「所有と経営の分離」によって固定資産を軽くする

こうした構造をみると、宿泊事業は日銭商売とも言われ、経理的には、ほぼ毎日、資金の出し入れがあるにも関わらず、財務的に資産の大部分を固定資産に取られ、自由度が低いということが解ります。

経理は日単位なのに、財務は数年(数十年)単位。さらに、日単位の売上は同時性(消費と提供が同時)を持ち消滅性(在庫できない)という特性を持ち、マーケティングや社会経済環境で大きく変化する…という複雑なビジネスモデルとなるわけです。

そこで展開されるようになったのが、所有と経営の分離です。

これは、宿泊事業に必要な固定資産を持つ事業体Aと、実際に日々の宿泊事業を行う事業体Bを分離するものです。

事業体Aは、固定資産(この場合は不動産)のみを持ち、所有に特化します。この事業体Aにとって宿泊事業に伴う不動産は、株式や証券などと同じ投資物件であり、利回りによって収益を確保することが目的となります。

これに対し事業体Bは、宿泊事業そのものに特化し、日々の営業の中でどれだけの利益を上げていくことが出来るかということが主眼となります。

事業体Bは、これまで財務を硬直化させていた固定資産の重みが無くなるため、状況に合わせたスピーディーな展開が可能となります。また、自分たちで資金調達しなくても運営受託という形で多店舗展開が可能となりますので、これまで難しかった2号店、3号店の展開も容易となります。

そうやって横展開できるようになれば、宿泊事業に関するノウハウが高まるだけでなく、消耗品などの購入においてボリュームディスカウントが使えるようになったり、スタッフの人材育成を一括で行う事が出来たりと、業務の効率性も高まることが期待できます。これは、生産性の向上に繋がります。

つまり、従来、固定資産に縛られ、特定の地域と紐付けされ多店舗展開が難しかった宿泊事業が、所有と経営を分離することで、経営ノウハウさえあれば、どこにでも自由に展開出来るようになった訳です。

これは宿泊事業のビジネスモデルを大きく変えるものとなりました。

不動産の証券化による所有の分散化

さらに、事業体Aの事業環境にも大きな変化が起きました。

不動産は高額のため、専業の不動産開発会社であっても多量の保有は経営リスクとなります。また、一般的な投資家にとっても、1つの事案に多額の投資を行うことはリスクを高める事になります。

例えば、100億円だけ投資額として用意できる事業者がいた場合、ちょっとした不動産開発であれば1つのプロジェクトで全額が消えてしまうことになります。これでは、所有と経営の分離といってみても、所有側(事業体A)のリスクが高くなりすぎます。

こうした状況に対し、90年代の後半から日本でも普及してきたのが、不動産の証券化技術です。

これは開発プロジェクトαに対し、事業体Aは別途、SPC(特定目的会社)を創設し、そこに他の企業や投資家から出資を募り、事業展開するという手法です。

仮に、このプロジェクトαに必要な資金を100億円として、事業体Aが50億円。残る50億円を10億円毎に5社に分割して出資してもらうようにすれば、投資のハードルが下がります。

さらに、このSPCは、そのプロジェクトαのみと繋がっていますので、将来的に、自身の持ち分を他社に売却することも容易となりました。

これによって、物理的に固定資産を持つ側も、権利を分散し、債権としての流通性を高める事が可能となり、不動産投資のハードルが大きく下がることになりました。

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