2014年に始まった地方創生の動きの中から始まった観光振興への注目は、2105年に日本版DMOという「政策」となった。日本版DMO政策は、DMOとしての活動をしようとする法人を、まずは「候補法人」として登録し、その後、実績をみて本登録する仕組みとなっている。「明日の日本を支える観光ビジョン」では、世界水準のDMOを100作ることが目標とされているが、2019年6月現在、登録された日本版DMOは123法人、日本版DMO候補法人は114法人と数量的には、目標を上回る規模となっている。

この春には、「世界水準のDMOのあり方」について中間報告が出されているが、今一度、そもそもDMOとはなんなのかという事を整理しておこう。

https://www.mlit.go.jp/kankocho/iinkai/sekaisuijun-dmo.html

前提となる認識

DMOについて整理する前に、私が議論の前提としている認識を示しておく。

  1. 観光振興の主たるプレイヤーは、観光客に対して価値を提供するホスピタリティ産業である。
  2. 他の産業同様に、集客は、ホスピタリティ産業を構成する各種事業者が自立的に行うことが基本である。
  3. 観光集客の「競争ポイント」は、事業者単位から地域単位(デスティネーション)へと変わっている。
  4. 地域単位で競争力を得るには、官民や民民のパートナーシップによる取組が必要である。
  5. パートナーシップによって、ホスピタリティ産業が振興されても、必ずしも地域振興とはならない

DMOは欧米で、その基礎的概念が形成されたものであるが、その背景となる理由は、前述の3以降にある。要は、ホテルなど個々の事業者の取組だけでは「勝てない」時代に突入する中、事業者の枠を超えたパートナーシップ組織が必要となり、それまでの観光協会のDMOへの定義替えとつながった訳である。

この辺の背景は、地方創生を背景とした動きからつながる日本版DMOとは異なる。その意味で、日本版DMOには、日本版として独自のミッションがあるとも考えられるが、本稿では、前述した「認識」に基づいた整理を行う。

求められる3つの取組

DMOは、官民/民民でのパートナーシップによって、地域単位で観光の競争力を高め、その恩恵を地域に広げることが基本的なミッションである。

これを具体的に実践するのに求められる取組を、非常に端的にまとめれば以下の3つに集約できる。

  1. 価格に依存しない「経験」の提供
  2. オフシーズン対策
  3. コミュニティとのコミュニケーション

まず、競争力は、最終的に価格に反映される。基本的に安くすれば、売れるからだ。パートナーシップを組んでまで取り組んで、安売りによる集客を行うのであれば意味が無い。地域のいろいろな主体、資源、そして需要トレンドなどをふまえ、競争力を持った(=価格競争力を持った)観光経験を作り出し、提供していくことが求められる。

第2に求められるのは、オフシーズン対策である。私は、これがDMOの最大ミッションだと考えている。事業者は、基本的に売上が立てば収益を確保できるが、季節や曜日による繁閑が激しいと、雇用が細切れとなり労働生産性(=1人あたり給与額)を低下させるだけでなく、オーバーツーリズムなどによって地域にも大きな負荷をかけることになる。

また、繁閑差が縮まると、民間は施設の稼働率が高まるため、追加的な投資を行いやすくなる。これは、観光客の受け入れ容量を増やすことになり、経済規模の拡大につながる。

さらに、オフシーズンの集客は、事業者単体では対応が難しい。オフシーズンは、もともと一般的な観光的な魅力が乏しいから、オフシーズンとなっているからだ。これを解消するには、MICEのように「その時期に来訪しなければならない」理由をつくることが求められるが、これは、パートナーシップがなければ実現できない。

つまり、「地域」が観光による恩恵を受けるには、繁閑の差を無くしていくことが必要であり、かつ、それを実現できるのはパートナーシップがあればこそである。DMOの最大ミッションとする所以である。

第3に求められるのは、コミュニティに対し、観光と地域との関わりを伝え、観光振興に対する肯定的な意識を形成することだ。第1、第2の取組のためには、行政側が一定の支出を行うことが必要となる。また、観光客の来訪は、地域住民にとってストレスともなる。そのため、行政が観光振興に対して取り組むことについて理解してもらうことが、地域の持続性において、非常に重要となる。
さらに、コミュニティから観光振興に対するフィードバックを得ることで、ちゃんと、地域が振興されているのか、豊かになっているのかを確認することができる。これは、地域にとっての究極の目標となる。

しかしながら、事業者は営利事業者であるから、事業者自身がそれを伝えることには限界がある。「なぜ、あなたが儲けるために、我々が我慢しなければならないのか」と問われても答えることが出来ないし、コミュニティからのフィードバックも受け難いからだ。一方で、行政は、それを伝え、フィードバックを得ることが出来る立場にあるが、ジェネラルな政策を担う行政が、観光政策だけを特別にコミュニケーションし続けるというのは、いささか非効率だろう。

その点、パートナーシップ組織であるDMOは、最適な位置づけにある。
DMOとしては、コミュニティに対し、地域と観光の関わりをしっかりとつなげることで、自身の活動基盤が強固となり、それが第1、第2の取組を可能とし、地域振興の実現に寄与していくことができるからだ。

目的から手段をシンプルに考える

マーケティングを活用しようとか、データから考えようとか、多様な主体と連携しようといった日本版DMOの要件は、別に、間違ったものではない。

具体的な取組内容をガイドラインとして示すことも、方向性を示すものとして有効だろう。

ただ、そうやって手段が明示されてしまうと、その手段を取ることが目的化してしまうことが少なくない。なぜ、マーケティングが必要なのかといえば、競争環境だからだし、データが必要なのは、ロジカルに考えることが有効だと考えられるからだ。つまり、それらが目指すことは競争力を得ること(第1の取組)に対し、それが成功確率を高める(失敗確率を下げる)と考えられているからにすぎない。

競争力を得ることが出来るのであれば、芸術的なセンスで独創的な取組をしてもよいし、何らかの方策で投資を呼び込み資金量で押し切ったって良い。別に、手段は一つではない。
※そもそも、皆と同じことをやっていたら、競争には勝てない。

その意味で、ここであげた3つの取組みも、すべてのDMOに必ず必要なわけでもないし、その重要度もDMOによって異なるものである。例えば、取組1は事業者が提供できる場合だってあるだろう。もっと言えば、DMOそのものが不要な地域だってある。

究極の目的である「観光で地域を元気にする」ということを常に念頭に置いて、手段をシンプルに考えていくことが重要である。

なお、そもそもデスティネーション・マネジメントとは何かということを知りたい方は、以下を参照ください。時代的な変化も含め、網羅的に整理していますので。

https://www.jtb.or.jp/publication-symposium/book/tourism-culture/tourism-culture-234destination-management/

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