本日(5/28)、3回目の緊急事態宣言の延長が決まりました。
既定路線とも言えますが、これで6月20日まで、緊急事態宣言が延長となりました。現在の感染抑制、収束傾向が続き、高齢者へのワクチン接種も進めば、感染状態はかなり落ち着いてくると思われます。
しかしながら、変異株への恐怖にリバウンドへの不安が相まって、すぐに「元の社会」とはならないでしょう。
もともと、日本の感染状況は欧米に比して、非常に低位です。例えば、ワクチン摂取が進んだ英国は、コロナ禍を克服しつつあるように言われますが、陽性者数の絶対数は、第4波真っ只中とされる日本の水準と変わりません。一部で提言されている「東京都で新規陽性確認者数が100人/日以下」といった水準は、ゼロ・コロナとほとんど変わらない水準と言えます。
さらに、その一ヶ月後にはオリパラが始まっていきます。政府/東京都としては、オリパラの期間中に陽性者が増えていくことになれば、また、大きな批判にさらされることになります。
となれば、仮に6月下旬に緊急事態宣言が終了したとしても、観光を推奨ということにはならないと考えておくことが妥当です。
(当然ながら、感染拡大リスクを抑えつつ)これに対抗する方策の一つは、事前検査を徹底することであることは、既に整理しました。
ただ、この対策を実行したとしても、義務化というレベルにはなりません。そのため、ゼロ・コロナ的な発想にたてば「守らない人も居るのだから不十分」ということになります。その結果、公的に「旅行自粛」が求められてしまえば、観光業界は多くの「安全性の高い」市場を失うことになります。社会的立場のある人は、強制力がなくても公的な要請を無視することはできないからです。
そうなると、市場規模が小さくなるだけでなく、来訪人数に対する感染リスクが高まることになります。なぜなら、残る市場セグメントは「公的な旅行自粛」を無視する人々となるからです。市場規模が小さくなることで、宿泊施設などが価格を下げてくると、そのリスクは更に高まることになります。もちろん、事前検査への参加率も低下することになるでしょう。
「事前検査」の実行率/有効率を高めるには、自制心を持ち、公的な要請に応じる人々の行動を制限しない、むしろ、誘導していく仕掛けが必要でしょう。
これは、かなりの難問ですが、先日、ある知人にアイディアをいただきました。
それは、「長期滞在する顧客に財政支援をする」というアイディアです。
観光が、コロナ感染のリスクとみなされるのは、人が移動するからです。しかしながら、過去1年余りの状況を見ても、地方の県庁所在地レベルの都市での感染拡大はあっても、いわゆる観光地でのコロナ感染は限定的です。
北海道や沖縄県が、観光によるコロナ拡大事例として取り上げられがちですが、それぞれ札幌市や那覇市での感染が多く、観光客が多く訪れる温泉地やリゾート地での感染は限定的です。これは、観光リゾート地を目指す客層は、もともと、安全性が高いセグメントに属しており、かつ、サービス提供側の事業者の感染症対策が進んでいるためと考えることが出来るでしょう。
特に「前者」は、大きい。東京都ですら、この1年あまりの延べ陽性者数は、人口の1%に過ぎません。ある時間断面において、ある集団に陽性者が居る確率にいたっては0.02%、つまり、5000人に1人です。政治的/法制度的/社会的な問題があるので、「どういうセグメントの人が感染しているのか」ということについては掘り下げた分析は公開されていませんが、COVID-19は、一般に思われているように、社会のあちこちで感染拡大しているというものではなく、極めて限定されたセグメントで増殖しているものです。そのため、このセグメントを避ければ、観光による感染拡大のリスクは、大きく低減できます。
端的に言えば、「旅の恥はかき捨て」みたいな、一時的な享楽を求めるセグメントを忌避することが重要。さらに、バブル(日常的に一緒に行動する人達)単位で自制的に滞在を楽しむセグメント主体とできれば、安全性を大きく高めることができます。
ただ、日本では、人の移動を制限することができません。
来訪者の属性を左右するのは、マーケティングのみです。
では、何をもって、ルーズなセグメントを忌避し、自制的なセグメントをふくらませるのか。
この鍵となるのが「滞在日数」なのではないかと思うのです。
観光需要は刺激を求めるものと、保養休養を求めるものの2つに大きく分けることができます。いわゆる「非日常」を求めるものと、(理想とする)「異日常」を求めるものと言っても良いかもしれません。
後者の需要は、旅先での時間を(同行者とともに)ゆっくりと楽しむものですが、日本では、あまり顕在化していない需要となります。その一つの現われが「連泊」が乏しいということです。
が、コロナ禍の中で、ワーケーションが注目されるようになってきたように、状況は変化しつつあります。
理想とする「異日常」を求めて、連泊する人々を招き入れることは、コロナ対策として、3つのメリットがあります。
1つは、連泊する人々は、自制できる人々と重なるということです。刺激や享楽を求める旅行は、多くの場合、短期決戦型となります。中日に1日中、プールサイドで読書する…みたいな行動は取りません。また、連泊するということは、それだけ仕事の調整ができ(=休みを制御できる)、滞在費も負担できるという人々になります。これらは、主体的かつ自律的な意思決定と、経済力を持つということであり、結果、意識も高い人々となりやすい。
また、1人あたりの泊数が増えれば、宿泊施設として、同じ人泊数を確保する際に、実人数を減らすことが可能となります。平均1泊と2泊では、実人数は半分でも、述べ泊数は同じになるからです。実人数が減るということは、それだけ、感染拡大リスクを減らすことにもなります。
さらに、この「夏」に関して言えば、オリパラ実施に寄る行動自粛をかいくぐれるというメリットが加わります。感染が収束しない中でのオリパラ開催となれば、東京周辺は、大規模な行動自粛が求められることになるでしょう。それは、従来の緊急事態宣言の比ではないかもしれません。が、オリパラ前に、観光リゾート地に移動してしまい、そこで、(欧米のように)一週間、二週間と滞在するのであれば、こうした行動自粛の網から外れることが可能でしょう。東京での人の移動が発生しなくなるのですから。
こうしたメリットを考えれば、この夏、連泊需要を持った人達をターゲットとしたマーケティングを展開することの有効性の大きさが見えてきます。
長期滞在需要取り込みを実現するには?
