このところ、地域に行くと、ほぼ確実に出てくる話題が「人材」問題である。

この人材問題は、2種類あって、1つは、宿泊事業などで従業員が確保できないという「人手」の問題。もう1つは、DMOや行政(嘱託職員)などの地域マネジメントを担う「人財」。

いずれも大きな問題であるのだが、私がより「深刻」だと思っているのは「人財」の方である。

このブログでは、再三、日本、特に地方において、サービス経済社会への適合が進んでいないことを指摘しているが、適合を進めるには、このパラダイムに対応した取組をリードし、地域マネジメントする人財が必要と考えるからである。

しかしながら、ともかく、「人が居ない」。

人財確保が難しい理由

人財の確保が出来ない理由は、地域マネジメント人財に求められるスペックの高さに比して、プロの職業として確立されていない事にあると考えている。

プロの職業として確立されていないために、その職を目指して、自身の時間と費用を投入しマネジメント能力を高めていく人材が限定されるためである。

確かに、近年は、地域独自の予算措置に加え、地方創生に伴う交付金や、出国税に伴うDMOに対する人件費補助によって、一定程度の年収が提示されるケースは増えている。ただ、多くの場合、旅行会社などからの出向者によって、人員が構成されることが多い。結果、微妙に現場に「はまらない」。

もともと、地域マネジメント人財に求められる知識と経験は広範であり、大学などだけで習得できるものではない。その習得には本人の資質に加え、中長期的な経験(学習)が必要である。

地域マネジメント人財に求められる能力

知識や経験の習得に時間が必要であるということ自体は、どの職業においても必要なものであるが、問題は、そうやって積み上げた先の「出口」が不明瞭だということだ。

経験値をあげ前述の「能力」を持つに至った人財は、非常に高次な人財であり、多くの組織で上層のマネージャーとして活躍できる水準にある。

こうした人財に対応するポストはDMOで言えば、事務局長となる。
しかしながら、このポストが一般公募される機会は乏しい。仮に公募されたとしても、権限/責任/報酬がバランスされた事務局長ポストとなれば、かなりの「レア物」である。

前述のように、現在は地方創生交付金や出国税に伴うDMO支援が人件費を充当しているが、こうした支援が5年、10年と続く保証はない。また、事務局長として責任は負わされる一方で、一般社団法人であるDMOは、そのガバナンスは社員や理事が主導権を握っており事務局長とはいえ、その権限は限定的であるからだ。

さらに、プロパー系の職員にはガラスの天井があって、事務局「次長」までしか登用されないという組織も少なくない。

なぜなら、事務局長以上は、行政や関連団体のポスト(充て職含む)となっている組織があるからだ。これはDMOが行政などの下請け組織となっているためである。「親」となる行政や関連団体としては、上位ポストを抑えることで、DMOをコントロールすることになる。

こうしたDMOにスタッフとして採用されても、その先のキャリアパスが用意されているわけでもない。

成功事例と注目されるようなDMO等を支えた「優秀」なマネジメント人材が、50歳を迎える前に、DMOを離れていってしまう理由はココにある。

若手においても、それぞれの生活があるから、単なる「志」だけで不安定な事務局長ポストを目指して、10−20年の時間を過ごすことは出来ない。

これが、私は、地域マネジメントが、プロの職業とはなりえていないと指摘する理由である。

人財不足への対応策

こうした構造において、地域側の都合だけを述べても、人財確保にはなかなかつながらない。

人財の立場となって、10−20年の時間軸で地域づくり人財を目指そうという機運を作っていかないと、人材そのものが生まれないからだ。

本来、行政や関連団体が、人財を確保したいというのは、自地域において持続的な観光地域づくりを展開していきたいという想い、ビジョンとセットのものであるからだ。

その「想い」に、「個人」を巻き込むのであれば、その個人の雇用に対して責任を負い、個人が自律的/自立的に成長できる環境を用意することが必要であろう。

その最も基本となるのは、財務も含めたしたたかな戦略である。
少なくても、人財の成長が(間接的に)財務の強化につながり、人財の雇用条件を良化させていくような仕組みをつくらなければ、人財を惹き付けることも、人財が自身のスキルアップに取り組むことも難しい。

