以前、私は限られたデータを元に、GoToトラベル・キャンペーンが、どの程度の宿泊需要を喚起したのかについて推計を行いました。
※GoToトラベルの利用実績がアップデートされたので、更新しました。

その後、GoToトラベルおよび宿泊旅行統計調査(宿泊者数)のデータが出揃ってきましたので、改めて、整理を行ってみました。

GoToトラベル・キャンペーンは7月下旬から開始されますが、9月までは東京都は除外されていました。10月から、東京都が対象となり、さらに、地域共通クーポンが加わったことで、利用者数は急増します。宿泊需要に占めるGoToトラベルのシェアは8月の51.1%から、56.4%、68.6%と増大していきます。

ただ、11月になると出張や長期滞在が対象から外れるなどもあり、シェアは48.3%に減少。
※今後の集計データが精査されることで、上振れの可能性はあります。

11月のデータが更新されました。出張や長期滞在は対象外となったものの利用者数も増大し、シャアも74.8%とさらに増えることになりました。

このGoToトラベル効果もあり、7月、8月には対前年(日本人のみ)で大きく割り込んでいた宿泊需要は、大きく回復し、春以降、非常に厳しい状況に置かれていた宿泊業界は、一息付けるところまで戻っていました。宿泊業の回復は、飲食、物販、リネンなど、周辺産業にも大きな経済効果を生み出したと推測されます。

GoToトラベルという需要側を支援する施策の有効性が十分に示されてきたといえるでしょう。

GoToトラベルは第3波の主因か?

さて、このGoToトラベル。第3波の原因だとする論調が少なく有りません。

そこで、この送客データと、月別の陽性者数とを重ね合わせてみましょう。

まず、開始時期である7〜8月にかけては、GoToトラベル利用者と陽性者数の推移は比例しているように見えます。

ただ、その7〜8月にかけても、細かく見てみるとGoToトラベルの開始日である7月22日の前から陽性者は増大。開始から1W後には、陽性者はピークアウトし、その後、減少。つまり、7月に比して、8月の陽性者が多いのは、7月上旬から始まった感染拡大(第2波)のピークが8月上旬にずれ込んだためです。

実際、7月中の利用者は、10日間で207万人(21万人/日)。対して、8月は31日間で1,268万人(41万人/日)です。7月に比して、8月のほうが利用者が増えているのに、感染はむしろ縮小に転じていることを考えれば、GoToトラベルを「開始」したことが、7月中旬から8月上旬までの感染拡大に関係したとは言い難い。

また、第3波は11月から顕在化してきますが、GoToトラベル利用者は、むしろ、減少しています。速報段階では、12月の利用者は、さらに減速していることが指摘されていることと合わせ、第3波についても「GoToトラベルの利用者が増えたから、感染者も増えた」とは言えないでしょう。

第3波は、11月から顕在化します。GoToトラベル利用者は、10月から引き続き増大しており、この増大と感染拡大の影響については、慎重かつ多面的な分析が必要となりますが、旅行者の増大傾向は7月以降から続いており、感染拡大の波とは必ずしも一致していません。

こうやって整理してみると、GoToトラベルは、需要喚起において十分な効果を発揮する一方で、感染拡大に対する影響は確認できない(影響しているとは言い難い)ということになります。

にも関わらず、いろいろな言説が出てきてしまったのは、データを示すことが出来ず、データを元にした議論が出来ず、思い込みによって話が展開してきてしまったことにあるでしょう。

GoToトラベルの再起動が、何時になるかはわかりませんが、再開にあたっては、濡れ衣をかぶらないように、リアルタイムに近い形でデータを取得し、データを元に議論が出来るようにしていくことが必要でしょう。

なぜ、GoTo利用者数と感染状況が連動しないのか

GoToトラベルは、人の移動を促進させる施策です。

ウィルスは、人が運ぶものであるため、人の移動を促進させるGoToトラベルは「おかしい」というのが、疫学的な常識でもあります。

実際、人が移動することによる感染拡大のリスクは、ゼロではないでしょう。

一方で、結果として、GoTo旅行者数と感染者数との間に相関は見られません。

この「矛盾」が、混乱の元凶でもあるわけですが、現実に合わせて考えることが必要でしょう。

この矛盾は、GoToトラベルが、「ニューノーマルに対応した旅行の提供に資する取り組み」であったと考えることで解くことが出来ます。

GoToトラベルで旅行をしたことがある人なら自明ですが、交通機関も宿泊施設も、ニューノーマルへの対応をしっかりと行ってきています。事業者としても、スタッフに感染者を出すことは避けたい訳ですから、ある意味、当然のことです。もともと、宿泊施設はノロ・ウィルスのように感染症に対しての対応力は高いという側面もあります。

さらに、観光庁側も宿泊施設に対して、感染症対策のガイドラインを示し、その運用を「対象施設」ということで、促している。

旅行者も、旅行先で「コロナを拾いたくない」ですから、自制した行動をする人達がほとんどです。特に、第3者、他人との接触については、かなり慎重な行動をとります。

こうした両者の関係性から、旅行が生じても、感染拡大は抑制される…というのは、合理的な帰結でしょう。

もちろん、一部には、旅行だからといって羽目を外す人も居るでしょう。また、旧知の友人グループで盛り上がりクラスタとなる場合もあるでしょう。しかしながら、結果として、GoTo利用者の移動と感染拡大に相関が無いということは、そうした感染拡大に繋がる事案は、極小であったということになります。

日本の法制度では、人の移動を「禁止」することは出来ないし、宿泊施設に休業指示も出来ません。その状態で、野放図に、人々が旅行に出かけるよりも、GoToトラベルという補助制度とのバーターで、一定の責任を施設にも旅行者にも負わせるというのは、実は、とても有効な働きかけとなります。

むしろ、GoToトラベルがあったからこそ、人を移動させても、感染が抑制できたと考えることも出来るでしょう。

いずれにしても、人の移動が問題なのではなく、人々の行動と、環境が重要なのだということに意識を変えていく必要があるでしょう。

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