にわかに注目を集めてきているワーケーション。

業務系需要と、観光系需要が混在した(ハイブリッドな)旅行需要については、以下で整理しているので、確認いただきたい。

さて、ワーケーションとは、ワークとバケーションを組み合わせた造語。

見るからに和製英語っぽいけど、もともとは、英語圏で作られた用語で、グーグルで見る限り2013年頃から、ポツポツ出ている。当初は、旅先でも仕事をする…という捉え方であったが、2015年位になるとデジタル・ノマドの働き方としての提言が出てくる。

つまり、どこに行っても仕事に縛られる(繋げられる)…なら、好きなところで仕事すりゃ良いんじゃんみたいな流れ。コワーキング・オフィスが都市部だけでなく、リゾートとかに出てきたのも、このタイミング。

ただ、その後、海外(欧米/英語圏)では、大きな拡がりを確認できない。

2013年の時点で、8割の人がワーケーション的行動をしていたことを考えれば、ある意味「当たり前」のことであり、新語で概念化する必要性は低かったということなのだろう。それこそ、ミレニアム世代にとっては「普通」の行動でしょうし。

変わって日本では、2018年8月から9月にかけて、NHKワールドやJapan Times(共同通信)が「年休取得が進まない日本における休暇取得の取組」という文脈で、ワーケーションを取り上げている。

なんとも、日本らしい。

ワーケーションの可能性

もっとも、就労形態が日本と欧米では異なるから単純に比較は出来ない。日本では、ブルーカラーワーカーにとどまらず、ホワイトカラーワーカーでも時間管理され、労働時間に応じた報酬が基本となっているためである。

管理職などの裁量労働者は、残業代が出ないため、時間管理されていないように見えるが、制度的には「みなしの労働時間」は設定されており、その設定時間を基準とした働き方が基本となる。

かつて、我が国においても、管理職や職務に対する自由裁量権を持った人材については、この規程を外す取組として「ホワイトカラー・エグゼンプション」が提唱されたが、「働かせ放題」といった批判を浴び、かなり限定的な制度(高度プロフェッショナル制度)となったという経緯がある。

そのため、いわゆる日本の「サラリーマン」は、多かれ少なかれ「自分が働いている時間」を雇用者である会社側に認識してもらうことが必要となる。

会社に「出社する」というのは、その最たるものであり、それ以外の労働時間は「無い」のと同じ扱いとなりがち。となると、働く側としては、出先でわざわざ働こうとは思わない。

しかしながら、構造的な人手不足となり、多様な「働き方」への対応が求められるようになると、会社側も徐々に変化し、「場所」についての制約を緩めるようになってきていた。

さらに、今回のコロナ禍において、一気にテレワークが進み、多くの会社と従業員が「会社ではない場所で働く」経験を月単位で行うこととなった。これに伴う賛否はそれぞれ、多くあるが、なによりも「経験した」ということは大きい。これによって、少なくない会社が、更に「働く場所」についての制約を緩めていくことになるだろう。

一方で、供給側となる地域側にとっても、コロナ禍は大きな問題を提示している。

観光を通じて、交流人口を呼び込むことは、多くの地域にとって重要な目標となっているが、新型コロナのような感染症と、観光との相性は「最悪」であることが改めて確認されたからだ。

これに対応していく一つのやり方は、長期滞在客を呼び込むということだ。

例えば、一泊の人が500人と、5泊の人が100人なら、人泊数は同じであり、経済的なインパクトも同程度であが、地域での感染拡大リスクは、単純に考えれば1/5となる。観光振興の効果、成果の獲得と、感染症対策を両立させるには、滞在日数を増やすことが、非常に有効である。

ただ、「滞在日数の長期化」は、日本の観光業界が半世紀に渡って取り組んできたにも関わらず達成できていない課題である。つまり、普通に思いつくような対応をしたところで、滞在日数は増えることは無いというのが現実である。

その中で、今回の「働き方改革」そして「広範なテレワーク経験」、そして、コロナ禍で顕在化した「人口集中する都市生活のリスク」といった事項は、人々をテレワークや、半定住(二地域居住)、地方居住へと向かわせる原動力となる可能性がある。

特に宿泊滞在環境が整っている観光リゾート地で行うテレワーク、すなわち、ワーケーションについては、実施当たってのハードルが低く、展開しやすい状況にある。

そして、通常の休暇による観光旅行に、テレワークが付加されるのであれば、自ずと滞在日数は増えることになる。しかも、テレワークが、より普及拡大していけば、実施人数も滞在日数も増えていくことが期待できる。

これが、にわかにワーケーションが注目されるようになった理由の一つだろう。

ワーケーション需要の顕在化

ただ、現実的に、そううまくコトは進まない。

人々の「習慣」を変えるというのは、なかなか、難易度の高い取組であるからだ。実際に、需要を顕在化させるには、いろいろな誘導、演出が必要となる。

単に、コワーキング・スペースをつくって「ワーケーション・プラン」つくりました…では、顧客は来ないということだ。

需要の顕在化を阻むハードルは、複数考えられるが、やはり、「会社の理解」と「金銭的負担」の2つは大きい。

まず、日本社会は「制度的に出来る」ことと「実際にやっても波風立たない」こととの間には、大きな溝がある。でなければ、年休取得率が半分以下なんて状態には、そもそも陥らないだろう。そのため、仮にテレワーク、ワーケーションが制度的に実施可能であっても、それを人々が実践できるかは別の問題となる。

