はじめに

新型コロナ(COVID-19)が世界的な流行となって、はや1年。飛沫感染/接触感染によって拡がるコロナの特性によって、世界規模で行動の自由、集会の自由が制限されるようになり、国際化の進んでいた世界経済は、大きなダメージをうけている。

この「コロナ禍」に対抗するため、各国は様々な対応をとっているが、いち早く「鎖国」措置をとった少数の国や地域を除けば、コロナを封じ込めることは実現できてはいない。特に欧州では、感染拡大に伴い何度か強力なロックダウン措置を展開しているものの感染を収束できてはいない。

新型コロナは、呼吸器系疾患である。呼吸器系疾患は、一般に気温や湿度が感染拡大に影響することが指摘されている。新型コロナについても、中国の復旦大学の調査では、気温や湿度が上昇するにつれて感染者が減少することが指摘されている。一方で、同大学の他の調査や、上海の復旦大学では、そうした関係性は認められていない。

この他にも、季節性に注目した研究は複数行われているが、気温や湿度などの季節性と感染拡大の関係性は判然としていない。これは、感染は、気象条件だけでなく、社会で取られている感染症対策、ロックダウン措置なども大きく影響することも関係していると考えられる。仮に、低温や低湿度が感染を拡大させるとしても、それに合わせて感染症対策が強化されていれば、感染は抑制されることになるからだ。

そうした社会的措置が取られていないインフルエンザにおいて、季節性が確認されていることを考えれば、新型コロナにおいても、季節性は存在していると考えることが合理的である。季節性が存在しているのであれば、一定水準で感染症対策に取り組んでいても、冬になれば感染は拡大するし、春になれば感染は抑制されていくことになる。気象条件との関係性を把握できていなければ、社会的な感染症対策の強弱を考えることは出来ない。

欧州に比して、東アジアでの感染が抑制されていることを考えれば、特に湿度の影響は大きいと考えられる。

そこで、本研究では、東京都を対象に、新型コロナの感染拡大と湿度との関係について検証を行う。

先行研究

呼吸系疾患の代表例であり、新型コロナと比較されることの多いインフルエンザは、気温が低く、乾燥している環境で感染拡大しやすいことが指摘されている(Kari Jaakkola, et al., 2014)。日本の研究でも、インフルエンザは平均気温10度以下、湿度50%以下、水蒸気圧6ヘクトパスカル以下で感染拡大するという指摘がある(「気象と感染症流行の相関に関する研究第二報 -インフルエンザ流行の拡大因子は気温か、湿度か、その他か-」庄司, 1988)。

また、新型コロナは武漢で2019年12月、新型コロナ(COVID-19)のウィルス名であるSARSCoV2の元であるSARSが発生したのは、中国広東省仏山で2002年11月。いずれも気温が低く、乾燥した季節(と場所)である。

感染が拡大し始めた2020年冬、中国国内で、気象条件と感染との関係についていくつかの研究が出ている。

Ye Yao他(2020)や、Jingui XieとYoungjian Zhu(2020)の分析では、新型コロナと気象条件との関係性は確認されなかったが、Hongchao Qi他(2020)は、武漢がある湖北省で、気温や湿度が上がると新型コロナの感染が抑制されると主張している。具体的には、1日あたりの感染者が、摂氏1度上がるごとに36%〜57%減少、湿度が1%上がるごとに1%1%〜22%減ったという。

また、Stephen M. Kissle他(2020)は、感染に関係するであろう広範な要素からコロナ禍の動向について考察しているが、その中で、気象条件も一つの要素として組み込んでいる。

さらに、栗田他(2021)では、日本の感染状況を気象条件や人の移動量、GoTo施策などを説明変数、感染規模を目的変数として分析を行い、気温が有意な相関を持つことを示している。ただ、本研究では湿度は有意とはなっていない。

栗田他(2021)の研究は、GoToトラベルキャンペーンが、感染拡大に影響したのではないかという視点で行われているが、結果、むしろ、同キャンペーン実施後の方が感染が抑制されているという結果となっており、気温や緊急事態宣言が影響したことを示している。

