私は、昨年11月10日に以下の投稿をしています。

この投稿では、2021年の展望として、主観的な確率とともに、以下の事項を指摘しています。

  • GoToトラベルの終了(100%)
  • 雇用調整助成金特例の終了(100%)
  • COVID-19の波状的な襲来(80%)
  • 景気後退(80%)
  • オリパラの開催(60%)
  • インバウンドの本格的再開(60%)
  • 市場の世代交代(40%)
  • テレワーク社会の到来(40%)
  • 恒常的な旅行減税/クーポンの展開(20%)
  • 観光地再生官製ファンドの展開(20%)

予測時点から、5ヶ月が経ったので、ここで、一旦、答え合わせ(笑)。

まず、GoToトラベルは、12月末で終了してしまいました。現時点では6月から再開とされていますが、その仕様は変更されることが濃厚です。さらに、コロナ禍の展開と、それに対する政治の状況によっては、そもそも再開されない/再開されてもかなり制限がかかった形態となる可能性も視野に入れておくべきでしょう。

昨年末からの第3波の原因として、GoToトラベルはやり玉にあがりましたが、そもそも、旅行を動かすことが感染拡大に繋がるなら、昨年、秋時点で爆発していたはずです。実際には、GoToトラベルを止めてから、本格的な第3波はやってきていて、第3波と、第4波の間にもGoToトラベルは動いていません。

実際には、平均水蒸気圧という気象条件が大きく関係していると私は考えていますが、世論は、そうなっていませんし、政治もその世論に抵抗する様子はありません。気象条件以外の「何か」をやり玉にあげて、緊急事態宣言という行動自粛を求めるというのが、ほぼルーチン化しているのが実情です。

本来であれば、気象条件を前提に、それでも社会を動かすことの出来るニューノーマルとは何か?ということを検討すべきと私は思いますが、残念ながら、昨年な夏頃に盛んに行われたそういう議論は吹っ飛び、旅行や飲食、国際交流を敵視し、更には社会全体の人流を止めることに終止する状況となっています。

「専門家」は、「ワクチン接種が進むまでの我慢だ」というスタンスかもしれませんが、ワクチン接種が進んだとしても、コロナが消えるわけではありません。単に、集団免疫を確保されるということでしかありません。禍がゼロリスクとなるわけではないことを考えれば、そのまま元の社会に戻るとも思えません。その結果、ホスピタリティ産業に与える経済的な損失は甚大なものとなっていくことは避けられません。

今年は「選挙の年」ですので、政府も一方的な景気後退を良しとはしないでしょうが、打ち手は、雇用調整助成金や無利子/低利融資といったことに限定されます。需要を直視せず、雇用や財務だけを維持しても、事業の再起動、再成長には繋がりがたい。

インバウンドの展望

観光業界にとって、再起動、再成長戦略の筆頭は、インバウンドとなるでしょう。

ただ、オリパラの開催確率は、80%以上(多分、100%)に高まりましたが、そこで期待していたインバウンドの強制再起動は先送りとなりそうです。それでも、国際的にワクチン接種が進み、感染収束が期待できる秋頃には、一定の国際旅行が動き出すと思います。国際旅行は、相手国との相互関係ですから、国際的に人の動きが戻ってくれば、日本もその流れに沿った対応をしていくことになるでしょうから。

問題は、乾燥が進む冬に入った後です。昨年末からの第3波ほどとはならないとしても、乾燥が進めば、感染は拡大します。そうした波が生じ、その時に国際旅行が動いていれば、帰国者やインバウンド客を、その要因とした世論展開がなされることは、容易に想像できます。前述したように、GoToトラベルも訪日客も居ない状態で、第3波、第4波が来ているのにも関わらず、です。

そうなれば、次の冬春も、今季の繰り返しとなります。

これを避けるには、観光領域において、世論から差し込まれても対抗できるだけの「安全な旅行」を確立し、その「安全度」を、しっかりとモニタリングし、社会に示していくことが重要です。特に、仮に、GoToトラベルが再起動しない場合、国が「安全な旅行」を主導することは難しくなりますから、民間事業者や地域行政が特別なパートナーシップを組み、展開していくことが必要となります。

要は、予め非難を受けないような対策を取り、それでも非難を受けた場合には、それに対抗できるだけの「エビデンス」を用意することで、とばっちりを受けないようにするということです。

国際旅客の生殺与奪は国にあります。インバウンドが再起動されても、それを持続性を持った動きとしていけるかどうかは、観光業界の取り組みが重要となるでしょう。

新しい市場セグメントへの対応

不透明さが拭えない観光市場ですが、一方で、新しいライフスタイルに伴う、新しい旅行需要の萌芽も出ています。いわゆるワーケーションと言われる活動は、その象徴となります。

