コロナ禍への対応策は、現時点においては「隔離と検疫」という古典的な感染症対策しか存在していません。

どこまで隔離、他者との接触を避けるために行動抑制を行うのかというのは、コロナの感染拡大力によって定まってくることになります。
つまり、感染状況に応じて口頭抑制の度合いは変わってくるわけです。

隔離政策、行動抑制の水準は各国、それぞれですが、ニュージーランドの設定はとてもわかり易いので参考にしてみましょう。

  • Level 1 – Prepare: COVID-19が海外で制御不能な状態になっており、国内(NZ)でも、発生しているが、独立的にポツポツと発生している状況。
    • 海外からCOVID-19が入ってこないように国境を管理する。
    • 集中的にCOVID-19のテストを行う。
    • 陽性者に対する行動履歴調査を迅速に行う。
    • 必要に応じて自己隔離や検疫を行う。
    • 学校や職場はオープンする。ただし、安全に配慮する。
    • フィジカル・ディスタンスを保つ。
    • 集会の実施に制限は設定しない。
    • 体調が悪い場合には家に留まる。もしインフルエンザのような症状の場合には報告する。
    • 手を洗い、咳は肘で抑え、顔を触らないようにする。
    • 国内の移動については制限を設けない。ただし、体調が悪いときには公共交通機関は利用しない。
  • Level 2 – Reduce: コロナ禍は封じ込められていますが、地域社会への感染のリスクは残っている状態。また、家庭内感染が発生している可能性があり、単一または孤立したクラスターの発生もある。
    • 公共交通機関を含めて、家の外では1m以上のフィジカル・ディスタンスをとること。
    • 屋内では100人、屋外であれば500人規模の集会が可能。ただし、フィジカル・ディスタンスが確保でき、かつ、何かあった場合に追跡連絡が出来ることが必要。
    • スポーツやレクリエーション活動は可能です。ただし、集会の条件が満たされ、物理的な距離が守られ、域内での旅行であることが必要です。
    • 公共施設も、オープンできます。ただし、集会の条件が完全に守られ、感染症対策が実施されていることが必要です。
    • 健康サービスについては、可能な限り、通常通り運営します。
    • 多くの事業は営業可能であり、事業施設も適切な対策を行っている従業員や顧客が利用できます。ただ、リモートワークやシフト制の導入、柔軟な休暇取得など代替策の利用も推奨されます。
    • 学校や幼児教育センターはオープン。また、自己隔離など学校に行けない人のために遠隔学習を利用できます。
    • 地域を横断する不要不急の旅行は避けてください。
    • 高齢者や既往症のあるようなリスクの高い人達は、可能な限り家に留まり、もし、外出するときには、十分な感染症対策を行うことを推奨。働くことは可能です。
  • Level 3 – Restrict: コロナ禍が存在しているリスクが高い確率であります。地域において、感染が拡がっている可能性や、新しいクラスターが発生する可能性があります。が、これらはテストと追跡によって制御できる状態にあります。
    • 人々は、必要な個人的活動(職場に行く、学校に行く、自宅周辺で体を動かす)以外では、家に留まるよう指示されます。
    • 公共交通機関を含め、屋外では2メートルのフィジカル・ディスタンスが必要です。なお、学校や職場など管理されている場所では1メートルとなります。
    • 人々はすぐ近くの家族で安全な場所をつくり、そこに留まる必要があります。これを拡大して親族と繋がったり、介護者を連れてきたり、孤立した人々をサポートしたりできます。ただし、この拡張された「安全な場所」は排他的なままである必要があります。
    • 幼稚園や小学校は、安全であれば開業できます。ただ、受入人数の制限は必要であり、可能な限り自宅学習が求められます。
    • 原則、在宅勤務(リモートワーク)となります。
    • 企業は施設を開けることはできますが、顧客と物理的なやり取りをすることはできません。
    • リスクが低く、地域内で行われるレクリエーションは可能です。
    • 図書館や博物館、美術館、映画館、フードコート、ジム、プール、公園、市場など公共の場は閉まります。
    • 結婚関連や葬式などでは10人までの集会が可能です。ただし、フィジカル・ディスタンスを取り、感染症対策が取られることが必要です。
    • 健康管理サービスは、ネット利用として、可能な限り対面での対応はやめてください。
    • 地域を横断する旅行は、社会生活に必要な業務関係者や他者と接点を持たないごく一部の人を除き禁止です。
    • 高齢者や既往症のあるようなリスクの高い人達は、可能な限り家に留まり、もし、外出するときには、十分な感染症対策を行うことを推奨。働くことは可能です。
  • Level 4 – Eliminate: コロナ禍が収まっていない状態。地域で感染が拡大しており、拡散し、新しいクラスターが発生している状態。
    • 生活に必要な行動以外、家に留まります。
    • 安全なリクリエーションを、地域内で行うことは可能です。
    • 旅行は厳しく制限されます。
    • 全ての集会と、全ての公共の場は閉鎖されます。
    • スーパーマーケットや薬局、病院、ガソリンスタンドなど生活に必要なサービスおよびライフライン関連以外の企業は閉鎖されます。
    • 教育施設は閉鎖されます。
    • 可能な範囲で配給を受けたり、施設利用を要請することができます。
    • 医療サービスは、優先付けされて運用されます。

