コロナ禍がどうなっていくのかは「誰もわからない」状態ですが、ほぼ、確実なことは、当面の間、需要は減るということです。

GoToトラベルや、一部地域での割引チケットの配布によって、短期的に需要の底上げは可能ですが、おそらくは、来年度以降、景気は後退しますから、国内市場の母数は「ほぼ確実に」減少します。しかも、おそらく中長期的な時間軸で。

もちろん、コロナ禍が収束/終息していけば、現在のように「8割減」「9割減」といった水準からは回復しますが、過去の経緯を考えれば、仮に2010年頃の水準にまで平均給与が低下すると、国内観光旅行市場は1割以上低下する恐れがあります。

さらに、ここ数年、市場を支えていた団塊世代が、このコロナ禍を契機に旅行活動から撤退していく恐れも想定しておくべき状況にあります。

ポスト・コロナの社会、経済がどういったものになるかは、現在進行系の課題ですが、従前の「需要」がそのまま戻ってくるとは思っておかない方が良いでしょう。

インバウンドもいずれは復元してくるでしょうが、近年の人数増はクルーズ船による底上げもありましたし、各国の誘客競争も激化するでしょうから、こちらも回復には年単位の時間が必要と思っておいたほうが良いでしょう。

コロナ禍が直撃している状態においては、雇用調整助成金や持続化給付金という社会的な生命維持装置が機能していますが、これもいつかは切れます。しかも、そのタイミングで需要が従前に戻っているわけではありません。

つまり、実は、コロナ禍が落ち着いたら、落ち着いたで、観光は新しい戦場に放り込まれることになるのです。

これは、我々が2000年代に経験済みの事態です。

再生スキームでその後が変わる

供給過剰状態となり、競争が厳しくなれば、少なくない事業者が経営の存続が難しくなるでしょう。

ただ、現在の「破綻」プロセスでは、破綻すなわち廃業とはなりません。多くの場合は、債権整理を行った上で、事業継続されるからです。

「連鎖倒産」という言葉があるように、1つの事業破綻は、連鎖的に取引先の事業継続も難しくします。そこで、完全な事業破綻に至る前に、事業が厳しくなっていることを公表し、債権整理をしながら事業を継続する手法(民事再生)が拡がってきています。更に、民事再生に至る前に債務者が任意に資産を明け渡すことも一般的な手法(任意売却)となってきています。

このように破綻(会社更生)ではなく、再生、オーナーチェンジが広く展開されるようになってきたことは、連鎖的な破綻を防ぐことになりましたが、違った問題も生み出してきています。

それは、競争環境の歪みです。

再生施設は、その再生過程で、債務の大部分を整理しており、身軽なBS(バランスシート)となっています。対して、厳しい社会情勢の中でも破綻、再生を回避し事業を継続してきている施設の多くは有利子負債を抱えたBS構造となります。

結果、再生施設は身軽なBSを武器に「安売り攻勢」をかけることが多く、事業継続施設は、その攻勢を凌ぐのに四苦八苦する…ということが起きます。実際、今や、多くの温泉地には、安価な宿泊プランを売りとする全国チェーンの施設が立地しており、その地域のプライスリーダーになっています。

もともと、ある地域内にある施設群は、同じようなマーケティング構造を持っていることがほとんどです。なぜなら、その地域に訪れる客層に合わせて最適化したものにするからです。そのため、施設間の差別化要素は乏しく、価格競争に陥りやすい。そこに、再生によって、身軽になったBSを持つ事業者が入ってくれば、価格競争に火がつきやすい。

こうした地域内施設間での価格競争は、ある種のチキンレースです。その結果、事業継続していた事業者が、経営悪化に追い込まれるということが起きていきます。これは、地域にとっては、更なる疲弊を呼び込むことになります。