そのために必要なことは3つあるだろう。

1つは、DMOに対するガバナンスを変えることだ。
マネジメント人財に対し、権限と責任、そして、報酬をセットで規定しなければ、人財は自立的に活動することは出来ない。
しっかりとした実績がある人財に対しては、事務局長クラスのポストも用意できるようなガバナンスとしていくことが求められる。

2つ目は、持続的で自立的なDMO活動財源を確保することである。
補助金や交付金などでDMO活動を支えることも不可能ではないが、それらは持続性に乏しく、また、使途について制限がかかることも多い。
さらに、この種の財源は観光振興に連動しないため、観光客数が増大しても増えることは無い。観光客数が増えれば、その対応に求められるコストも増大するため、観光振興に成功すればするほど、DMOの財務状況は厳しくなる。
これでは、マネジメント人財が自立的に活動することは困難である。

ガバナンスと財源が揃うことで、はじめて、人財は活きていくことになる。
現在、各地で宿泊税の議論が出ているが、それらと合わせて全体の仕組みを作っていくことが重要となる。

3つ目は、複数のDMOで連携し、共同して若手のインキュベーションに取り組むことである。多くのDMOは、規模が小さく、組織内での人間関係が大きく就労環境に影響することになる。また、活動の性格上、地域に密着すればするほど「濃い」人間関係が形成されることになる。いくら「志」があっても、こうした逃げ場のない職場に自ら飛び込むのは、なかなか厳しい。
また、仮に「飛び込んだ」としても、小さい組織/特定の地域でのOJTだけでは、変化し続ける観光振興の現場に対応していく知識や技術を得ることは難しい。人財の中長期的な育成を考えれば、適切なOff-JTと組み合わせスキルアップしていくことが求められる。

そこで、有効と考えられるのは、複数のDMOが連携することで、若手人材に対する基礎研修やフォローアップ研修を継続的に共同実施することである。これは、大手企業であれば当然のように実施していることであるが、それをDMO連携によって実現しようとするものだ。

新規採用時に1−2週間程度の集合研修を行うことで、DMOやデスティネーション・マネジメント/マーケティング/ブランディングに対する基礎的な知識を習得。その後は、半年後、1年後、2年後といった形で1−3日程度のフォローアップ研修を実施していくようなイメージである。

こうした「教育プログラム」があるということを示すだけでも、人財にとっては福音となるだろう。さらに、意味があるのは、特定の人財を対象に、地域の枠を超えた集合研修を反復的に行うことで、人財間に地域を超えた、利害関係のない横の連携が作られることだ。

お互いに業務に対する共通的な一定の理解があるにも関わらず、利害関係を持たず意見を言い合える関係というのは、なかなか乏しいのが実情である。大学などの同期は、必ずしも観光の現場には通じていないし、地域の観光関係者では利害関係がありすぎるからだ。

そうした中、前述のようなプログラムがあると、「同期」として、肩肘張らず愚痴をこぼしたり、悩みを相談したりできる相手を作ることができる。

実は、筆者は、同じようなコンセプトの研修プログラムを、以前、某県で実施していた。残念ながら、継続プログラムとはできなかったが、いずれ再チャレンジしてみたいと思っている。

人財の立場に立って考える

いずれにしても、そもそも少子化によって若手人口が減る中で、どこもかしこも人手不足となっている。その中で、相対的に「できる」人財を確保しようとするのであれば、雇用側の都合だけを述べても難しい。

人財が居ない…と悩む前に、人財を受け入れ、彼らの意欲を引き出していくことのできる体制となっているか。地域側も振り返ることが必要だろう。

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