2020年10月1日からの、GoToトラベル・キャンペーン「フルスペック」の運用開始もあり、観光領域は、明るい話題が増えてきている。一時期、かなり攻撃的であったマスメディアも、観光活動についてポジティブな情報を出すようになっている。私が、やり取りしている観光事業者の皆さんも、春夏のような「お先真っ暗」という状況から脱し、少し笑顔が戻りつつある。

ただ、COVID-19が抑え込まれたわけではなく、依然としては、大きなリスクとして存在している。さらに、失業や廃業と言った景気後退は、これから本格化するとも言われており、我々は危機を脱したわけではない。

そこで、これから半年〜1年程度を展望して、何が起こりそうなのか、何に備えていかなければならないのかといったことについて整理しておきたいと思う。

確実に起きること

  • GoToトラベルの終了(100%)
  • 雇用調整助成金特例の終了(100%)

まず、この半年〜1年以内に確実に起きるであろうことは、GoToトラベルと、雇用調整助成金の特例措置の終了。どちらも、「政策」であるため、もちろん、政府が延長を決める可能性がゼロである訳ではないが、緊急時へのカウンターという色合いの強い政策である以上、どこかで区切りが必要となるだろう。

ただ、非常に強い効果を持った政策であるため、いきなり、全て無くなるということにはならず、何かしらの出口政策は設定されることになろう。その出口政策がどのようなものになるかについて、アンテナを伸ばしつつ、最悪の事態への備えも進めておくというのが、現状取りうる最良の手段だろう。

ほぼ確実に起きるであること

  • COVID-19の波状的な襲来(80%)
  • 景気後退(80%)

次に、かなりの確率で起きるであろうことは、COVID-19の反復的、波状的な感染拡大と、それによる景気の後退である。

COVID-19によって、交通機関を含む広範なホスピタリティ産業は、甚大な被害を受けている。さらに、その影響は、観光や接待需要に向けて高付加価値な産品を提供していた一次産業にも及んでいる。現時点では、持続化給付金や雇用調整助成金、さらには広範な融資によって、企業活動は維持されている(=倒産数が増大とはなっていない)が、そうした金融政策で需要を作ることは出来ないから、いずれ限界が来る。

政府からの支援が続いたとしても、業績が悪化した事業者は、雇用を絞り込んでいくだろうし(新規雇用の抑制)、維持している雇用についてもボーナスや残業を抑制していくことになるだろう。

そうなれば、我々の所得は低下していくことは避けられず、景気後退となっていくことになるだろう。

COVID-19については、これまでにも「楽観論」は多かったが、その多くは幻となっている。他方、「一ヶ月後には○○みたいになる」といった極端な「悲観論」も、多くは杞憂に終わっている。

つまり、COVID-19についていえば、中道的というか、極めてオーソドックスな展望に沿った展開となっている。社会は徐々にCOVID-19への耐性を高めていくことになるが、それには年単位の時間が必要であり、それに伴い、社会経済は疲弊していくことになるという認識を持つことが重要だろう。

おそらく起きるであろうこと

  • オリパラの開催(60%)
  • インバウンドの本格的再開(60%)

ついで、おそらく起きるだろうと考えられるのは、オリパラの開催と、インバウンドの本格再開(入国制限の緩和)である。どちらも賛否が分かれる取り組み(政策)であるが、ポスト・コロナに向け、どこかで通過しなければならない関門である。例えば、オリパラも、2022年には冬オリパラ(北京)、FIFAワールドカップ(カタール)が控えており、東京オリパラだけ中止にしたところで、根本的な解決とはならない。

また、前述した支援の出口論や、景気後退への対応策として、何かしらの対策なり、きっかけを設定することは必要であり、タイミング的にも、来夏のオリパラ、その後のインバウンド再開というのは好適となる。

この辺は、施政者が「判断」することであり、いかようにでも動く話であるが、敢えて個人的な展望を示せば、その確率は60%+αといったところか。

なお、インバウンドは、オリパラに依存する関係となろう。仮にオリパラが開催されないとなると、インバウンドの本格再開は、そのきっかけを失うからだ。

状況次第で起きるであろうこと

  • 市場の世代交代(40%)
  • テレワーク社会の到来(40%)

確度は落ちるが、コロナ禍という社会的な「ショック」によって、相応の確率で生じていくだろうと考えているのが、観光市場における世代交代と、就労のオンライン化、すなわち、テレワーク社会の到来である。