ただ、本研究では、庄司(1988)では、平均水蒸気圧が重要と指摘されているにも関わらず対象となっていない。また、対象が日本全体であり、Hongchao Qi他(2020)が示したような具体的な気象条件と感染拡大との関係性は示されていない。地域によって、感染症対策の水準も異なっていることや、人口の少ない地域では特異なクラスター発生でも大きく感染状況が左右されることを考えれば、具体的な関係性を算出するには、一定程度の人口があり、継続的に同様の感染症対策が実施されているであろうと期待できる特定の地域を対象に、分析することが必要と考える。

そこで、本研究では、東京都を対象に、平均水蒸気圧と感染拡大との関係に注目し、具体的な係数を算出することを目的とする。

仮設設定

  • 平均水蒸気圧と感染拡大には関係性がある
  • 平均水蒸気圧と感染拡大の関係は、社会的な感染症対策の状態に影響を受ける
  • 社会的な感染症対策の水準が戻れば、平均水蒸気圧と感染拡大の関係も復元される

分析手法

平均水蒸気圧は、気象庁のサイトより東京都心部の日別データを取得した。

感染状況については、新型コロナが感染から発症(陽性者検査で判明)までに10日から2週間ほどの時間差があるとされることから、2週間前の陽性確認者数と比較することとした。ただ、増減の実数は、2週間前の陽性者が多い時ほど大きくなってしまい感染拡大(または収束)傾向を捉えるには不適であるため、2週間前との比を感染状況として利用することにした。

これにあわせ、平均水蒸気圧も2週間前の日別データを利用している。

すなわち、2週間前の平均水蒸気圧と、陽性確認者数の2週間前との比の関係について検証を行う。

対象期間であるが、陽性者数は社会でのPCR検査体制によっても左右される。日本では、当初、PCR検査数に制限があり、陽性率が高いにも関わらず検査数を増やすことが出来なかった。この状態と、症状があれば/濃厚接触であれば比較的広範に検査が出来る状況では、相対的な比較は難しい。

そこで、一定程度、PCR検査が広範に実施できるようになったと考えられる2020年7月からを分析対象期間と設定した。

その上で、分析対象期間を、第1期(7−8月)、第2期(9月ー2021年1月7日)、第3期(2021年1月8日ー2月7日)、第4期(2021年2月8日ー3月17日)と設定した。

これは、社会的な感染症対策(いわゆる「新しい行動様式/ニューノーマル」)による影響を検討するためである。2020年の夏は、第1回目の緊急事態宣言(State of Emergency/以下、SOE1)以降、徐々に社会活動が戻ってきたタイミングであったが、未だ、ニューノーマル対応は手探り状態にあった。社会活動が一定程度動き、それに合わせて東京都としてのニューノーマルが動き出したのは9月頃からと考えた。

さらに、2021年1月8日から、2回めの緊急事態宣言(以下、SOE2)が発出されている。宣言下では、感染状況も大きく変化すると予想されるため区分する。また、緊急事態宣言は、2度、延長されている。この延長によって、感染抑制効果が低下したとも指摘されているため、延長前後についても期を分けることとした。

結果

4期について、2週間前の平均水蒸気圧と感染拡大傾向(陽性確認者数の比/以下、2W前比)について、散布図を描いたのが、下図となる。

これより、第1期、第2期ともに平均水蒸気圧と感染拡大傾向については、有意な相関が確認できた。特に、第2期については、強い相関が確認できる。

また、第1期と第2期では、傾きが異なっていることも明らかとなった。第2期の方が、第1期よりも低湿度(低い水蒸気圧)でも、2W前比が低く抑えられる傾向にある。

さらに、水蒸気圧が変わらなくても、SOE2の発出によって、大きく2W前比が減少していたことも明らかとなった。ただ、第3期(SOE2当初)に比して第4期(延長後)では、2W前比は上昇していることもわかった。

これは、SOE2発出は感染拡大を強力に抑え込んだものの、延長するにつれて、その抑え込みの効果が弱まっていったことを示している。これは、社会での感染症対策水準が従前の状態に戻っていったためと考えられる。