ニュージーランドではレベル3を3/23、レベル4を3/25に発出しています。その後、新規感染者数は4/6くらいから減少傾向にトレンド変化しています。そして、4/27に、感染拡大が抑え込めてきたとして、レベル4からレベル3へと下げました。

実際、4/20頃から、1日あたりの新規感染確認者数は10名以下となっており、落ち着きを見せてきています。

ただ、ニュージーランドでは、新規感染者数がそこまで少なくなっている現状でも、やっとレベル4からレベル3に下げたに過ぎないとも言えます。

さて、日本の緊急事態宣言・自粛と、ニュージーランドでは体系が違うので、直接比較はできませんが、概ね、現在の緊急事態宣言・自粛は、レベル3に相当すると考えて良いでしょう。
ちなみに、東京の場合、都知事の自粛要請が3/27で、緊急事態宣言が4/7。新規感染者数が減り始めた(移動平均ベース)が4/15となっています。

こうしてみると、行動抑制をかけてから、新規感染者数が減少傾向に転じるまでの期間が2週間くらいかかるというのは共通。ただ、ピークアウト後の下がり方は、東京都と比べて、ニュージーランドの方が大きい。

人口の規模も分布も産業構造も違うので、一概には言えませんが、強いロックダウンをかけても、感染拡大自体は2週間は止まらない。が、その後の収まり方は、行動抑制の強度によって変わってくると考えることができるでしょう。

「旅行」は「避けるもの」とされている

さて、ここから本題。

世界的に見ても、水際対策と国内対策が功を奏しているとされるニュージーランドは、現状レベル3。このレベル3では、地域をまたいでの旅行は「禁止」です。レベル2まで下がっても「自粛」レベルであり、OKとなるのはレベル1まで下がった状態です。

人と人との接触が感染源であり、有効な対策が隔離しかない中、地域外に旅行をするという事を、非常に大きなハードルとして設定していることがわかります。

対して、日本は、移動制限を緩やかにする方針で対応してきており、タイムラグはありますが、緊急事態宣言以降、実際、それで一定の抑え込み効果も出てきています。

ただ、移動を強制的に制限していないだけであり、県をまたいでの移動を自粛するようにというメッセージが、各県から、GWを念頭に、かなり強めに出されるようになっています。

また、クラスター形成が確認されていた「接待が伴う酒場」や「ライブハウス」などに限らず、商店街や、パチンコ屋、海浜、山岳など、人が集まるところについては、ほぼほぼ全て「危ない」「怖い」といった指摘がされ、自警的な取組が、各所で展開されるようになっています。

結果、宿泊施設の多くも、事業休止が求められる状況となっています。

これらは3月下旬に、都市部から地方部に感染が拡大したことを受けての対応であり、合理的な判断といえます。

ただこうした「感染の可能性が少しでもあるものは潰していく」というスタンスは、感染の急拡大期においては必要な対応ですが、ピークアウトした後については、対策の見直しを図ることも必要となるのではないでしょうか。ピークアウトするということは、2週間前から始めた対策が、功を奏したことを示していますが、それらが全て有効であり、効果的であったとは限らないわけですから。