もちろん、溝があろうと、動く人は動く。とはいえ、一部の自力で溝を越えられる人だけが市場であれば、拡がりは出ず、ワーケーションは、一つのバズワードとして消えていくことになるだろう。

ワーケーションを、新しい持続性をもった行動にしていくのであれば、伝統的な企業の従業員を動かしていくことが重要となる。そのためには、地域側から積極的に企業にもアプローチを行ったり、メディアを通じた広報を行ったりして、キワモノではなく、ポジティブな雰囲気を社会的につくっていくことが必要だろう。

例えば、まずは行政も巻き込んで、モニター、実証事業的に始め、そこで、生産性向上や、心身の健康増進に繋がるといったエビデンスを獲得して、それを社会に広めていくことが考えられる。

さらに、テレワークやワーケーションは、ワーク・ライフ・バランスの一つであるから、そうしたエビデンスをもとに、健康保険組合に働きかけを行ったり、企業の福利厚生サービス(例:えらべる倶楽部)事業者に打ち込んだりすることで、B2Bの取引形態を作っていくことも有効だろう。

いずれにしても、現時点では、はっきりと中身が見えている需要ではないので、いきなり収穫モードに入るのではなく、しっかりと企業側、顧客との信頼関係をつくっていくことが必要である。

次の課題は「金銭的負担」である。

そもそも、宿泊観光旅行において最大の課題は、その金銭的負担にある。世帯年収500万円というラインは宿泊観光旅行の実施を左右するボーダーとなっているし、国民の平均給与所得の推移は国内宿泊観光市場と連動しているからだ。

そのため、ワーケーションにおいて、泊数が増える->滞在費の負担が増えるという図式となれば、それに対応できる人は少ない。その意味で、もともとバケーション需要が存在していた欧米とはスタートラインが違う。

このハードルを突破するには、何らかの形で、テレワーク追加分の滞在費用を表に出さない対策が必要となる。

例えば、3泊したら2泊無料とか、週単位の料金体系にするといった対応が考えられる。

「それじゃ、元も子もない」という声が出そうだが、もともと、多くの宿泊施設、特に地方部の宿泊施設は平日の稼働率は低い。この低稼働な日をうまく使っていくことが検討できないかという話になる。

例えば、月火の稼働が低いのであれば、金土日の3泊した人に、月火の宿泊を追加料金無しで提供するという形にすれば「3泊したら2泊無料」という宿泊プランを作ることができる。その際、部屋の清掃は隔日とするとか、リネン交換は要望に応じてといった形にすることも考えられるだろう。

「週末は何もしなくても満室だ」という施設であれば、シンプルに平日限定で「2泊分で3泊OK」といった宿泊プランも検討できるだろう。

もっとも、追加宿泊部分は、そのままでは収益を産まないので、別途、飲食サービスとか、テレワーク用の作業スペースのレンタルサービスとか、収益に繋がるサービスを考える必要はある。

仮に、健康保険組合とか、福利厚生サービスとの連携ができたら、それらから一定の支援をしてもらうというモデルも考えられる。

どこで持続的な収益を得るのかについては、十分に議論、検討することが必要で、おそらく、それが成否を左右することになるだろう。

フリーランスを狙うのは有りか?

このように、ワーケーション需要を「サラリーマン」に張り付かせるのは、なかなか難易度が高い。コロナ禍によって、テレワークの経験値が高まったとはいえ、社会的慣習はあるし、なにより費用については、悩ましい。

では、もともとワーケーションの担い手であったフリーランスはどうだろう。

フリーランスについては、当然ながら「会社の了解」は、必要ない。

他方、金銭負担については、同様にのしかかるようになる。一部、「ガンガン稼ぐ」フリーランスが居ないわけではないが、彼らを個々に引っ張ってくることは、それはそれで難易度が高い。

多くのフリーランスに関心を持ってもらうには、滞在費が、単なるコストではなく、彼らにとって、ある種の投資となるような側面を作り出すことが考えられる。例えば、インキュベーション機能や、マッチング機能を備えることで、その場に集うことに付加価値をもたせることが考えられる。3Dプリンターのように高価な機材をシェアできるといったやり方もあるだろう。

とはいえ、それだけの金銭負担を行わなければならないことに変わりはなく、また、インキュベーション機能の展開そのものの難易度も低くないことを考えれば、これも、容易ではないことは自明である。都市部で、かなりの費用と人員を投入しても難しいことを、地方部で行うことになるからだ。

また、なによりも、フリーランサーの人数が少ない日本では「本来のワーケーション」では、市場を動かすほどのインパクトとはならない。

フリーランスを相手にワーケーションを立ち上げられるのは、これまでもその種の取り組みを行なってきて、フリーランスの人々と一定の関係性を作り上げてきた一部地域に限定されてしまうだろう。

やはり、面白みには欠けるが「サラリーマン」が動くかどうかが、ワーケーションを趨勢を左右することになるだろう。

丁寧なマーケティングが必要

ワーケーションは、日本観光の国内需要に大きな風穴を開ける可能性がある。

しかしながら、現時点では、概念が先行しており、実際の顧客の立場に立った展開が弱いように感じる。

広範なテレワーク経験によって、山は動いた感はあるが、本当に動くかどうかは、まだ、わからない。大山鳴動して、ということも十分にありうる話である。

どういったセグメントを狙うのか。

そのセグメントの需要を顕在化させるにはどうするのか。

さらに、その後、どのように収益確保を行うのか。

戦略的な対応、丁寧なマーケティングが必要となるだろう。

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