、老朽化、破損、汚損が目につくようになっています。
これらは行動展示のキモとなるような設備(例:観察ドーム)にも及んでおり、かなり「どんより」とした気分にさせます。

ペンギンの飼育舎内
狼の観察ドーム。傷だらけで見ること自体が難しい。

これでは、ワクワク感や没入感は醸成できないでしょう。

「行動展示」というコンセプトは素晴らしいものでしたが、その発想が、飼育舎の一部にのみ適用されており、旭山動物園を訪れた人々の総合的な経験という視野には至っていないのがとても残念です。

旭山動物園の入園者数の「底割れ」は、「点」の魅力だけでは、持続性を確保することは出来ないということを示していると考えることが出来ます。

マーケティング的な視点で考えれば、「動物を見てもらう」にはどうするか、から一歩踏見込み、「旭山動物園で楽しい時間を過ごしてもらう」にはどうするかという課題に対応していくことが必要でしょう。

もっとも、公立(市営)の動物園が、何を目指すのかということについては、別の議論があると思いますけど。

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