4.オフシーズン対策がなされ、生産性が向上する

ただ、ホスピタリティ産業の規模拡大に伴って、大きな問題となってくるのがオンオフ格差です。ピークシーズンに対応して施設を大きくすると、ピークシーズンの需要は取りこぼさなくなるとしても、オフシーズンには膨大な施設が休眠状態となるためです。

オンとオフの格差が大きいと、施設投資に対する利回りも低下しますし、雇用も断片的となるため、必然的に生産性は伸び悩む事になります。

これはいわゆる観光地だけでなく、都市部でも同様です。
都市部を支える業務需要は、観光需要に比すれば季節性は乏しい物の、曜日格差や時間格差は大きい。平日は多くの人が利用するが、休日は居ない。ランチ時間は大混雑するが、13時半にもなるとガラガラといった状況になるからです。

こうした状況は、ある種のガラスの天井となりますが、これをブレークスルーする地域が出てきました。

国内観光地で言えば、京都市や沖縄県、都市部で言えば大丸有や福岡市などですね。

これらの地域では、行政やDMO、または、エリマネ団体などが主体となり、オフシーズン(曜日・時間)対策に取り組み、需要の平準化に取り組んでいきました。

例えば、京都市にとって「冬」は、閑散期でしたが、各種のイベントや企画を集中的に投入する事で、閑散期の解消に取り組んでいます。

オンオフの格差が縮まると、安売りが不要となり平均価格が上がります。地域としての競争力が高まれば、オンシーズンでの価格を上積みする余地も出てきます。これらは、生産性の向上に繋がり投資家にとっても、従業員にとってもハッピーな状況となっていきます。

このように需要の平準化は大きな意味を持ちますが、重要な事は、この段階は、個々の事業者だけでは対応することは難しく、面的な連携、パートナーシップが重要になるということです。

5.ホスピタリティ産業が地域経済をリードする存在となる

一定規模以上の需要があり、かつ、オンオフ格差も低くなると、産業としての生産性は大きく高まる事になります。

観光市場の展望」でも述べたように、観光市場は経済要因によって規定されます。つまり、世間的な景気によって左右されるわけです。

この影響は、ここで示した段階の低い地域ほど、顕著に影響をうけることになります。逆に言えば、高い段階にある地域は、これまでのストックがしっかりとあり、自立的に需要を取り込んでくる手法も複数有しているため、景気の後退局面においても、その影響を押しとどめる事が出来る可能性が高いと考えられます。

更に、この段階まで来ると「「都市の時代」における観光地域づくり」で整理したように、集積しているホスピタリティ産業そのものが、地域のライフスタイルを具体的に提示するようになり、その地域に従来とは異なる「魅力」を付与することになります。

低段階地域でのホスピタリティ産業は、他産業の従属変数でしたが、この段階にくると、その地域経済を自立的な存在となります。そうなると、このホスピタリティ産業を幹として、他の産業が張り付いていくという従来とは逆パターンの動きが出てくるようになります。

例えば、ハワイでは、環境技術の導入が積極的に進めれていますが、この動きと観光とは不可分の関係にあります。ハワイという存在と環境は一体的だというだけでなく、「ハワイで宿泊税を更に増税か?」でも整理したように、その是非はともかくとして、環境対策で生じるコストを高い競争力を持った観光が担う構造にあるためです。

「観光で稼ぐ」というのは、ここまで来て、ようやくに至ったと言えるものなのではないでしょうか。

産業政策への視点を

今回は、観光振興の段階をホスピタリティ産業の視点から整理しましたが、これには意味があります。

それは、日本の観光振興において「産業政策の視点」が乏しくないですか?という課題意識です。

多くの地域の観光政策は「第1段階」のものに偏っています。もちろん、人を呼び込むことは、全ての原点ではありますが、人を呼び込むだけでは、産業は興りません。
人の呼び込みとあわせて、どういった事業をそこに併走させ、第2段階に至るのかという戦略が必要ではないでしょうか。

そうした戦略が無いまま、人の呼び込みだけに注力すると、産業が芽生えずゴミだけが残されるといった事態や、「外資」に美味しいところだけを持って行かれるという事態にもなります。

また、既存の温泉地は第2段階までは来ています。これを第3段階に引き上げるのに必要なのは、産業の生産性を高めるための取り組みです。にも関わらず、第1段階のように単純な「人の呼び込み」に注力するのでは、産業の生産性は高まりません。第3段階に向けて、オンシーズン対策は各事業者に任せ、地域としてはオフシーズン対策のみに注力するといった位の割り切りも重要でしょう。

更に言えば、どの段階においても、「うまくやっている」事業者もいれば「行き詰まっている」事業者も居ます。「行き詰まっている」事業者を救済するのか、退場を促す(新規事業者に代替する)のかは各地域の判断ですが、どちらの選択を取るにしても、それに即した産業政策が必要となります。

宿泊事業との付き合い方」に示したように、宿泊事業は、そのビジネスモデルを大きく変えています。こうしたダイナニズムを踏まえた産業政策の視点を持つ事が有効なのではないでしょうか。

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