ワクチンの効果

少なくても、現時点で、ワクチンが、感染、発症を低減させる効果(ゼロにするわけではない)があることは、わかっています。

例えば、現在、感染が非常に拡大している沖縄県ですが、市町村別にワクチン接種率と新規陽性者数の関係を見てみると、以下のようになります。

ワクチン接種率は、過去データが無いので、時系列的な検証は出来ないのですが、ほぼ、あきらかに両者には負の相関が確認できます。

特に接種率20-40%は、強い相関があります。

一方で、50%を超えてきているのに、多い市町村(石垣市や宮古島市)もあります。名護市や恩納村などは、接種率相応のポジションなので、観光だけの影響ではないとは思いますが、検証は必要でしょう。

下図は、各市町村の「非」接種者数と、新規陽性者数の関係をプロットしたものですが、これは、完全な直線的な相関となっており、「非」接種者が、感染拡大の原資になっている状況が伺えます。

ちなみに、回帰直線の係数は0.008なので、非接種者1000人あたり8人くらいが、2Wで陽性判定されている計算になります。
※実際には、接種者で陽性判定されているケースもあると思います。

ワクチン接種が進むのに、なぜ陽性者は増えるのか

他方、全体を俯瞰すれば、ワクチン接種率が高まっている/高い地域でも、陽性者は増える傾向にあります。

これは、一種の矛盾であり「ワクチン接種者がウィルスを拡散している」なんていう言説も飛び交う始末です。

が、これは、当初考えていた「ワクチン接種に寄る集団免疫」と、実際のワクチン接種者の分布が異なっていたと考えると、スッキリします。

当初は、ワクチン接種が拡がることで、ワクチン抗体を持った人々が社会に展開し、非接種者と非接種者の間で防壁となることが期待されていました。

が、実際には、もともと感染対策に高い意識を持っている人(=重症化リスクが高い、感染した場合の社会的影響が大きい)から接種が始まっています。ワクチン接種自体、副反応を含めリスクはゼロではなく、その予約なども面倒な作業となります。それを超えたリターンがあると思う人から接種が進むのは当然のことです。

今の時代、感染症対策に対する意識によって、行動パターンも異なるため、ワクチン接種者は接種者で集まり、非摂取者は非摂取者で集まる傾向にありますから、当初期待したようなワクチン接種者が防壁にならない状態となっています。

ワクチン接種による抗体保有者分布のイメージ(接種率6割)

人類の歴史で考えれば、感染による自然抗体による集団免疫が通常でした。

自然抗体は、感染しやすい人から獲得していくものなので、自然抗体が一定の比率で獲得されれば、感染しやすい人の郡の中で防壁が生まれることになったからです。

これまで「ワクチン」の開発には2−3年以上かかるというのが通常でしたから、自然抗体がある程度、広まったタイミングでワクチンが出てきて、自然抗体を持っていない人々(=感染対策に気をつけてきた人々)がワクチン抗体を得ていくことで、集団免疫が確立されていくという流れとなっていました。

今回、人類はmRNAという武器を手に入れ、かつてないスピードでワクチンを獲得したことで、早期収束の希望が出たわけですが、結局は、感染対策に対する意識の低い群に抗体(自然抗体であれ、ワクチン抗体であれ)が広まらないと感染拡大は止まらないということが見えてきました。

その理由は、ワクチン接種率(非接種率)と、COVID-19陽性者数との差が大きすぎるということにあります。

ワクチン接種率は海外事例を見ても、最大でも8割。日本では、おそらくは6割くらいで頭が打たれるでしょう。

対して、これまでの延べ陽性者数は、東京都ですら人口の2%以下です。となれば、仮にワクチン接種率が8割となっても、残り2割は、新規陽性者10年分に匹敵するボリュームです。6割なら、20年分です。

沖縄県の事例が示すように、同じ状況であれば、ワクチン接種率が高い地域のほうが、新規陽性者数は抑制されます。が、それは、地域間の相対で見て「少ない」という話であって、感染拡大そのものが止まるというものではありません。

例えば、沖縄県で言えば、2週間に未接種者1000人から8人程度が新規陽性者となる計算であり、未接種者が減れば、新規陽性者も減ることになる。ただ、沖縄の人口は150万人だから、接種率が8割となっても、30万人は未接種。単純計算なら2Wで2400人の新規感染者が出ることになります。これは、現状値よりは少ないけど、絶対数としては大きい。

COVID-19の感染力が高まれば、ワクチン接種で稼いだ抑制効果も消え去ることになります。

それは、接種率で先行するイギリスやイスラエル、アメリカが、デルタ株で、既に実証している世界です。

おそらく、今後、出現する株は、更に感染力を上げてくるでしょう。しかも、波状的な感染拡大の結果、市中の潜在的な陽性者は増大していますから、第6波、7波は、陽性者の絶対数を更に高めていくことになります。

