大分県杵築市の財政破綻についての記事が出た。
「再生団体転落のピンチ、回避へ緊急策 市長ら給与カット、イベントも見直し 大分・杵築」
杵築市は、大分空港から別府市/大分市に向かう途中に位置する城下町であり、時代劇のロケ地となることも多い地域である。
今から20年以上前、まだ、ゼネコン勤務であった時に、出張時に立ち寄った時には「知る人ぞ知る」という感じでひっそりと佇む町だったが、その後、「観光地域づくり」の概念の広まり/高まりに合わせるように、盛り上がってきていた。
他方、杵築市はハイテク企業の誘致を進めており、一定程度、成功していた。しかしながら、その後の経済環境の変化によって、リーマン・ショック時に、キヤノン、隣接市のソニーが縮小、撤退し、今回はジェイデバイスの撤退となり、大ダメージとなっている。
アテにしていた製造業に裏切られる形となり、観光振興にカジをとったものの、今回のジェイデバイス撤退によって、更に追い込まれたというところにある。
ここに至った経緯と原因は、様々に分析できるであろうが、一つ言えるのは、観光振興は、自治体の財務を改善する効果は限定的だということだ。
これは、既に、次のコラムで指摘したことである。
観光振興は、域内のホスピタリティ産業を活性化させる。これによる雇用効果や、資材調達を通じた他産業の活性化にも繋がる。こうした観光消費による経済波及効果は、広く確認されている事象である。
しかしながら、こうした「活性化」は、自治体の財務を改善することにはつながらない。
なぜなら、多くの自治体は「赤字」であり、国がその赤字分を補填しているからだ。そのため、観光による活性化によって地方税(住民税や固定資産税)が増えたとしても、それは赤字補填に使われ、自治体の財政規模は増えない。
自治体の財政規模を増やす、ほぼ唯一の手段は、人口を増やすことである。
これは赤字の算定根拠となる「基準財政需要額」は、人口が変数になっているからである。
観光振興には「お金(と人材)」がかかる。
観光消費による経済波及効果を獲得しようとすれば、費用が必要。
しかしながら、自治体は税収では、そこに投下した費用を回収することは出来ないという構造にある。
この問題を解決する手法の一つが「宿泊税」であるが、杵築市のように日帰り型の地域においては、宿泊税も有効に機能しない。観光対象が限定されている場合には、太宰府市のように駐車場に課税することで日帰り客に応分の負担をしてもらう事も可能だが、杵築市のように面的に広がりがある場合には、その選択肢も無い。
これを解決するには、県レベルで宿泊税を導入し、その一部を杵築市のような宿泊客の立ち寄り先に再分配することが考えられるが、仮に、そうした仕組みができても、自治体にとっては「外部資金」であり、安定性や持続性に不安は残る。
一方で、自治体の財政を圧迫しているのは職員人件費、扶助費、公債費であるが、観光の振興によって雇用が増えれば、生活困窮者を支援する扶助費の削減に繋がる可能性は高い。
仮にそうなれば、実質的に自治体の財務は軽くなる。とはいえ、その道程は容易ではない。
宿泊地への宿泊客のエクスカーション先としての地域であることを考えれば、各自治体で対応するのはなく、(県レベルの宿泊税などを原資として)地域連携DMOで対応したほうが効率的だという考え方もできるだろう。
観光振興の手法は、いろいろあり、必ずしも自治体が取り組まなければならないものでもない。
特に、「日帰り型」の観光地においては、行政が、どこまで観光振興にコミットするのか(=どこまで人材と資金を投入するのか)については十分な議論が必要である。