2019年9月、スイス・オーストリアのMTB事情を把握するための視察ツアーを行ってきた。

私がMTBと出会ったのは、3年前。
北海道運輸局&倶知安町観光協会の調査事業関連での視察ツアーをスイスで行ったことがきっかけである。

視察の詳細については、スキーリゾート研究会において発表する予定だが、ここでは、山岳リゾートでのMTBアクティビティがどういったものなのかを感じられる3つの動画を出しておこう。

まず、MTBが「山を楽しむ」活動の一ジャンルであるということがわかりやすいトレイルの動画。ハイキングを楽しむようなトレイルを、そのまま、MTBで走行していくことがわかるだろう。

自然地形を活かしたMTBトレイル

スイス/オーストリアでは、MTBのバイカーとハイキングを楽しむハイカーとを差別していない。もちろん、トレイルの斜度や幅によってバイカー専用/ハイカー専用のコース設定はあるものの、同じ山と、自然を楽しむものとして一体的に管理されている。

MTBもハイキングも一体的に表示されるコースサイン

ただ、こうした自然地形を「楽しむ」には、それなりの技術が必要となってくる。また、ハイカー向けに整備されたトレイルはアップダウンが混在しており、下山であっても登ることが必要な場面も出てくる。
これでは、アスリート的な人でないと対応が難しい。

そこで、より簡便にMTBを楽しむことができるようにと整備されてきたのが、MTB専用コースとして、流れるように走行できるトレイルである。これらはフロートレイルとも呼ばれ、初中級者層の取り込みに寄与し、MTB市場の拡大につながっている。

ゼルデンのブルーライン(フロートレイル)
レンツァーハイドのブルーライン(フロートレイル)

前述の自然トレイルのような眺望感は乏しいが、トレイル表面はなだらかで、カーブも速度調整がしやすく作られているため、スポーツ・アクティビティとしてのMTBの楽しさを味わうことができる。

スキー場としては、量的に多い初中級者の取り込みができるだけでなく、折りたたむようにコースを造成するため、絶対的な投影面積が少なくてもコース長が稼ぐことができるという特徴がある。

MTBのデスティネーションとなっているリゾートにおいては、ダウンヒルと呼ばれる「飛んだり跳ねたり」コースも持っているが、これは競技対応を含めたシンボル的なものであり、実際の需要獲得はこうしたフロートレイルの良し悪しに依存している。

これは「ハードなコブ斜面」や「大規模なジャンプ台」は、スキー場のシンボルにはなっても、実際に、多くの顧客が楽しんでいるのは綺麗にグルーミングされた中級バーンであることを考えれば、わかるだろう。

さらに、ハイキングはスキー場だけで行われるわけではないのと同様に、MTBもスキー場だけではなく、地域全体で行われている。そのため、「山」のトレイルを街と繋ぐことで、そのリゾートでのMTB走行の魅力を立体的なものとしていくことができる。

林道から街へつながるMTBトレイル
街から山へと繋がるトレイル

MTBを山も街も楽しめるようにするには、街中のMTB走行環境はもちろん、その間を繋いでいくトレイルも「走って楽しい」環境であることが必要となる。

さらに、近年では、モーターアシスト付きのMTBであるeMTBが普及してきている。このeMTBを利用することで、(運動不足の)中高年者や女性など脚力が弱い人々でもMTB走行を楽しめるようになり、上り坂においては、特にその真価は発揮することになる。

このeMTBの登場によって、MTBの顧客層は大きく広がり、また、より短い時間で多様に楽しめるようになってきている。

実際、私も、3年前の視察時には鉄道を組み合わせて「1日」かけて回ったトレイルを、今回は3時間ちょっとで完走している。

eMTBを利用することで郊外ハイキングコースもMTBコースに

eMTBの普及によって、MTBと地域との関係性は、さらに大きく変わってきている。すなわち、山と街だけでなく、街と街、街と観光スポット(例:湖)など多様なノードをトレイルにてつなぎ合わせていくことが求められるようになっている。

しかも、これらのトレイルはバイカーだけでなく、「同じく自然を楽しむ」顧客であるハイカーも含めて考えていくことが求められる。これを実現していくには、地域の人々自体が自然を楽しむという文化、ライフスタイルが必要となる。

さらに、多くの地域がMTBに取り組むようになってきた現在、ブランディングを念頭に置いた取り組みも必要となってきている。これには米国的な戦略発想が必要となる。

今回の視察で感じたのは、既にMTBリゾートはスキー場だけの取り組みでできる水準を超え、地域全体で「戦略的」に取り組むことが必要となっているということだ。

これにキャッチアップしていくのは、スキー場地域における観光振興策について、いろいろとパラダイムの転換が必要となりそうです。さて。

どこをとっても絵になる街だから走っても楽しい(当然、電柱も電線もない)
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