まとめの2回目は、「地域」について考えて見ましょう。
米国のホスピタリティ産業などにヒアリングに行って、結構、戸惑うのは、「地域」の概念の違いです。
日本の場合、観光と地域、そして企業とは、渾然一体となった印象があり、地域も主たる主体の一つとなっています。
でも、米国の場合、あまり、そういう意識が無い。こちらがそうした質問をしても、皆、質問の意図が理解できない。
もちろん、米国にも観光協会は多くの地域にあります。ちょっとしたデスティネーションであれば、観光案内所もほぼ確実に存在しています。
米国では、道路際での広告が規制されていますが、観光案内所などは、オフィシャルの交通案内板でも案内される場合も多く、目立つ存在です。
ただ、実のところ、日本と同じような観光協会(CVBもしくはVB)のように見えても、内実は、民間ベースのホテル案内所、紹介所であったり、もう少し、発展して、日本で言う着地型旅行会社であったりすることも少なくありません。つまり、行政的な色合いはほとんど無い。
大きなディスティネーションにおいては、CVBからDMOにその形態を変化させてきていると言われます。
DMOは、デスティネーション・マーケティング・オーガニゼーションの略称。CVBとの違いは、現地に来た来訪者をお世話するのではなく、現地に来させることを担うというところでしょう。もちろん、CVBでも、「現地に来させる」ということはミッションの一つですが、どちらかと言えば「受け」の立場。DMOとすることで、よりアクティブに、「現地に来させる」事を考えて行くということになります。
こう見てくると、日本の観光協会と組織形態はともかくとして、取り組み内容はあまり変わらないように感じますが、実際には大きく違います。
まず指摘できるのは、DMOは、業界団体の互助会的な機能はもっていません。こうした機能は、別途、ホテル協会などが担っています。
日本では、むしろ、両者が融合する方向にありますが、こちらでは、明確に区分されています。
これは、両者が向かう方向が別だからです。DMOの対象は来訪客ですが、業界団体は対行政、対他業種という図式となります。来訪者にとって、必要な事は、自分の好みや予算にあったホテルなり、レストランなりが利用できる事であって、別に、その地域のホテル業界が潤うことではありません。よって、DMOがなす事は、ホテルやレストランを平等に紹介することではなく、顧客の嗜好にあわせて選択し、紹介することになります。これは、ある場合、業界団体の利益とはバッティングする事になります。
例えば、タイムシェア。これは、私の調査で、そのオーナーが非常に高いディスティネーション・ロイヤリティを持っており、かつ、地域への経済効果も高いことが解っています。しかし、タイムシェアは、業種としては不動産になるため、ホテル協会などとは対立関係にあります。仮に、DMO=ホテル協会である場合、ディスティネーションにとって高い資質を持つタイムシェアを排除する、制限する方向に向かいかねません。
DMOは、地域に来訪者を呼び寄せるために、顧客の嗜好を調べあげ、その嗜好に対応するように、地域のあらゆる資源を選択し、組み合わせ、効果的なチャンネルを使ってプロモーションしていくことが、そのミッションとなります。そして、その時の基準になるのは、地域にもたらされる経済価値です。
オーランドやハワイ、ラスベガスなどの大型DMOは、その財源に、宿泊税を充てるようになっています。その上で、自らの活動によって、それ以上の経済価値を地域にもたらしていることを証明していくことが求められています。つまり、直接的な独立採算ではありませんが、地域への経済価値という形で、自らの存在価値を示しているわけです。
「顧客を来訪させること」が明確なアウトプットであり、そして、経済価値がアウトカムになりますから、それを実現するためのマーケティングは、非常に重要な位置づけとなってきます。
一方で、日本の多くの観光協会は、今ある資源、それも従来型の(声の大きい)資源を、「売る(セールス)」ことに取り組んでいる状況にあります。ここでは、マーケティングとセールスの違いは論じませんが、顧客からの視点で地域を見るのと、地域の事情から顧客を見ることによる違いということが出来ます。