とはいえ、過去数十年に渡り、多様な人々が取り組み挫折してきた「国内旅行の長期滞在化」ですから、そう簡単に実現できるものでもありません。かなり、思い切った取り組みを行う必要があると考えられます。
まず、重要なのは、地域での社会的な合意でしょう。コロナ禍において、同じように都市部から地方部に長期滞在しようという動きは「コロナ疎開」といった形で取り上げれてもきました。が、残念ながら、それは、都市からコロナを持ち込んでくるといった、どちらかといえばネガティブな扱いで論じられることが多かったのが実状です。地域によっては、スーパーに泊まる他県ナンバーの車に嫌がらせが発生したくらいです。
長期滞在者が、地域で感染拡大させるリスクは、相当低いですが、恐怖心というのは、そういう数値で払拭できるものでもありません。
そのため、まずは、地域において「より安全に観光を動かす」手段として、長期滞在需要の取り込みを行うことについて地域において合意を得ることが必要となるでしょう。
2点目は、大規模な財政支援です。本来であれば、特定のセグメントの人々を惹きつけるなら、入念なブランディングが必要となりますが、その時間はありません。少々、荒業となりますし、後遺症も出てくることになりますが、インパクトのある割引策しか、事実上、選択肢はありません。
例えば、GoToトラベルや、各県の振興券の利用条件を、一週間滞在であれば、割引率を大幅に高めるといった展開が期待されます。この設計が、需要を動かすことが出来るか否かに直結することになるので、かなりだいたいな設定とすることが必要でしょう。
3点目は、滞在中の体験プログラムのラインナップです。「プールサイドで、ゆっくりと読書する」ように、長期滞在の経験者は、必ずしも、地域の体験プログラムは必要としませんが、長期滞在の「未経験者」からすると「そんなに、何泊もして、何するの?」という疑問は、普通に出ます。これに対する「答え」は用意しないと、長期滞在の輪は拡がりません。そのためには、地域のガイド、アクティビティ、エンターテインメントなどの事業者と一体となった受け入れ体制(プラットフォーム)を築き、それをアピールすることが必要でしょう。さらに、こうした体制の構築と、需要の流し込みは、宿泊施設以上にダメージを受けている事業者を救済し、地域のホスピタリティ産業クラスタを再構築することに繋がります。
1点目の地域合意、2点目の財政支援を、この3点目の体験プログラムのプラットフォーム構築につないでいくことで、人々の長期滞在の需要を呼び込むことができれば、ポスト・コロナにおいて、長期滞在型のリゾートへと「進化」していくことにもつながっていくことが期待されます。これは、「世界標準」のリゾートへと繋がる道となります。
事前検査との重ね技
もちろん、夏休みに人を呼び込むには、事前のPCR検査は大前提となります。また、高齢者のワクチン接種も進んできますから、ワクチン接種者に向けた対応も、重要となってくるでしょう。
観光需要を呼び込むには「あれもだめ、これもだめ」というブラックリスト型の対応から、「これならOK」というホワイトリスト型の対応に切り替えていくことが必要だからです。
また、地域でのワクチン接種の進行度も影響してくることになります。
地域での不安や恐怖は、理屈だけでは、払拭できないからです。これを良化していくには、「ワクチンを摂取した」という具体的な経験が必要となるでしょう。その意味で、観光業界も、このワクチン接種へ協力していくことも検討したいところです。
ワクチン接種が進むことで、秋には、明るさが戻ってくるでしょう。
そのために、まず、この夏休みを、それなりの水準で切り抜けていきたいところです。