目立つようになった地方部へのリゾート投資

1990年代のバブル崩壊以来、日本では、地方部での「乱開発」「スプロール開発」とは程遠い世界となって久しい。

不動産開発に対する投資意欲の減退が進んだことで、大都市部では、都市再生特区などの設定によって、投資を喚起する政策が取られ、大型の再開発、新規投資も動いてきたが、地方部では、そうしたこととは無縁の状況が続いていた。

しかしながら、インバウンド振興に比例するように、日本地域が持つ観光ポテンシャルが国際的にも注目されるようになると、海外資本が、日本の観光リゾート地に投資を行う事例が増えていった。当初は、再投資がままならない宿泊施設などを購入し、リノベーション、リブランディングすることで再生していくという動きが中心だったが、近年では、ホテルやコンドミニアムなどを新規投資する事例も増えてきている。

中には、リゾートブーム時に頓挫した開発エリアをまるごと購入し、新たなマスタープランをつくり、30年前のビジョンを再起動させようという動きも出てきている。

現状、こうした動きは、一部地域に留まっているが、バブル期がそうであったように「リゾート不動産投資」が「打ち出の小槌」「錬金術」とみなされるようになると、その動きは、一気に、拡がっていくことになる。特に、現在の日本の観光リゾート地は、コロナ禍によって強いダメージを受けており、円安もあって、外資から見れば「超お買得市場」となっていることを考えれば、「今後の成長を見越して、日本のリゾート物件をポートフォリオに組み込んでおこう」と考える投資家、ファンドが多く現れることが必然であろう。

観光振興、観光開発を考える場合に、外部資本との関係をどう捉えるかというのは、ある種、永遠の課題でもあるのだが、どの資本かに関わらず避けなければならないのは、無秩序な開発である。それらは、情勢が少し変わるだけで、大きな墓標を生み出すからだ。

投資の功罪

そもそも、過去の例が示すように、供給は「簡単に」過剰になる。今回のコロナ禍は特別な事態ではあったが、そうでなくても需要は、中期的には経済状況に合わせた推移となる。これに対し、供給量を増やす不動産投資は、あるタイミング&地域に加熱して行われるのが常であり、投資された物件は数十年単位でストックとなる。建物の耐用年数を通じて、好景気が維持されることはないし、天災や社会情勢によっても、需要は大きく減退する。結果、供給>需要となるのは自然である。

供給過剰状態が続けば、価格競争が激化し、体力の弱いところから脱落していく。多くの場合、それは、地元の零細資本であり、それが脱落することは、地域経済循環のサイクル、波及効果を低減させることになる。

また、スプロール開発は、公共インフラにも多大な負荷をかける。すでに、我が国では様々な公共インフラの維持、更新が難しくなりつつあるが、その状況下で、飛び地のように観光リゾート地が生まれていくことは、将来に渡って、さらなる負担を呼び込むことになる。

一方で、せっかく湧き上がっている投資意欲を門前払いするのも、我が国の状況からすれば、もったいない。大都市が、都市再生特区によってダイナミズムを持つようになったのと同様に、良質な不動産投資は、地域に継続的な波及効果をもたらしていくからだ。

つまり、問題は、地方部に投資がなされることではなく、その投資がアドホック的に秩序を持たず、発散気味に行われることにある。仮に、新規開発できる地勢的なエリアが限定されており、当該地域の機能更新を伴うものであるなら(都市再生特区は、まさしく、この軸線)、負の効果は著しく減じることが出来るだろう。供給量が大幅に増えるわけではないし、公共インフラの負担もさほど大きくは増えないからだ。

都市計画法的な区分

では、なぜ、都市部では出来ることが、地方部ではできないのか。

これには、いろいろな理由があると思うが、一つの理由として、地方部では都市計画法がうまく機能していないことがあると思っている。

もう30年以上前に習ったことなので、間違っている部分もあるかもしれないが、都市計画法の視点から日本の土地を区分すると以下のようになる。

都市計画法は、面的整備の誘導および規制を行える(多分)唯一の法律であるが、これが有効に機能する区域は、図のAとCしかない。ただし、Cの市街化調整区域は、明示的に開発を「全面抑止」されるということだから、良質な開発という点で言えばAのみとなる。

