仕事柄、年に数回、海外出張に出かける。
今の時代、どこにいってもネットへのアクセスは必須となる。

Wi-Fiスポットの整備は、どの国でも進んでいるが、基本的に空港や駅、ホテルといった点での対応であるから、移動中や(私の調査対象となることが多い)ビーチや山岳エリアでの利用は望めない。そのため、別途、通信環境の準備をしていくわけだが、以前は、Wi-Fiルーターを借りていくことが多かった。

Wi-Fiルーターの利点・欠点

Wi-Fiルーターを取り扱う業者は多く、サービスはこなれている。
例えば、ネット注文しておけば、空港でのピックアップもリターンも容易だし、細かい通信知識が無くても、旅行先から対応製品(サービス)を選べば、旅行先で「接続できない」というトラブルはほとんどない。

また、ルーターであるため、1台借りておけば、スマホやタブレット、PCなどを複数台接続することも可能である。出張の同行者ともシェアできるから、グループでの利用においても利便性が高い。

一方で、Wi-Fiルーターは、いくつかの難点もある。

まず、現地では常時Wi-Fi接続となるため、スマホのバッテリー消費が激しい。タブレットやPCはバッテリー容量が大きいため、さほど問題ないが、もともと、バッテリー容量が心もとないスマホの場合、かなり厳しい状況となる。

第2に、スマホはルーターに繋がっているのに、通信ができないという状況が頻発することが少なくない。
この原因は、ルーターが「圏外」となっていることにある。ルーターは圏外なのに、スマホとルーター間はWi-Fiで接続されているため、スマホからは「つながっている」ように見えてしまうのだ。
もともと、海外の場合、日本のように「津々浦々まで4G整備」となっていないことが多い。少し郊外にでれば3Gになったり、スキー場のようなところでは大手キャリアでも圏外となることは珍しくない。
であるが、ルーターだと、本体はカバンの中に入れていることが多いため、通信状況を確認しにくく、「つながらない」状態になってからカバンの中のルーターを確認すると圏外だったということになる。これは、結構なストレスだ。

第3に、スマホの通信設定を特別に行う必要がある。
国内で利用する場合、大量のパケットやり取りはWi-Fiに限定しているという人は多いだろう。例えば、YouTubeにHD動画を上げる…なんてのを4Gで行ったら、あっという間に利用パケットを使い切ってしまうからだ。
システム的にも、大容量となるシステムアップデートやアプリ更新もWi-Fi限定となっていることが多い。
ただ、ルーター利用の場合、スマホからはWi-Fiにつながっているように見えるから、そうした限定設定が効かない。そのため、大量のパケット通信を行うアプリは利用しないようにする必要があるし、自動更新系もその設定を止めておく必要が出てくる。
利用しているアプリの数が多いと、この手間は馬鹿にならないし、複数台を接続している場合には、それぞれで設定する必要があり、さらに面倒である。
ただ、これを着実にやっておかないと、余裕を持って借りたはずのルーターが数日で使えなくなるということが起きる。契約パケット量を使い切ってしまうからだ。

第4に、場所によってWi-Fiの接続設定を変える必要がある。
前述のように空港やホテルでは、Wi-Fi整備が進んでいるから、そうしたスポットにいる場合には、そちらを利用することで契約パケットを抑えることができるし、より高速・大容量な処理も期待できる。
ただ、Wi-Fiは一つしか接続先を選べない。複数のWi-Fi接続が選べる場合、スマホがどこにWi-Fi接続するのかという優先順位は、いろいろな要素で決まるが、海外出張のようなイレギュラーな状態への対応力は弱い。一度、接続設定しても、通信状態が変化したり、スマホがスリープモードに入るなどして、接続先が変わってしまう場合もある。そのため、ルーターを使うのか、現地のWi-Fiスポットを使うのかは、常に、手動で設定する必要がある。

第5に、価格がやや高い。
概ね1500〜2000円/日というあたりが現在の相場。これ自体は利便性を考えれば、まぁ、そうかなぁとも思うが、この利用日数は出国から帰国の期間で計算されるという落とし穴がある。つまり、移動日についても料金チャージされるということだ。さらに、現地でホテル滞在し、ホテルのWi-Fiのみでも対応できてしまった日でも、一律でチャージされることになる。

プリペイドSIMカードの利点・欠点

こうした状況をふまえ、個人としては数年前から、出張先で使えるプリペイドSIMカードを利用することが通常となっている。

プリペイドのSIMカードを利用すれば、基本的に、国内で携帯を使うのと変わることはないため、透過性の高い使い勝手を実現できる。基本的には4Gを利用しながら、Wi-Fiが使えるときだけ、Wi-Fiを利用するという国内では「当たり前」の使い方も容易である。日数ではなく、パケット量で価格が決まっているというのも、国内と同様。
さらに、多くの場合、現地の電話番号もついてくるから、現地での関係先との連絡も問題ないし、電話回線を利用したSMSも普通に利用できる。