他方、再生の過程を工夫すれば、単なる安売り路線ではなく、重層的なサービス構成とすることで、地域の魅力を強化することも出来ます。

例えば、北海道釧路市の阿寒湖畔は、立地条件の悪さを抱えながら、新しい観光地域づくりが展開されています。この背景には、鶴雅グループが、地域内で複数の施設を傘下に収め、立体的な展開をしていることが指摘できます。具体的には、もともとの拠点施設である「あかん遊久の里 鶴雅」を基準に、それよりもカジュアル路線で女性グループをイメージした「阿寒の森鶴雅リゾート花ゆう香」、逆に高級路線で隠れ家的な「あかん鶴雅別荘 鄙の座」、文化や健康嗜好にふった「あかん鶴雅ウイングス」と、鶴雅としてのキーコンセプトは共通としながら、異なる客層の滞在スタイルに応じた宿泊施設を展開することで、阿寒湖畔の魅力を重層的なものとしています。

同様の展開は、石川県の和倉温泉においても、加賀屋が展開しています。

また、星野グループは、再生物件を多く抱えていますが、その地域×受託施設の中で、新しいポジションを作ることが多く、単なる「安売り」に向かわないため、既存事業者との共食いも回避される傾向にあります。

こうした事例を通じた経験は、再生スキームにおいて、付加価値を高められる事業者に引き継がれないと、むしろ、地域経済に与える傷を深めるということになることを示しています。

コロナ禍後の供給過剰状態という危機を、単なる危機とするのではなく、ポスト・コロナに向けた体質改善の機会としていくには、再生スキームの作り方が重要となります。

地域単位&観光視点の再生スキーム

そのポイントは、再生スキームを施設単体ではなく、地域単位で考えることとなるでしょう。

阿寒湖畔がそうであるように、地域全体を俯瞰し、地域としてのキーコンセプトは共通としながら、既存施設と共食いをしない形で受け入れ体制を重層化していくことが、地域の強靭さ、レジリエンスを高めていくからです。

各事業者の債権は、通常、地銀がもっていますが、地銀としては各債権は帳簿の問題なので、地域単位での魅力、ブランディングといったことまで考えていくことは難しいのが現実です。

ただ、地域単位であれば良いかといえば、それだけでは不十分であり、そこには観光地の再生マスタープランを描ける主体が介在する必要があります。

例えば、かつて、足利銀行の破綻にともない鬼怒川温泉の複数の施設が、一括で、産業再生機構によって再生されましたが、鬼怒川温泉という地域(デスティネーション)の魅力を再構築するという水準には至りませんでした。

これは、産業再生機構は「経営」は解っても、「観光地マネジメント」はわからなかったということでしょう。

今回のコロナ禍による混乱を、次代に向けたジャンプアップにつなげていくためには、地域単位で一括して債権管理できる仕組みと、観光魅力の再創造に向けて再生マスタープランを描ける主体の介在が重要となるでしょう。

さらに、このスキームを成立させるには、地域から「信頼される」事業者の存在が重要となります。ブランド力だけを考えれば外資系事業者の存在感は大きいですが、地域にもたらす付加価値の点でも、地域関係者の心情的にも安易に域外の事業者に依存するのは避けるべきと考えられます。

よりベターなのは、地域のことを知り尽くしていて、かつ、自立的な経営を行っている事業者が「暖簾分け」という形で横展開できることでしょう。

すなわち、以下の3点が重要と考えます。

  1. 地域単位で債権管理する仕組みを作る
  2. 観光地マネジメント視点から再生マスタープランを描く
  3. 出来るだけ域内関係者で再生事業を立ち上げる

それを図で示すと以下となります。

観光地域単位での観光レジリエンスプログラムのイメージ

ポスト・コロナに向けた取り組み

コロナ禍による影響は、どこまで拡がるかは解りません。

が、そろそろ「その後」に向けた準備を進めておくことも重要となってきています。

これは、あまり楽しい未来予想図ではありませんが、だからこそ、最悪の事態を回避する準備を進めておくことが重要でしょう。

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