仮に、平均水蒸気圧と感染拡大傾向の関係が普遍性を持つとすれば、社会での感染症対策水準が2020年秋(第2期)の状況に戻っていくことで、陽性者数は、第2期と同様の傾向を示すと考えることが出来る。

SOE2解除が言及されるようになった2021年3月17日時点の2W前比は1.08。この2週間前の平均水蒸気圧は4.40であり、ここから推計される2W前比は1.61。SOE2の効果が弱まったとはいえ、平均水蒸気圧から単純推計する水準の2/3程度に抑え込まれていたことになる。

人々はSOE2解除にあわせ、行動基準を2020年秋頃の水準に戻していくと仮定すると、2週間後には、平均水蒸気圧に応じた感染拡大状況となる(2020年秋と同様の関係性になる)と考えられる。SOE2解除から2週間後の4月5日の2週間前(すなわち解除日となる3月22日)の平均水蒸気圧は7.50であり、ここから単純推計する2W前比は1.52となる。

そこで、2W前比が1.08から1.52に徐々に上昇し、その後は、平均水蒸気圧に従い推移すると仮定し、推計をおこない、それが、実際の陽性確認者数とどの程度合致するかを検証した。結果、4月5日までの実績で、的中率(推計値÷実績値)の平均は105%と非常に高い水準で推移していることが確認できた。

これにより、先に設定した3つの仮説は、いずれも検証された。

まとめ

この結果は、栗田他(2021)の研究結果と同様に、気象条件やSOE発動が感染拡大傾向に影響することを示している。なお、栗田他(2021)はGoToトラベルキャンペーン開始後の方が、感染が抑制されたと主張しているが、本研究の結果は、GoToトラベルキャンペーンの実施時期に合わせ、社会全体での感染症対策のレベルが上昇していった可能性も示している。

具体的には、第1期では、1ヘクトパスカル下がると2W前比が0.12上昇したのに対し、第2期では0.03の上昇にとどまるようになっている。
※誤差範囲の算出は割愛

SOE2発出により、感染症対策のレベルが上がることで、大きく感染拡大は抑え込めることも確認できたが、延長後は徐々に、その抑え込み効果は薄れていったことは、長時間に渡り、SOEクラスの対応を取ることは難しいことを示している。SOE2解除後は、第2期の水準に戻りつつあることを考えれば、持続的に対応できる感染症対策レベルは、2020年秋水準であると考えることも出来るだろう。

また、2020年秋水準の感染症対策レベルが維持されると仮定すれば、本研究の成果を活用することで、今後、2週間程度の陽性者数推計が可能となる。現在、我が国のコロナ禍対策は、陽性確認者数という2週間「前」の結果を受けて行われている。しかしながら、湿度から2週間後を展望するようになれば、医療体制の準備を含め、その対策は大きく変化することになるだろう。

さらに、気象条件という恣意性が入らない変数を元にした推計値を予め設定しておくことで、実績値との乖離状況から、問題点や成果を浮き彫りにすることも可能となる。推計値をこの推計値を大きく上回る場合、何かしら感染拡大につながる新たな問題が出てきたことを示すことになるし、逆に下回る場合には、感染症対策レベルが上ってきたことを示すことにもなるからだ。

その他、湿度が感染拡大に影響するということは、現場レベルでの感染症対策についても、有意な知見となるだろう。現在の感染症対策では「換気」に強い注目が集まっているが、湿度が重要なのだとすれば、大気が乾燥する時期には、むしろ、加湿の方が重要となる可能性があるからだ。

コロナ禍より1年。本研究が、今一度、基本に戻り、科学的な対応をとっていくことに期待したい。

リミテーション

本研究では、東京都のみを対象としており、湿度(平均水蒸気圧)と感染拡大の関係性が他都市や他国でも、同様に成立するのかについては確認していない。

また、新型コロナの感染から発症までの期間については、様々な研究があり、必ずしも、本研究で設定した2週間という期間が適切なものとはならない。

これらについては、後続の研究に期待したい。

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