2020年4月7日に首都圏などに発出された緊急事態宣言は、4月16日に全国へ拡大されました。現時点で、これが5月6日に終了するのか延長されるのかは確定していません。

ただ、GWによって感染が拡がるのか、抑えられるのかが解るのは、その2週間後ですから、普通に考えれば「延長」は既定路線でしょう。

これは、観光分野、ホスピタリティ産業に大きな痛手となりますが、実は、緊急事態宣言が解除されたとしても、その厳しい状況が大きく好転することは見込みづらいと私は考えています。

4月に入り、新型コロナの感染確認者は都市部から地方部へと拡がりました。

この拡がりが、緊急事態宣言を全国へと拡げた理由ですが、同時に浮き彫りになったのは、地方部における「感染症に対応できる医療サービス」容量の低さです。

もともと、多くの公的サービスの容量は、地域の定住人口で算出されています。医療サービスも同様で、地域のベッド数は地域の人口、年齢構成から算出される「医療計画」によって抑制が図られています。

しかも、この算出に用いられる係数は、いわゆる慢性疾患を対象としていますから、今回のような急性疾患への対応力は低く、もちろん、爆発的な感染症発生を想定したものでもありません。

この地域の医療ストック、容量に関する制約とコロナの特性とが、コロナ禍における地方部での観光振興を極めて困難なものとします。

観光の重要性が高い地域ほど定住人口よりも交流人口の方が多い構造にあるため、交流人口を含めた「人口」に対して医療ストックが決定的に不足していることに加え、新型コロナは潜伏期間が長く、無症状者も多く、感染拡大時には指数的に拡がるからです。

例えば、地域によっては感染症対策病床が片手以下というところが少なく有りません。そこで、1人の感染確認者が出た場合、市中には既に4人の無症状者がいる計算(=無症状となる確率を8割で計算)となり、時間経過と共に、その数は指数的に増大し、すぐに地域の医療サービス容量を超えてしまいます。しかも、感染確認者数の増大が目に見える頃には、既に潜在的に感染している人が多くいるため、行動自粛を行っても2週間くらいは感染拡大は止まりません。

あっという間に広がる感染

例えば、沖縄県の事例で見てみましょう。

沖縄県では4/3に11名だった感染確認の累計者数が、4/13には72人と10日で6倍以上に膨らみ、感染症対応病床数(74名とされる)に逼迫してしまいました。4月上旬からの「自粛」が効いて、新規感染者数が減り始めたのは15日頃であり、26日時点での累計数は137名に達しています(回復者も含む)。

この感染拡大は3月下旬の「緩み」にあるとされます。

例えば、沖縄県の美ら海水族館は3/2から3/15まで休館しており、3連休に向けて開業しています。結果的には、ここでの対応が、その後の感染拡大の呼び水となったわけですが、沖縄県内では2/21から3/21まで新規感染者数は確認されていませんでしたし、連休明け3/23に一ヶ月ぶりに1人確認されたという状況でした。その後もゼロか1〜2名という状況に留まっており、まとまった感染は4/4(5名)からとなっています。

3月下旬時点で、その後の感染拡大を「予想」し、観光を自粛することは難しかったでしょう。

ここで注目したいのは、「緩み」があったとされる3月でさえ、沖縄観光は全開だった訳ではないというこです。インバウンドはほぼゼロ。国内客も団体客も来訪せず、学生などの小グループ、個人カップル、そして業務客のみという状況で対前年で40%減という状況でした。

しかも、国立感染症研究所のゲノム調査によれば、3月中旬以降の感染拡大は、2月からの中国由来のウィルスではなく、欧米を経由して日本にもたらされたことが確認されてきています。つまり、国内に2月から蓄積されていたものではなく、3月になってからの日本人帰国者、海外旅行者がもたらしたものです。
ですが、3月時点で、日本人出国者数は96%減、外国人入国者数は93%減(いずれも出入国統計より)ですから、量的には、かなり絞り込まれています。

にも関わらず、あっという間に、沖縄県の許容量を超える感染者が出てしまったことになります。

つまり、現在の感染状況は、これでも、人の動きがかなり抑制された状態での結果です。

日本全体の感染者数は、欧米からの第2波を食らっている割には善戦していると言って良いでしょう。しかしながら、それは国全体のマクロな話であって、地方別にミクロに見れば、違う現実に直面します。

実際、沖縄離島など地方部では、感染症対応病床がごく僅かしかなく、1人でも出たら「限界」、即、医療崩壊してしまうという現実に直面してしまいました。

観光と感染症拡大リスク

新型コロナは、住民が域外から持ち込むケースもあるので、観光客が、その全てを持ち込むわけではありませんが、人と人との接触が引き金になる異常、観光客の来訪による感染リスクの増大を、医療容量の小さい地域は許容できないでしょう。
※医療容量が小さい地域は、定住人口も少なく、確率的に住民が域外から持ち込むケースも少なくなります。

そして、これは重要なことですが、実用的なワクチンが出来ない限り、コロナ感染は止まりません。自粛やロックダウンが行われるのは、ウィルスの撲滅のためではなく、感染者の急増を防ぐ(=医療崩壊を防ぐ)ためです。緊急事態宣言によって感染者を一定程度にまで落とし込むことは出来ますが、それは、感染力と自粛とがバランスされているに過ぎず、自粛を緩めれば、また、再拡大することになります。

これは第2波とか第3波と呼ばれるものですが、第2波や第3波の方が、社会に潜在している感染者数は多いため、感染拡大が起きると爆発的な展開となりやすいとされます。

実際、北海道は、3月の時より、現在のほうが感染者が多い状況です(2月と4月ではウィルスタイプが違うことが確定したので、現時点では、この考察はペンディング:2020/04/29)。

