帰国早々に、私が事務局をやっているMLのメンバーの方から、「為替レートと訪日客の関係あると思うので、検証してもらえない?」と言われました。
技術的には、そう難しいことではなく、私としても興味があったので、やってみようと思いつつ。ぶち当たったのが「為替レートの過去データが取得できない」という問題。
特に、ウォンとか台湾ドルなどは、一般的なFXの対象となっていないこともあって、適当なデータソースを見つけられず、そのまま、ずるずると来てしまいました。
ということを改めて、思い出し、再検索してみたのですが、やはり、発見出来ず。
その代わりと言うことではないですが、以下の研究論文をみつけました。
http://www.jterc.or.jp/kenkyusyo/product/tpsr/bn/pdf/no28-01.pdf
北海道の観光振興計画を対象としたものですが、この中で、北海道への訪日観光客と為替レートの関係が統計的に検証されています。
この結果を見ると、為替レートは、各国において(水準には差はありますが)有意な要素であることが示されています。
ただ、全体としての説明力は高くないので、為替レートが、大きな要因になっているとは言い切れない部分はあります。
また、今回のように、経済危機と連動した為替レートの急変動は、為替レートというよりは、経済環境の問題と考えた方が良いでしょう。
また、本件については、以下のサイトも参考になるでしょう。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/6900.html
ここでは為替レートと、出国・訪日人数比率との関係が示されています。
このデータの読み取り方は、いくつかあると思いますが、バブル期のように、為替変動に、日本人の出国者数が連動しなくなっていることは、市場の質的な変化を示していると考えることもできると思います。
ミクロ的に考えると、バブル期のように、円高と、そもそもの内外価格差を背景にした「買い物」が目的の場合、為替レートの影響は非常に高いですが、近年では、以前ほどの内外価格差は存在せず、少々の為替レート変動では、あまり「お得な買い物ツアー」とはならなくなっています。
航空券も様々な購入ルートがあるので、為替レート変動で、「得」「損」という違いが生じにくくなっています。
ダイレクトに関係してくるのは、現地での宿泊代や食費などですが、これも、FITの場合、対応の幅が大きい(選択するホテルグレードなどの影響の方が大きい)。
つまり、以前ほど、為替レートが及ぼす影響は低くなっていると考えることが出来ます。
また、PLC、プロダクトライフサイクルの考え方で見ることも出来るでしょう。PLCは『導入期』、『成長期』、『成熟期』、『衰退期』の4つに区分できますが、日本人の海外出国は、出国者数から見る限り、成熟期から衰退期にかかっていると言えるでしょう。
一方、訪日は、まさしく成長期に入っています。この成長期は、市場規模そのものは増大しますが、一方で、参入事業者(地域)も増大しますから、単価の減少が平行して起こることになります。
こうした単価減少傾向の中で、さらに為替レート変動がネガティブに効いてくると、結果として、思ったほどの成長カーブにならないことが予想されます。
ただ、今後、成熟期に向かっていくことを考えれば、価格競争(単価の減少)はさらに激化します。しかも、その競合先は国内だけではなく、東アジア全般となります。単純な価格競争では、東アジアに対して勝ち目は無いですから、何かしらの付加価値を創造し、サービス価値を高めていくことが必要でしょう。
(なお、衰退期に入ると、撤退する事業者が出てくるため、結果的に、価格競争の色合いが薄まり、単価は上がると言われています)
以上を整理すると、以下のような事が指摘できます。

  1. 為替レートは、訪日客の増減に有意な影響を持っている
  2. ただし、その影響は限定的であり、それだけで大きく変動するわけではない。
  3. 他方、PLCの考え方に従えば、普及していく中で、単価の減少、顧客の価格志向の高まりは必然的に生じる

これを考えると、中長期的に価格競争力(サービス価値)を高めつつ、自動車産業のように、突発的で急激な為替変動への対応にも備えておくということが必要なのかも知れません。
個々の事業者が、ここまで対応するのは難しいですから、もしかしたら、何らかの金融系保険商品などが有効になるかもしれませんねぇ。

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