Discussion of Destination Branding.

「悪の帝国」に対抗した町

強いホスピタリティ企業を作る方法」で取り上げたベイルリゾート(以下、VR)は、そのあまりに強大な競争力が故に「悪の帝国」とも揶揄される存在です。

その「悪の帝国」に挑み、街づくりの財源を勝ち取った町がコロラドにはあります。

その町の名は「ブリッケンリッジ」。

現在では、北米最大級のスキー場を抱えるリゾートであるブリッケンリッジ・タウンは、もともと、鉱山町として発達したところです。そのため、いわゆる旧市街(ダウンタウン)は、低層の建物が並び、「古き良き時代」を彷彿させる建物も多く残っています。

ブリッケンリッジ・タウン

こうした歴史的なストックを活かし、同タウンでは、旧市街に歴史的街区芸術振興街区を指定し、その保全や振興に取り組んでいます。

交通問題の勃発

そうした「街づくり」において課題となっていたのが交通問題。

ブリッケンリッジは、デンバーから日帰り可能な場所にあるため、週末ともなれば、多くのスキーヤーが同町を訪れます。ただ、もともと鉱山町であった街区に隣接する山岳部にスキー場が開設されたため、スキー場のベース部分は平地に乏しい状態です。

そこで、スキー場(VR)では、ダウンタウンに隣接した場所に巨大な駐車場を整備し、中央にゲレンデアクセス用のゴンドラを設置しました。これによって、平地が乏しいスキー場ベース部まで乗り入れなくても、顧客はゲレンデにアクセスできるようになったわけです。

スキー場側から俯瞰。正面左側が駐車場。その中央部にある建物がゴンドラ山麓駅。

これは、スキーヤーの立場で見れば、非常に快適です。
さすが、顧客の経験価値の増大に取り組むVRと言えるでしょう。

ただ、この煽りをくらったのがブリッケンリッジ・タウン。

VR設置の駐車場が快適になれば、多くの人たちが、車で来訪するようになります。が、駐車場がダウンタウンに隣接しているとはいえ、そこは米国のサイズ感。駐車場から、てくてく歩いてダウンタウンへ…という距離感ではありません。ダウンタウンへ繰り出す来訪者の多くは、VR設置の駐車場から車を出し、ダウンタウン内に車で移動してきます。
米国の町なので、グリッドパターンで道路は整備されているものの、駐車場の多くはいわゆる「路駐型」。そのため、絶対的な駐車台数は少なく、停める場所を探して回る車や、指定外への駐車によって混乱が起きることになりました。

特に、多くの日帰り客が訪れる週末の混乱は激しく、ブリッケンリッジ・タウンとしては、その対応が求められるようになりました。

リフト券税の導入

日本の感覚で言えば、民間企業が集客してくれ、それが街中への回遊に繋がっているのだから、駐車場など交通対策は行政で行おう…となるところ、ブリッケンリッジ・タウンでは、交通対策にかかる費用について利用者に負担してもらおうという選択をします。

まず、ダウンタウン内の駐車場は、それまで無料でしたが、原則有料に。いわゆるパーキングメーター形式の導入です。余談ですが、米国なのでクレジットカード決済となり、料金収受の手間はかかりません。

平行して取り組んだのが、VRに対して「スキー場を訪れる日帰り客が原因なのだから、彼らに一定の負担をさせろ」という要求でした。端的に言えば、リフト券に課税させろと要求したわけです。

VRは、ブリッケンリッジ・スキー場のポテンシャル(デンバーから相対的に近く、ゲレンデの魅力も高い)を最大限に活かすため、コンドミニアム開発などによる宿泊客増だけでなく、駐車場整備によって日帰り客の取り込みも図ったわけですが、その戦略がタウンにネガティブな効果を与えているのだから、その補填をしろというわけです。

なお、ブリッケンリッジ・タウンには、すでに宿泊税は存在しています。その税率は3.4%(別途、消費税が2.5%)。

ただ、これは宿泊客が対象です。ダウンタウンの交通問題を引き起こしているのは、スキー場利用の日帰り客であるため、宿泊税は、対策の原資にならないとタウンは判断したわけです。

当然、VRは簡単に「そうですか。了解しました。」とはなりませんでしたが、タフな交渉の結果、2015年、リフト券税の導入に至りました。その率は4.5%。VRの1日券は「時価」ですが、仮に$150の場合、$7くらいが加算されることになります。

ブリッケンリッジ・タウンでは、これを原資に駐車場の整備を進めています。しかも、「将来的には自動車利用が減るかもしれない」という想定も立て、他の用途にも転換可能な設計としています。

持続的な地域振興に対し、何が必要なのかということを十分に議論し、実行に写していることが伺えます。

街づくりと産業振興

このブリッケンリッジ・タウンの取り組みは、地域が民間と連携しながら、観光地域づくりを進めていく際の、一つの事例になるでしょう。

ブリッケンリッジ・タウンにとって、VRは、強大な民間資本であり、ある種の企業城下町とも言える構造にあります。それであっても、VRの言いなりになるわけではなく、かといって、VRに敵対するわけでもなく、両者は、それぞれの立場で、ある種のパートナーシップを実現しています。

ダウンタウンの交通混乱は、今の流行言葉で言えば「オーバー・ツーリズム」です。が、それを単に否定するのではなく、行政と民間が、それぞれの立場をぶつけ合って、最終的には税方式を導入することで、「オーバーする」需要を受け流すことによって、官民双方で、地域振興の効果を享受していこうという選択をしたわけです。

課税される立場となったVRも、自分が対応できないダウンタウンでの交通渋滞を、行政が対応してくれるのであれば、それはさらに、顧客のブリッケンリッジを訪れる経験価値を高めることに繋がります。

また、このリフト券税は、ブリッケンリッジにて当日売りの1日券のみに課税されます。VRは、シーズンパスへの移行を進めていますので、リフト券税の導入は、間接的にVRのマーケティング戦略に沿ったものともなるわけです。

実際には、官民協議は、綺麗事だけではなかったようですが、官民双方が持続的な振興に向け、協議によって、妥協点を見つけ出していく。その際の選択肢に目的税が存在するということは、日本の観光リゾート地においても、多面的な考察ネタを提供する事例と言えるでしょう。

ブリッケンリッジのダウンタウン
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