感染の再拡大を事前に予想することは困難であり、感染が確認された後には、地域の医療サービス容量を超える水準にまで指数的に拡がる…。
そう考えれば、今後、仮に緊急事態宣言が解除されたとしても、とても、観光客を呼び込める状況とはならないと考えるのが妥当でしょう。

となると、少なくても、医療サービス容量が少ない地域では、ワクチンが出来て、コロナ禍が「終息」するまで、観光は難しいということになります。

難局を突破する3つの取組

では、全く対応策は無いのか。といえば、私は、以下の3つをセットで展開することができれば、可能性はあるだろうと思っています。

  1. 地域ぐるみで感染症対策なサービス・デザインに転化する。
  2. 感染しているリスクの低い顧客を選別し、誘致できるようにする。
  3. 地域での感染症対応医療サービス容量を拡充する。

まず、「1」については、経済的な合理性とか、これまでのやり方とか、そういうことを一旦忘れて、感染症の感染拡大を抑止するサービス・デザインとは何かということから考え直し、そのデザインに向けて、サービス内容を再編することが必要でしょう。

例えば、乗り合いバスは厳しくなるでしょうし、ブッフェ形式の食事も同様でしょう。チェックインやチェックアウトで「並ぶ」こともNGとなるでしょうし、スポーツ・ジムやカラオケ・ルームなども根本的に考え直す必要があります。

現状、施設側で取られている感染症対策は、従業員の体温確認とか、各所のアルコール消毒といったものですが、そういうレベルではなく、構造的に感染原因となるポイントを潰していくことが必要になるでしょう。

端的に言えば、ソーシャル・ディスタンス、フィジカル・ディスタンスを「自然と」取れるようなサービス・デザインへの切り替えが必要だということです。

将来的にワクチンが開発されたとしても、完全に感染を回避できる保証は無いことや、顧客の心理に感染不安が残ることを考えれば、こうしたフィジカル・ディスタンスが織り込まれたサービス・デザインに転換することは、遅から早かれ必須となります。

一方で、こうしたサービス・デザインの変更は、当然ながら、対象となる顧客も変えていくことになります。ディスタンスをとれば、施設面積や人員あたりの対応可能数は下がりますから、価格を高くせざるを得なくなりますし、どんなに施設側がサービス・デザインを変えても、それを遵守できない顧客が来たら、その意味も無いからです。

そこで重要になるのが「2」の取組です。これについては別投稿で整理していますが、地域としてCRMを稼働させ、地域にとってリスクの高い顧客については「来訪を遠慮いただく」ことが出来るようにしていく必要があるでしょう。

これを実現することは、法的にも技術的にも容易ではありませんが、海外を含め、ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代において必須の取り組みとなっていくと、私は考えています。

供給側のサービス・デザインを感染症対応できるものとし、そこに、来訪前の行動を含め感染症に対して自律的な行動が出来る観光客が来訪するようになれば、相当量、感染拡大のリスクは低減できるでしょう。

ただ、どうやってもゼロには出来ません。そのため、一定の人数が、一定の期間にわたって来訪すれば、新規感染者は出てきてしまいます。これが、例えば、離島のように「1人出たら、もう限界」という地域であれば、深刻な事態となります。

一方で、「感染者が出ても、しっかりとした医療サービスが取られるのであれば、社会的に許容できる」ということであれば、対応策は出てきます。

医療サービスの容量を上げることで、対応可能な部分も出てくるからです。

特に人口の少ない観光地においては、感染症対応可能な医療サービス容量を上げていくことができれば、コロナに対する恐怖心も変わってくるかもしれません。

例えば、現在、一部のホテルが軽症者受け入れをおこなっていますが、これをよりシステム化していくことが考えられます。さらに、設備があっても人が居ないという現実がありますから、軽症者の経過観察や問診、食事などの提供方法、部屋の掃除/消毒といったものの機械化、オンライン化の取組を進めていくことで省人化を図ることが必要になるでしょう。

前述のサービス・デザインの変更とあわせて、こうした取組をホスピタリティ産業側が内包できるようになると、観光と医療とが、表裏一体の関係となり、平時には観光、有事には地域医療サービスのバッファにもなるといった構造を作り上げていくことも出来るかもしれません。

これも、各種の法的な制約に直面することになるでしょうが、医療サービス容量の増大は、観光振興と関係なく、地域にとって必要な取り組みとなりますから、国を挙げて取り組んで欲しいところです。

非常に厳しい現実

以上、述べてきたように、当面の間、もしかすると、ワクチンが開発された後においても、観光は、かなり厳しい状況に置かれることになります。

率直なところ、これを機会に観光から足を洗うということも、合理的な選択肢となるでしょう。

しかしながら、サービス経済社会となっている現在、観光、ホスピタリティ産業以外に、経済を牽引していくことのできる産業、地域振興策があるのかという疑問にも直面します。

かつて、我が国の自動車産業は、世界的に見ても厳しい排ガス規制をかけられました。これは、当時、社会問題化していた公害問題への対応のためでしたが、これをくぐり抜けたことで、我が国の自動車は世界的にもクリーンな自動車として、世界的な競争力を高めていくことに繋がりました。

現在のコロナ禍についても、正面からぶつかり、困難であっても解決策を見出し、展開していくことが、我が国の中長期的な成長の礎となるのではないでしょうか。

観光が、日本社会、経済において、しっかりとしたポジションを得ることが出来るのか。我々は、大きな分岐点にいると考えています。

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「観光分野における緊急事態宣言からの出口戦略」に2件のコメントがあります

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