既に、各地でワーケーション需要の取り込みに動いていますが、この需要は、供給体制を作れば顕在化するというものではありません。この「需要」は、働き方や就労意識、ライフスタイルなど社会的、個人的な様々な要素が複雑に絡み合い、まだまだ、とても脆弱な存在です。海外と異なり、いわゆる「サラリーマン」が多く、業務分掌が判然としており、終身雇用的な意識も高い日本では、就労者の意識によって、自律的に業務を行うことの難易度が高いことが指摘されますが、何よりも、ワーケーションという概念は「働くこととはなんぞや」という命題を突きつけることになるからです。

人にとって「労働とは何か」という問いは、それこそ、宗教レベルにまで至る難問です。

古典的な考えで言えば、労働は苦役ですし、経済的な保証でもあります。が、近年では、自己実現の一部と考える人達も増えています。また、産業革命は、(労働しない)支配階級と、使役される労働階級の間に中産階級を作り出しました。近年のネット社会(サービス経済社会)は、この中産階級から、弁護士やファイナンス関係、ITエンジニアや文化芸術、研究者といったクリエイティブ・クラスと呼ばれる組織に過度に依存せず、個人の技術や知見によって、問題を発見したり、新しい概念やモデルを創造したりする人々を生み出しています。

ワーケーションは、本質的に、こうしたクリエイティブ・クラスの人々が対象となります。米国では、2000年代前半で労働者の3割が、このクリエイティブ・クラスに属するとされますが、日本では2010年時点で10%程度と推計されています。人数的に限定されていることに加え、産業構造の関係で、クリエイティブ・クラスは、大都市に集中しているという問題点もあります。

端的に言えば、ワーケーションが対象としうる市場規模は、一般的な観光市場のソレよりも、更に小さく、限定されているということです。この限定された市場から需要を紡ぎ出すのは、容易ではありません。

この需要を獲得できる地域は「限定されている」と考えるべきでしょう。

ワーケーションに取り組むのであれば、クリエイティブ・クラスの人々が、どういった価値観を持ち、どういった地域を旅先として、保養先として嗜好するのかということを把握し、その軸線上に自地域が乗っているのかということを見極めることが必要となります。

ポスト・コロナの挑戦権

コロナ禍によって引き起こされた観光「崩壊」は、いずれ訪れるCOVID-19の収束/終息によって、再起動フェーズへ転換していくことになります。

需要面について言えば、リベンジ需要が出てくることは容易に想像がつきます。

観光領域にとっての問題は、むしろ、社会の中での観光の立ち位置の変化への対応でしょう。この1年余りのコロナ禍の中で、観光振興は無条件に「良い取り組み」とはみなされなくなっています。また、観光は、順風満帆な成長産業ではなく、状況によって壊滅的な被害を受けることも判明してしまいました。

これは、民間事業者にとって投資スキームの前提が崩れることを意味します。今後は、観光の量的拡大を牽引してきた民間投資も渋くなることは避けられません(少なくても、当面の間)。

行政にとっても同様です。日本政府は、観光政策展開の原資として出国税を導入したものの、その税収そのものを喪失する事態にもなっています。地域においても、限られた地域経営リソースを観光振興に展開することに躊躇するところも出てくるでしょう。

中途半端な対応では、結果には繋がりませんので、地域としては、ポスト・コロナについても、観光振興を続けるのかという判断が求められることになります。

一方、民間事業者としては、リベンジ需要が出てくるまでの間、ともかく事業を存続、継続していくことが必要となります。それに加え、観光に対する社会の風当たりが変わっていることを踏まえ、受け身ではなく、主体的に「安全な観光」を実践していくことが求められます。ただ、これについては、単体施設では対応が難しく、DMOなり、流通を担う旅行会社、交通事業者なりとの連携が必要となります。

こうした取り組みに乗り出すことで、コロナ禍による影響を抑え込み、体力を温存していくことが、ポスト・コロナの挑戦権を得るのに重要だと思います。

展望をアップデート

最後に、展望をアップデートしておきます。

  • GoToトラベルの終了(100%)
  • 雇用調整助成金特例の終了(100%ー>60%)
  • COVID-19の波状的な襲来(80%ー>100%
  • 景気後退(80%ー>90%
  • オリパラの開催(60%ー>90%
  • インバウンドの本格的再開(60%ー>40%
  • 市場の世代交代(40%ー>60%/期待を込めて)
  • テレワーク社会の到来(40%ー>50%
  • 恒常的な旅行減税/クーポンの展開(20%ー>10%
  • 観光地再生官製ファンドの展開(20%ー>10%

昨年のように、コロナ禍の後は、GoToでブーストという出口が見えなくなっている分、それぞれの立場での対策が重要になっていくと思います。

不透明な状況が続きますが、せめて、昨年の失敗は繰り返さずにいきたいところです。

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