夏休みが終わろうとしています。

先日、発表となったお盆時期の新幹線稼働率は20−25%。ANA/JALも、例年より20%程度減便したものの、利用率は32−37%。昨年比で言えば、概ね2割程度の人しか、新幹線や航空機を利用しなかったことになります。

コロナによる混乱であることは、論を俟たないですが、コロナ禍が始まって約半年。観光業界も、政府も、夏に向けて相応の準備をしてきました。業界ごとに感染症対策のガイドラインが策定され、その実践も進んできています。また、観光客(旅行客)側も、多くの人はニューノーマルな行動様式を理解し、実践しています。

にも関わらず、夏の旅行は伸び悩み、閉塞感の高い状態となっています。

この背景には、7月以降、陽性確認者数が全国的に増大し「こんな状態なのに旅行するのか」という世論が沸き立ったことがあります。

感染拡大には2つの段階があります。

1つは、ある集団にウィルスが持ち込まれること。
もう1つは、その集団内でウィルス感染が拡がることです。

観光客が地域を訪れることでの感染拡大は前者。

ウィルスを「火種」に例えてみましょう。

外部で火が広がっている時、まずは、防火壁を高くたて、その火が地域内に入ってこないようにするのが、前者の対策。

これに対し、風にのって防火壁を超えて飛んでくる火の粉から、火災が発生しないように、防火壁内の各種要素を不燃/難燃にしておくというのが、後者の対策。

防火壁の内側に火が入り込んでしまった時、後者の対策ができていなければ、火は内側で大きく延焼することになります。

防火壁には限界があることを考えれば、より重要なことは、後者の取り組みとなります。

ただ、この取組は、我々の日常生活に大きな負荷をかけます。外出時にはマスクを装備し、人との距離を取り、会食相手も選ばなければならない…。できれば、そんな生活ではなく、かつてのような自由な生活をしたい。

だから、我々は、防火壁を高くしたい(=人の移動を制限する)と思うし、火種となるような人たちを先立って見つけて欲しい(=PCR検査の拡充)と思うし、火種となる可能性の高い人を遠ざけたい(=特定のカテゴリの人を排除する)と思う。

観光客は、そういう「思い」を、飛び越えてやってくることになります。

地域から、反射的に嫌悪感や恐怖心が出るのは、やむを得ないでしょう。

そして、そういう反応を理解できるからこそ(+自分自身の感染への不安)の結果が、前述の「夏休み総崩れ」に繋がっているわけです。

世の中はパレート分布する

ただ、私がいろいろと話しを聞いていると、全体量としては「総崩れ」の状況でも、客が集まっている場所は局所的に存在しています。

端的に言えば、都市圏から「車でアクセスできる範囲」にある「高級ホテル(旅館)」は、それなりに賑わっています。首都圏近郊だけでなく、関西圏近郊も同様の状況のようです。

また、某Hリゾートも、多くの施設において集客が戻っているという報道が出ています。

統計的な数値があるわけではないですが、おそらく、2割程度の地域/施設に人々は集中しただろうと推測できます(パレート分布)。

これは、GoToによって、高級ホテルほど割引の恩恵が大きいということもあるでしょうが、コロナ禍の制約の中で、人々の旅行への欲求が行き着いた先が、そうした場所であったということでしょう。

他者との接点を最小に抑え、家族など旅行同行者との楽しい時間を過ごすことの出来る旅行が、現在、顕在化しうる観光だということです。

個々の地域/施設においては、こうした需要に対応した動きをしていくことが、当面、取れうる手段でしょう。

重要なことは地域にとっても、自分にとっても感染リスクは相当量低いと、観光客が「思えること」でしょう。

楽しいニューノーマルへ

地域/施設の立地を変えることは出来ませんが、現地での滞在においては、まだまだやれることは多いと思っています。

「家族など旅行同行者とだけの楽しい時間」を提供できるのは、高級ホテル・旅館だけなのでしょうか?

現在、ニューノーマルと呼ばれる行動の多くは、抑制的であり、ディストピア的す。

ともかく「見た目」が良くない。

行く先々で、様々な注意書きが掲げられ、味も素っ気もない消毒薬のボトルが置かれ、カウンターにはアクリル板やビニールカーテンが掲げられる。

3月4月の「急変時」の応急措置ならともかく、半年も経つのに…というのが率直な感想です。

現在、高級ホテル・旅館が、人気を集めるのは、これらの施設が感染症対策を行いつつ、それをサービス・デザインの中に組み込んでいるという点も大きいでしょう。単純に言えば「美しさ」を損なわずに、感染症対策を行っている。だから、利用者も心地良いし、安心感/信頼感も感じる。

それだけ施設的にも、要員的にも余裕があるからできることだと言えば、その通りですが、ニューノーマル対応は、まだまだ、アイディアを出していける分野だと思っています。

例えば、ハワイのアラモアナセンターのフードコートには、デザインされた手指消毒装置がセットされています。

James SUZUKI氏撮影

また、カナダではヨガを大勢で楽しむために、公園一面にドームを展開した取り組みも行われています。

また、混乱が予想されていた「海水浴場」について、南伊豆、下田などでは、きっちりと海水浴場でディスタンシングの取り組みを行うことで、美しさを保ちつつ、感染症対策を行いつ、秩序を作り出しています。
※マスメディアが、批判的な論調を交えずに、淡々と事実だけを論じているのも注目されます。

住民への安心にもつながる

こうした取り組みは「過剰」に感じるかもしれません。

が、具体的に、わかりやすく「ニューノーマルの観光」の姿を見せていくということが、観光客だけでなく、地元住民の安心にもつながるのではないでしょうか。

現在の感染症対策は、ウチにこもったものとなっていて、視覚情報でパッと分かるものはマスクの装着有無くらいしかありません(だからこそ、屋外で周りに人が居なければ外しても良いと言われるのに、マスクが注目されてしまう)。

先が見えない現状では、少々、過剰なくらい「見える形」で、感染症対策と観光の楽しさを両立させる取り組みを展開していくことが求められています。

そして、そういう「過剰な」対策に惹かれる人たちが来訪するようになれば、自ずと、地域での感染リスクも低下することになるでしょう。これも、また、地元住民の安心に繋がっていく部分だと思います。

ここは「知恵の出しどころ」だと思っています。

Yesと応えられるように

コロナ禍が全世界に拡がってしまった以上、観光客も、また、地域や施設も、ニューノーマルへの対応力を上げ「難燃性」を高めていくことが、ほぼ唯一のコロナ対策だと、私は思っています。

防火壁を高めることも、魅力的な選択肢ではありますが、観光客だけでなく、地元住民の外部との往来も、火の粉を運ぶ原因となります。また、外部と遮断し、100日間、陽性者ゼロであったニュージーランドで、新たに陽性者が確認されたことが示すように、どこにも「火の粉」は入りこんでいると考えておく必要があります。

既に、コロナ禍を「外側」の問題と捉えることは難しく、「内側」の問題と捉えて、行動変容をしていく必要があるのだと思います。

観光は引き続き、厳しい状況に置かれることになると思いますが、事態に対抗するために出来ることは、まだ、いろいろとあると思っています。

そうした事を積み上げていくことで「旅行していいの?」という問いに、胸を張って「Yes」と応えられる状態になっていくのではないでしょうか。

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