ただ、このプリペイドSIMにも問題はある。

まずは、物理的にSIMカードを入れ替えるという作業が必要だということだ。
わかってしまえば、そう難しい作業ではないが、そういう作業自体が苦手という人も少なくないだろう。
私の場合、出国直前までは日本の回線を利用したいため、交換作業は、機内に入ってから…ということも多く、狭くて揺れることも多い機内での作業は、容易とは言い難い。
また、私のように国内でMVNOを利用している場合、その設定を一旦消して、帰国後に再設定するという作業も必要で、面倒である。

次に、SIMカード選びが厄介だということ。
海外で利用できるSIMカードは、Amazonで大量に出ているが、結構、当たり外れが大きい。国内同様に海外でも自身が回線を持っているキャリア(MNO)と、その回線を借りて利用しているキャリア(MVNO)がある事に加え、MNOでも通信カバー範囲にかなり差があるため、どの通信会社のSIMを選ぶかで、現地での通信環境が大きく変わるからだ。
また、SIMカードによってテザリングが出来たり出来なかったりするが、その可否が明示されていない商品が少なくない。
単純に高いSIMカードならOKというわけでもないところが悩ましい。
また、私はiPhoneを使っているため問題ないが、アンドロイドでは機種によって対応周波数が限定されており、有効なSIMカードを入れてもハード的に現地では利用できないということもある。
これらに対応するには、かなり技術的な情報を集めて検討する必要がある。

第3に、SIMロックの解除が必要だということ。
私はSIMフリーを購入するようにしているので問題ないが、キャリアから端末を購入した場合、SIMロックがかかっている。この状態だと、基本的に海外のプリペイドSIMは利用できない。これは後述のeSIMでも同様である。

eSIMの登場

こうした状況の中で、一部のスマホではeSIMが使えるようになっている。

このeSIMは、国内で使っている回線は活かしたまま、もう1つのデータ専用回線をスマホに付与する機能である。ソフト的な設定のみであるため、物理的にSIMカードを抜き差しする必要はなく、設定画面のみで導入から、導入後のオンオフまでが完了する。

契約手続きはすべてオンラインであるため、出国前に余裕をもってAmazonに発注する必要もないし、現地で契約を更新してパケット容量を増やすこともできる。場合によっては、他社のeSIMへ乗り換えることもできる(eSIMは複数契約しスマホにその情報を格納できるが、一度に利用できるのは一つだけ)。

利用中は、以下のように、2つの回線が活きている状態となる。もちろん、Wi-Fiも別途利用できる。

eSIMのUbigiともともとの電話回線がローミングされたA1の2つが表示
2つの回線およびWi-Fiの接続状況がひと目で確認できる
データや通信をどの回線で利用するのか任意に設定できる

まだ、このeSIMに対応している通信会社は限定的であるが、専用の検索サイトが出来ており、渡航先にあわせて選択することが可能である。
今回、私はここから、Ubigiを選択して利用した。

https://esimdb.com/ja/switzerland

今回eSIMを利用しての感想だが、プリペイドSIMの使い勝手をよりスマートにした感じで、非常に好印象だった。今回利用したUbigiの場合、アジアを含め、世界中に対応しているため、次回出張時も渡航先に合わせて再チャージするのみで利用できる見込みであることも大きい。

何を選ぶのが良いのか?

以上、Wi-Fiルーター、プリペイドSIM、eSIMについて整理を行った。

個人的には、今後の利用はeSIM主体になっていくだろう。ただ、万人に薦められるかといえば、そうでもない。

まず、eSIMは利用できる端末が限定的である。iPhoneで言えばXS、XR以降でないと利用できない。更に、対応端末であっても、SIMロックがかかっている場合、利用できない。

次に、契約はオンラインで行う…ということは、トラブル時の対応もオンラインとなる。通信には不具合がつきものであるが、何かあった場合でも、基本的に自分自身で問題を切り分け、解決することが必要となる。

あまり海外には出かけず、技術的なことはよくわからない…という人は、やはり、Wi-Fiルーターが最適だろう。多くの事業者は、電話によるサポート体制を持っているし、サービス選択による当たり外れも少ないからだ。実際、私は渡航先でルーターが不調になったことがあるが、サポートに連絡したところ、新しいルーターを(現地の支所より)ホテルに送ってくれて、2日後には新しいルーターで通信できるようになったという経験がある。
こうしたサポート体制を含んだ料金設定だと考えれば、納得できるだろう。

他方、海外旅行の頻度が多く、ともかく安くしたいという場合には、プリペイドSIMとなる。基本的に、料金設定はWi-Fiルーター>eSIM>プリペイドSIMとなっているからだ。SIMロック解除を含め、Wi-Fiルーターに比して、設定ハードルは高いが、経験すれば理解できることでもあるので、海外旅行に定期的に行かれるような場合には、まずは経験してみることから初めて見るべきだろう。
Wi-Fiルーターを超える利便性、自由度を得ることができるし、値段も安価だからだ。

その上で、国内と海外を意識しないような透過性の高い利便性を得たいという場合(で、対応端末を持っている場合)には、eSIMへのチャレンジを推奨したい。プレイペイドSIM以上に、未知の部分は多いが、これも経験してみればわかることでもある。2つのアンテナマークが出るのは、なかなか、楽しいですよ。

Share