コロナ禍は、非常に大きなショックであるが、一方で、人々や社会の現状維持バイアスも相当強いものがある。実際、かつての東日本大震災においても、暮らし方の変化や、都市集中の緩和が起きると予想されていたが、結局の所、大きな変化は生じていない。

そのため、今回のコロナ禍によって「変わる」と言われていることの多くも、コロナ禍が収束/終息するにつれて元に戻っていくと考えておくのが妥当であろう。

しかしながら、これまで国内市場を支えていた「団塊世代」の市場からのフェードアウトは、確実に早まったと考えられる。2020年時点で、団塊世代は70歳を超えている。コロナ禍によって、観光活動が制限されることが年単位で続くことになれば、彼らの生活習慣は、旅行が無い形に転化していくと考えられる。

一方で、相対的に若年層の旅行意欲は旺盛な状態にある。コロナへの耐性という点でも有利な立場にある彼らは、ミレニアルとかジェネレーションZと言われ、世界的にも市場の中心となってきている。

そのため、一気に若年層に市場の中心が変化することも想定できる。

他方、景気後退が生じると、若年層の財布が直撃されることになるが、年金生活者である高齢者は、あまり影響を受けないという構造もある。そのため、経済要因によって、市場変化は「思ったほど起きない」という状況も考えられる。

また、緊急事態宣言を経て、多くの就業者がテレワークを経験した。こうした経験を元に、ワーケーションなどの提唱も行われているわけだが、働く場所と住む場所の物理的な距離にかかる制約が、大きく緩和される方向になったことは事実であろう。

海外事例にもあるように、高い創造性を有した人材については、特定の場所に執着せず、自身にとって「利」となる場所に、どんどん移動する傾向が高い。国内においても、今回のテレワーク経験を経て、そうした動きは顕在化していくと考えられる。

一方で、そうした働き方ができる人は、就労者の中では、ごく一部であり、全体として、どこまでインパクトを持つのかは判然としない。

まず起きないだろうこと

  • 恒常的な旅行減税/クーポンの展開(20%)
  • 観光地再生官製ファンドの展開(20%)

最後に。個人的には起きて欲しいと思っているが、おそらく起きないであろう2つの事項。

一連のGoToシリーズは、需要に対する緊急対策カンフル剤としては有効であるが、持続性は乏しいと考えている。なぜなら、この種の制度は、一部の人が、膨大に利用してしまうとか、制度趣旨を逸脱するような商品設定がなされやすいといった、とかくピーキーな動きが生じやすいからだ。11月に入り、いろいろな利用制限がかかってきていることは、その証左でもある。

こうした問題が生じるのは、基本的に原資の取り合い(早いものがち)となることにある。今回のGoToシリーズの予算額は、過去の同様事業に比しても、巨額となっているが、それでも基本的に原資の取り合い構造であることに変わりない。

「取り合い」構造にあるから、人々は期間内にできるだけ消費しようとするし、事業者側も、そうした需要に対応しようと極端な商品を作ろうとしてしまう。結果、市場取引は大きく歪み、恩恵を受ける事業者は限定されるし、(消費者支援は事業目的ではないとしても)一部の人々しか「お得感」を感じることが出来ない。

こうした問題を解消するには、所得税を原資とした旅行減税や、一律で配布する旅行クーポンが有効と考えている。

もう一つ。こうした需要喚起策を展開したとしても、供給過剰状態が年単位で続くことは避けられない。特に、インバウンドへの依存度が高かった地域においては、深刻な状況となろう。これに対する対応策の展開を進めておくことは有効だろうと思っている。

しかしながら、この2つについては、現在の観光政策からはかなりの距離があるため、実施される確率は低いだろう。

ポスト・コロナに向けて

以上、将来展望をしてみたが、それぞれの事象は独立して存在しているわけではなく、相互に関係しており、何かの事象の発生/非発生が、他の事業の発生/非発生に連鎖的につながっていくことになる。

ただ、ここで取り上げた事象は、地域や事業者レベルにとっては、外的要素であり、自分たちで事態を変えることは出来ない。しかも、その展開によっては、非常に大きな影響を受けることになる。

よって、地域や事業者としては、将来を展望した上で、複数のシナリオを描き、対応策について準備を進めていくことが必要となろう。

不透明な展望の中、全てを読み通すことは出来ないが、GoToシリーズによって、明るさの見えている現在だからこそ、対応策について議論を進めていくことが重要ではないだろうか。

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