2回目となるCOVID-19対抗「緊急事態宣言(以下、SOE2)」は、昨日(3月18日)、3月21日で解除されることが正式発表されました。

SOE2は、GoToトラベルの休止とも密接な関係があり、観光領域にも甚大な影響を及ぼしました。

私は、COVID-19の感染拡大は、気象条件に大きく依存していると考えており、適切な防疫措置(いわゆるニューノーマル)を講じていれば、さほど恐れる必要はないという立場です。

一方で、2020年末からの感染急拡大は気象条件のみで説明できる範囲を超えていましたし、地域で散発したクラスタ発生は、ニューノーマル対応できていない所で発生していたことを考えれば、一定レベル以上に感染が拡大した場合に、SOE発出を行うことは否定されるものではないと思っています。

世の中から犯罪が無くならないように、人々の自主性だけで、自律的な行動を徹底することは困難ですから。

それと同時に、いわゆる「ゼロ・コロナ」については否定的です。「風邪」を撲滅できないことを考えれば、社会全体で行動抑制を行ったとしても、COVID-19をゼロにすることは無理でしょう。事実として、台湾やNZのように中国株しか無かった3月上旬タイミングでロックダウンをかけた一部地域を除けば、強いロックダウンをかけたしても、ゼロには出来ていません。

感染が大きく拡大していない間は「ダンス」し、感染が拡大したら「ハンマー」で自粛する。というハンマー&ダンスが唯一、有効な対処療法となるのだと思います。

その意味で、ハンマーであったSOE2が、どれだけの感染拡大抑止効果があったのかということを検証しておくことは必要でしょう。

まず、気象と感染拡大の関係性について整理をしておきましょう。

COVID-19との「付き合い方」や、検査方法(PCR検査)が定まってきた7月以降の湿度(平均水蒸気圧)と感染拡大(陽性確認者の2W前比)との関係をプロットすると、次図となります。

これを見ると、両者に一定の相関があることがわかります。特に、7-8月、9月以降というように期間別に見ると、その傾向は顕著です。近似直線(単回帰直線)をひいてみると9月以降は、7-8月よりも傾きが「寝ている」こともわかります。

この結果は、湿度と感染拡大には一定の関係があり、かつ、ニューノーマル対応が進めば、感染拡大は抑止されていくということを示していると考えられます。

それを踏まえた上で、SOE2期間に注目すると、明らかにSOE2以前の状況とは大きく変化しています。実際、SOE2発出の2W後には、それまで1を超えていた2W前比が、いきなり1を下回るようになっています。

が、同時に、SOE2の延長後は、その抑止効果が弱まり1に近づいていったこともわかります。

このことは、SOE2が感染拡大を強力に食い止めたが、期間が長引くにつれて、その効果が弱まっていったことを示しています。

SOE2期間中(3月17日まで)の東京都の陽性確認者の総数は、約2.5万人ですが、9月〜SOE2前の湿度と感染拡大の関係性(回帰直線)から、仮に、SOE2を発出しなかった場合の感染状況を推計してみると、約30万人となりました。つまり、SOE2を発出したことで、感染拡大を1/12に抑え込んだことになります。

SOE2は2月に延長、さらに3月に再延長されましたが、同様の推計を行うと2月延長では7,000人->12,000人、3月再延長では3,000人->4,500人となりました。つまり、2月延長では約6割、3月再延長では約7割の水準に抑え込んだことになります。

つまり、延長/再延長も感染拡大の抑止効果はあったものの、1月ほどのインパクトは無かったということがわかります。この辺は、我々の肌感覚とも合致します。

今回、SOE2の解除が正式発表された訳ですが、各所で「リバウンド」リスクが指摘されています。

湿度は5月くらいにならないと上がってきませんから、仮に、今後、9月〜SOE2前までの湿度との関係性のみで陽性者が出ていくとすると、当面の間は、感染は拡大していくことになります。

そこで、昨年の湿度データを利用して推計をしてみると、GW前となる4月下旬には1,000人超えとなる恐れがあることがわかりました。昨年のSOE1時、4月中はなかなか下がりきらず、5月に入ってからグッと下がっていった経験からも、4月中は感染抑制において結構厳しい気象条件であると言えます。

GoToトラベルの再起動もされていないのに、GW前には、東京都で1000人超え…というのは、観光領域にとって悪夢そのものです。

この「悪夢」を回避するには、COVID-19に対する社会の耐性を高めることが必要でしょう。7-8月期に比して、9月以降は、近似直線の傾きがグッと寝たように、ニューノーマル対応を進めることで、感染拡大を抑止することは可能だからです。

やり玉に上げられる飲食店でのニューノーマル対応というと、飲食店のアクリルパネルが良く取りざたされますが、気温や湿度が感染リスクを高めるなら、室内の気温や湿度を高めることで感染リスクを低く出来るかもしれません。また、無煙ロースターのようにテーブルごとに空気対流を起こすということもあるでしょうし、(よく出来た喫煙室のように)個室を陰圧にして隔離度を高めることもあります。これらはかなりの設備投資となってはいきますが、ここ数十年で衛生基準を上げてきたように、こうしたレベルでの対応も視野に入れていくべきでしょう。

GoToイートやトラベルは、避難の的となりましたが、これらは政府(行政)が飲食や観光といった極めて個人的な活動について「口を出す」ことの出来る制度でもあります。対応をすすめる施設に対して「需要」というインセンティブを与えることが出来るということです。GoToイートやトラベルが無くても、人々は、飲み食いし、旅行にも行くのですから、むしろ、そこに踏み込むことが出来る仕組みを留保し、関与する方が効果的でしょう。

インセンティブの無い自粛、行動抑制は長続きしないことは、SOE2が、延長されるに連れ、その効果を薄めていったことが証明しています。例えば、飲食店が閉まっていれば、部屋飲みするだけです。

もう一つは、医療サービス容量を増やすことです。SOE2は、通期で感染拡大を1/12に抑え込みましたが、仮に医療サービス容量を現状の15倍程度にまで拡大できていれば、SOE2発出をしなくても乗り切れたとも言えます。もちろん、社会としてニューノーマル対応を行うことは不可欠ですが、SOE、ロックダウンレベルの対応をせず、通常の生活に近い形で社会を回すことも可能であったと考えられます。

湿度が上がる5月頃までは、いわゆるリバウンドは起きます。が、それを問題視するのではなく、それを前提とした社会フレームを作っていくことの方が合理的で、全体最適につながるのではないでしょうか。

医療体制も含めた「ニューノーマル」の設定が必要なのではないかと思います。

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