本日(2020/04/03)、コロナ禍に対する対策として、地方自治体への交付金措置が発表されました。

■自治体に1兆円規模の臨時交付金 新型コロナの経済対策 政府・自民
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200403-00000091-jij-pol

現在、都道府県と市町村をあわせて1800程度の自治体数ですので、単純に割れば、5.5億円/自治体となります。

現時点では、詳細は発表されていないので、どういう配分になるのか、どういう要件になるのか、また、どういう手続きになるのかは不明ですが、通常の交付金スキームに則ったものとなるのであれば、自治体側が「計画」を立てることで、その計画に基づく事業に対して交付金が設定されることになります。

言い方を変えれば、何に使うのか、どういう事業に投入するのかというのは、地域側の発意によって規定されます。

率直に言って、これは、観光地域にとって「最初で最後」かもしれないコロナ禍への対抗原資となります。

観光立国と言ったところで、現実的に、ホスピタリティ産業が地域を駆動させている地域は限定されています。例えば、観光庁の地域DMOは73、地域連携DMOが79の152(いずれも登録数)。地域連携DMOの平均市町村数を3としても、市町村数は310。これは、全市町村数は1,724に対し、18%に留まります。

実際に、地域経済において、ホスピタリティ産業が大きな意味をもっている地域は、更に限定されるでしょう。つまり、観光を地域振興の手段に使おうと思い、実際に使っている地域は、全国では少数派、マイノリティな存在です。

そのため、国が設定する一律の支援策では、十分な対応は難しいのは必然です。

そうした中で、地域が主体に使途を決定できる事業費を地方自治体は得たわけです。これを「生き金」とできるか、「死に金」としてしまうか、観光地にとって大きな岐路となるでしょう。

なにしろ、使途(事業)を決めるのは、地方ですから。

ただ、残念ながら、観光地域の自治体でも、観光事業のことはよく解っていないことは多い。また、ホスピタリティ産業と行政との間が「没交渉」という地域も少なくありません。

そのため、自他共認める観光地域であり、観光を地域振興に使いたいと思っている地域であっても、有効な施策が「行政だけ」で立案できる確率は高くありません。

ですから、ホスピタリティ産業の皆さん。

行政の担当者、議員と作戦会議しましょう。

計画立案の勘所

でも、その計画立案において、留意しておいてほしいことがあります。

それは、需要の早期呼び戻しを狙わないということです。コロナ禍の収束には半年から年の単位でかかります。それまでの間に、需要を呼び戻そうとすることは、様々なリスクを呼び込むことになります。

地域にとって重要なことは、ホスピタリティ産業クラスタを存続させることです。一般的な「雇用調整助成金」や「低利融資」によって一定の事業存続は可能な状況となっていますが、もともと非正規雇用が多く、また、フリーランスも少なくないホスピタリティ産業においては万全とは言い難い。

観光地域においては、国の支援策だけでは不十分な部分にパッチを充てるような対応が求められるでしょう。

ただ、単なるパッチ充てでは、コロナ禍によるマイナスを弱めるだけにしかなりません。地域独自で使途(事業)を決められることを考えれば、パッチそのものに、将来への意味を込めることが重要です。

ポスト・コロナにおいて、感染症対策/デジタル対応/環境対策は必須と呼んでよい取り組みとなります。これらの取り組みについて、自治体からホスピタリティ産業に「公共事業」として発注することができれば、それは、ホスピタリティ産業にとってG2Bの需要を創造することになり、かつ、ポスト・コロナにむけた投資ともなります。

また、WEBデザイナーや映像クリエイター、街歩きガイドといった人材(フリーランスが多い)に、地域の歴史や環境、観光スポットを紹介するWEBサイトの発注を行うといったこともあるでしょうし、飲食店や菓子店などには「名物作成」を依頼するということだって考えられます。アクティビティ事業者に、新しいアクティビティの開発や、地域のアクティビティ・ガイド、安全管理マニュアルなどの作成をお願いすることもあるでしょう。

いずれも、ポスト・コロナにおいて、地域の「売り」となること、これまで必要と感じながら後回しになっていたことなどを「公共事業」として展開することができれば、コロナ禍において生じる「空白期間」を、次の飛躍のための準備、助走期間に転換することが出来ます。

地域の特性をふまえ、産業クラスタを守りつつ、将来への投資となるような事業を、以下に紡ぎ出していけるかが、ポスト・コロナの挑戦権を左右していくことでしょう。

官民パートナーシップの重要性

当サイトでは、何度も指摘していますが、現代の観光振興は官民パートナーシップが欠かせません。

今回の緊急交付金を含め、日本の行財政は、国を中心に地方自治体へと展開されます。民間(ホスピタリティ産業)に対する直接支援も皆無ではありませんが、それができるのは、ほぼほぼ経産省(または中企庁)に限定されます。

その意味で、行政との関係性の悪いホスピタリティ産業は、大きなビハインドを抱えています。

いろいろな経緯もありますし、行政側、首長の意識の問題もあるとは思いますが、この難局を乗り切るには、官民パートナーシップは必須です。

これを機会に、行政と議会、産業とが膝を突き合わせて、産業クラスタの維持とポスト・コロナへの準備について、議論し、パートナーシップを構築していくことを「強く」オススメします。

特に、今回の交付金は、ホスピタリティ産業の生死を決めると言っても良いほどのインパクトがあると思います。コロナが収束すれば、需要は戻る(テコ入れされる)でしょうが、そこまで産業クラスタを維持できなければ、再戦の権利を得ることは出来ないからです。

全ての産業の救済を図る一律的な政府方針だけでは、地域のホスピタリティ産業クラスタは支えることは困難です。いまこそ、地域でのホスピタリティ産業の意味と特性を行政、議員、そして住民にもしっかりと理解してもらい、パートナーシップ構築に取り組んでいくべきでしょう。

前述のように、どういう仕様になるかはわかりませんが、議論をいち早く進めていくことを期待したいところです。

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