ただ、現状、何が有効であり、何はさほど有効ではないのかという点について、しっかりとした分析が進んでいるように見えません。

例えば、いまや社会問題となっている感もあるパチンコ屋ですが、どれだけのリスクがあるのか、実際、どれだけの感染を発生させたのかについて、数値的に示された例を見たことはありません。キャンプ場も閉鎖となっていますが、どの程度の危険があるのかについて、検証された結果ではなく「危なそうだ」という感覚でしかありません。

ただ、緊急事態が永遠に続くわけでもないので、将来を見据え、こうした緊急避難的な措置から、科学的な検証を踏まえた、収束に向けた措置へと転換していくことが求められると考えています。

一方で注意が必要なのは、数値を使い科学的に見えるものの、その根拠やロジック、統計手法はかなりいい加減な「論考」が、広がってしまう傾向が見られることです。特に、極端な設定で、恐怖心を煽るような方向の論考が、情緒的な反応と結びついて、社会が動いてしまう部分もあります。

さらに、社会には、多様なステークホルダーが存在することを忘れ、影響を受ける人々に対する配慮を忘れ、排他的、攻撃的な言動を取る人たちも増えてきているように感じます。

特に首長級の人たちの発言は、その一部が切り取られ、伝言ゲームのように伝播していくので、十分に注意してほしいところです。

観光業界に求められる対応

情緒的な論調へ展開しやすい我が国の世論を考えると、放っておいて、誰かがキレイに交通整理して差配してくれる…と思うことは危険でしょう。

ましてや、観光は感染症対策と最悪の相性にあるので、緊急事態宣言が解除されても、観光が「一気に解禁」とはならないでしょう。仮に、それを行ってしまうと3月下旬の再来となってしまうリスクが高い状況です。

緊急事態宣言から平時へと戻っていくには、おそらく、何段階かのステップを踏んでいくことになります。現在の水準をニュージーランドでいうレベル3だとすれば、一旦レベル2を踏んで様子をみて、感染の再拡大が生じないことを確認した上で、その後レベル1へと移行していくことになります。

ただ、日本では、こうしたレベル設定はされていません。
そのため、緊急事態宣言が「終わった」後、どういうことが許される社会となるのかについて、共通の見解がない状態です。

さらに、観光に関して言えば、別投稿のように、コロナ禍が収束してきても、どこまで人の移動を許容できるかは、地域の医療サービス容量によっても変わってきます。

端的に言えば、大都市圏であれば、そもそも定住人口が多いため、定住者の行動抑制が緩和されれば、そこに観光客が加わっても、さほど問題はありません。
他方、人口の少ない地域では、医療サービス容量が小さいため、かなり慎重な対応が必要となるでしょう。

これを考えれば、国として一律で旅行を解禁するとか禁止するということの判断はできません。各地域において、顧客・事業者・住民の視点を交え、緊急事態宣言からの出口戦略、地域それぞれの「レベル2」を設定していくことが必要となるでしょう。

社会的位置づけ変化の懸念

出口戦略関連して、私が心配しているのは、観光が「悪役」となりつつある世論の動向です。

「観光」は、少なくても観光庁の創設以降、社会的に「正しいこと」「推進すべきこと」という扱いを受けてきました。そのため、途中で生じた政権交代でも、揉めることなく継続されてきたわけです。

しかしながら、このコロナ禍での対応を間違えると、観光産業、ホスピタリティ産業の社会的位置づけが、大きく変わってしまう可能性もあります。

コロナ禍が始まって以来の、地方の首長さんたちの発言や行動、さらには、地域の観光産業/ホスピタリティ産業への対応を見ていると、私は、そう感じざるを得ません。

私は、研究職とは別に、ゼネコン職員、国家公務員を経験していますが、社会から「叩いて良い存在」とみなされているセクターというのは、とても苦しい立場に置かれます。正論を述べる機会すら失われてしまうからです。

需要を失うだけでなく、社会的な支援すら失ってしまうかもしれない。
それくらいの危機感を我々は持って、事態に対応していくことが必要だと思っています。

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