いわゆる、都市計画的な手法、支援制度なども、このAを対象としたものが多い(多分、ほとんど)。

Eは、都市計画区域外であるから、そもそも面的開発に対する発想がない。Dは、都市計画区域に準じるものとされているが、「作ってはいけないもの」を指定できる程度であり、大きな誘導も規制も展開できない。他の法規制(例:自然公園法、農地法)によって抑制されている場合が多いが、その隙間であれば、自由度は高い。

沖縄県で大型ホテルが立ち並ぶ恩納村はE。同じく、近年、大型ホテルができてきている竹富町もE。
北海道のニセコエリア(倶知安町、ニセコ町)は、EからDに変更したことで、一定の制限は可能となったが、Aほどの誘導・規制手段を講じることはできない。

結構、問題なのはB。都市計画区域は、本来的には開発を行う市街化区域と、開発を抑止する市街化調整区域に分けるのだが、Bは、そのどちらにもついていない。都市計画区域なのだが、開発OKなのかNOなのかはケース・バイ・ケースということになる。そのため、実質的にはDやEに近い扱いになる。

で、地方では、このBが多い。例えば、長野県の山ノ内町、野沢温泉村、白馬村は、それぞれ、志賀高原スキー場、野沢温泉スキー場、八方・五竜・47スキー場を要するリゾートエリアだが、全面的にBとなっている。

Bは、AとCに区分しないことで、高い自由度を持っているが、それが良い方に向かうには、コミュニティがしっかりと機能し、各主体が自律的に調和を考えて動く必要がある。ある意味、性善説に立った区域設定だと言えるだろう。が、悪意(というか我欲)への対抗力は低い。外部の事業者にとってみれば、開発OKで(=市街化区域で)、強い規制もない(=区域区分なし)と見えるからだ。

言い方を変えると、日本の地方部は、都市計画法に基づく規制を入れ込まず、地元コミュニティの調和を前提とした発想となっている。そのため、いざ、外部から投資がドンと入り、開発計画が出されてしまうと対抗できないということになる。

なお、草津町や豊岡市の城崎地区は、同様にB区分であるが、しっかりと用途地域指定がなされている。もともと、地勢的に中心性が高くスプロール開発が起きにくいことに加え、用途地域指定がなされていることが、良質な空間形成に繋がっていると言えよう。

A区分のリゾート

一方で、A区分にリゾートがある場合もある。例えば、京都市は当然ながらA区分。京都は、ここ10数年で、強烈に街区整備を進め「これこそ京都」という空間を作り出してきているが、A区分だからこそとも言える。

また、松山市の道後温泉のエリアも、都市計画的手法で面的リノベーションを展開している。もともとは、耐震基準への対応がきっかけではあったが、温泉街が計画的に面的再生されていく姿は、凄まじいものがある。

いずれも、都市部のエリアであり「そもそもリゾートなのか?」という疑問もあるだろうが、都市計画的手法が使えることが、観光面でも良質な空間を創造しうる事例と言えるだろう。

法的根拠あるリゾートマスタープラン

もともと、都市計画法が想定しているのは、経済成長期の都市開発モデル。都市部に人口が集中し、都市圏が膨張していく時代の法律である。これは、国土レベルでの土地利用の変化であり、それをどのように誘導し、規制するのかというのが主眼であったと思う。

対して、リゾート投資というのは、必ずしも、既存の市街地に連単した地域ではなく、人口集中(増大)地域でもないところで行われ、その規模も「市街地」と比べれば、小さなものである。

そのため、都市計画法が、リゾートも網羅し、対応するというのは構造的に難しいのかもしれない。

ただ、現状、都市計画法以外に、地域単位で強烈に用途地域を指定し、開発の方向性を誘導、規制する法体系に乏しいのが実情だろう。景観法を応用したり、独自に条例を作ったりすることで、対応は可能だけど、どうしても後追いになりやすい。

投資の波は、一気にやってくる。それに振り回されないように、中長期的な展望に基づいたマスタープランを持っておく必要があるのではないだろうか。現在でも、観光振興計画や、マスタープランと呼ばれるものはある(私も策定のお手伝いをしている)けど、法的根拠があるものではない。

都市計画法に基づくのか、他の法律に基づくのかはわからないが、小規模/飛び地のようなエリアにもA区分のような誘導・規制策を展開できるような法的根拠をもったマスタープランを作っていくことはできないものだろうか。

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