このように、マーケティングが主体なのだとしたら、地域内の連携はどうしているのかといえば、DMC(ディスティネーション・マネジメント・カンパニー)という会社があります。これは、日本の現状の着地型旅行会社に近いもので、地域の交通やホテル、観光施設などをパッケージングして、実際に来訪した顧客を支えます。
ただ、DMCは、マネジメントといっても、道路を整備したり、看板を掲げたりといったことをするわけではありません。あくまでも、それは、行政マターであり、交通局なり都市局の担当となります。この辺は、日本とも同様。
その上で異なるのは、観光分野が地域にとって重要だと「有権者の支持が得られる」のであれば、かなり大胆なデザインをほどこすということです。例えば、クリアウォーターでは、ビーチサイドを大胆にリノベーションしていますし、オーランドでも、コンベンションセンターの周辺(インターナショナルドライブ)は、他のブロックとは異なる仕様としています。また、全体として屋外広告規制が厳しい中において、高速道路上には、WDW、シーワールド、ユニバーサルの出口案内がオフィシャルで、ちゃんとあります。(これは、日本でもあります)
また、コロラドでは、ストリームインプルーブメントとして、河川の改修をおこなっていましたが、これも、同様の位置づけにある公共事業と言えるでしょう。
さらに、民間事業としては採算性において困難だが、地域のホスピタリティ産業振興には有効であり、投資額を考えても、中長期的にはプラス効果を得られるような事業、具体的には「コンベンションセンター」の設立も、行政が行います。
ただし、そのための、専用の地域債を起こし、民間市場からその資金調達を行うと言うところが、大きな違いでしょうか。
つまり、無秩序に、税金を投入するわけではなく、その資金源が非常に明確であると言うことです。このことは、もちろん、返済計画も非常に明確、オープンな状態にあることを示しています。オーランドでは、宿泊税が、その返済に充てられています。
なお、オーランドの場合、DMOと、コンベンションセンターの運営は組織を分けていますが、ラスベガスは一体化しています。個人的には、機能面で考えれば、両者は分けておいた方がすっきりするような気はします。
そして、こうした公共投資は、地域のグランドデザインをふまえた戦略的な視点で決定されています。端的に言えば、「ピンポイント」で投資がなされます。オーランドでは、コンベンションセンター周辺だけが「別規格」です。クリアウォーターでも同様です。その代わり、そのエリアには、ホテルを集積させ、レストランを集積させ、公共系の交通機関も集積させます。そうやって、その地域を集中的に盛り上げるわけです。
実のところ、米国。とくにフロリダは、山が無く、でかい道路が縦横無尽に走っていますから、おもいっきりスプロール化しています。当然、ホテルもあちこちにありますし、あちこちにショッピングモールがあります。でも、地域として、行政として、オーランドの顔とする部分はぐっとしぼり込んでいます。
総じて言えることは、企業活動が先にあって、その企業活動をより効果的に引き出す、振興させる、または、個々の企業では解決が難しいが全体であれば解決が可能(採算面を含む)な分野に限って、行政が支援するという図式があります。これは、こうした図式でなければ、納税者の支持が得られないと言うことと裏返しでしょう。
これが、地域というものの概念や、地域(行政)へ求めるものの日米の違いでしょう。
なお、スプロール開発が多い所ですが、開発可能エリアと、禁止エリア(保護エリア)の区分は、とても明確です。自然地域や歴史文化地域は国や州、または、群などの公園、保護区として指定されています。さらに、開発エリアであっても、ビーチへのフリーアクセスは保証されており、ホテル宿泊者などでなくても、自由に、ビーチに出ることが出来るように開発されています。これらは無料か、有料でも安価に提供されているため、地域住民がそれらを楽しむことに何の問題もありません。(むしろ、ローカルの人が知っている所の方が、空いていて、快適)
ガンガンに開発を進め、商業的な成功を求めるところがある一方で、開発を規制し保全も進める。こうしたメリハリが出来ているのも、一つの特徴でしょう。
日本においても、地域と企業、または、開発エリアと非開発エリアなどについて、再考すべきかもしれません。