観光の話をする際、いわゆる「専門家」になるほど、薄れがちな視点に「需要」概念があります。

観光が、ある種の経済的取引である以上、市場は需要と供給のバランスによって成立する訳ですが、「専門家」ほど、供給サイドに意識が集まりがちなように感じます。

端的に言えば、「良いもの」「本物」をつくることが、観光需要を呼び込み、持続性確保に繋がるという発想です。

この発想は、「製品主義」として、しごく、もっともなものではありますが、この発想に従えば、1997年以降の国内宿泊観光旅行の低迷は、供給側が適切な対応を取れなかったことにある..という事になります。

ただ、19997年以降の低迷は、観光だけでなく、音楽CD売上、外食など多岐に渡っていることを考えれば、この発想は間違いだと言えます。
「観光業界」を含め余暇産業全体が、偶然にも、同時期に、致命的な失敗をしたとは考えにくいからです。

では、何が問題だったのかと言えば、需要側の経済要因と考えるのが自然です。
1997/98年を境に、総給与額は減少し、一人あたりの給与額が減少へと転換したためです。

そうした課題意識から、私の所属組織のデータを使って、2000年代に、発地と着地がどのように推移したのかということをまとめたのが、以下の資料です。

参考:観光需要の構造(経済力と人口視点から)

この資料が示すように、宿泊観光旅行の市場は経済力と人口規模のかけ算によって、決まってきます。

端的に言えば、需要規模は、経済力×人口で決まる。そして、その需要の受け入れ先(着地)は、発地からの距離(と経済力)に影響されるということです。

もちろん、細かい旅行先選択は、各地の取り組みによっても左右されますが、マクロ的にみれば、着地では左右できない大きな経済動向、社会動向によって大きな潮流は規定されているのだと言う事を意識したいところです。

なお、本参考資料は、博士論文作成時に、検討しながら、途中でボツとした(論文から除いた)ものです。

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