本質的な終息は、COVID-19の弱毒化(治療薬含む)と、非接種者の自然抗体獲得しか無いかもしれません。

これは、誰にとっても、かなり厳しい未来予想図です。

ワクチンパスポートによる「区分」

さて、ここで我々は選択を迫られることになります。

1つは、今までのように、社会全体を一体的なものとし、ともかく人流を抑え込み、新規陽性者数の低減に取り組むもの。

もう1つは、ワクチン接種者と非接種者を「区分」し、前者については一定の自由度を与える一方で、後者については、従来以上の行動制限をかけるというもの。

COVID-19の感染力が増大していく中で、前者の選択を取れば、最終的にはロックダウンしか取る手段が無くなります。しかしながら、感染力がより弱いアルファ株(イギリス株)の時代でも十分に抑止する効果を持たなかったロックダウンによって、デルタ株以降の感染を抑え込むことが出来るとは思えません。

結果は、甚大な経済的被害と、極度に高まる社会ストレス、そして、その爆発…といった世界となるでしょう。端的に言えば、今の状況のさらなる悪化です。

後者の選択をした場合、マジョリティとなった接種者によって社会活動は回復されるものの、少なからず社会分断を招くことになります。ワクチンそのものも、接種後の時間経過による抗体レベルの低下、新株への抵抗力、ゼロとはならない発症、重症化率など、完璧な存在ではありません。そのため、その「穴」を巡る議論も百出し、多くの批判にさらされることにもなるでしょう。

が、この選択をしていく必要があると思います。

これを踏まえ、今後、いくつかのシナリオが考えられます。

シナリオ1

国が、ワクチンパスポート(ワクチン接種済み and/or PCR陰性証明 /以下、同じ)の基準を設定し、人の集まる施設などにおいて、その適用を義務付ける流れ。現在のフランス的なイメージ。

シナリオ2

各省庁が、自分の所管にあわせ基準を設定。例えば、文科省は学校、国交省は交通機関、厚労省が宿泊施設など。一定の条件を満たす施設について、その適用を義務付ける流れ。

シナリオ3

国や各省庁がワクチンパスポートの基準をガイドライン的に示すが、それを適用するか否かは、施設側の選択に任せる流れ。現在のコロナ対策認証のようなイメージ。

シナリオ4

国(各省庁含む)からは、基準は示されず、民間施設や業界団体で独自運用する流れ。現在の業界別コロナ対策ガイドラインのようなイメージ。

シナリオ5

まとまった動きはなく、地域や施設単位でワクチン接種者向けのインセンティブを展開する流れ。現在の沖縄県のブルーパワープロジェクトのようなイメージ。

「利用拒否」には法的根拠が必要となりますから、それが出来るのはシナリオ2までとなります。シナリオ3以降となった場合、ワクチンパスポートは、極めて限定的にしか意味を持たないでしょう。そして、現在の世論の状況から考えれば、シナリオ3以降の取組を行っても、社会的な「安心」を得ることは難しいと思います。

また、シナリオ1または2が展開された場合、反発も大きいでしょうが、ワクチン接種のインセンティブも高まるので、接種率が高まり、結果、感染拡大の全体的なリスクを低減させることが期待されます。他方、体質や宗教的な問題で接種できない人について、どう対応するのかという大きな問題も横たわります。「接種したい人」が速やかに摂取できるようにする体制づくりも必要でしょう。

地域での対応策

私は、国レベルでワクチンパスポートを打ち出してくれることが、Withコロナの社会において重要だと思っています。しかしながら、その実現のハードルが高いであろうことも感じています。特にシナリオ1レベルの対応は、深刻な社会分断を招き、非接種者に対する差別を助長し、感染するリスクの高い人達の行動を逆に制御不能なものとしてしまう可能性もあります。

これを社会的に「飲み込む」には、議論と時間が必要と思います。

そうしたことを考えると、国レベルでワクチンパスポートが実現できるのか?というのは、現状、見通す事ができません。

しかしながら、観光業界の苦境は、これ以上、先送りすることが出来ません。
冬になれば、ほぼ確実に、第6波が来ることを考えれば、この10−11月に、どこまで「息継ぎ」出来るかは、事業存続において重要事項となります。

国が導入するかもしれない「ワクチンパスポート」に全てをかけ、時間を経過させるのではなく、自力での対応策も検討しておくことが必要でしょう。

個人的に「推している」取組は、都道府県が旅館業法と連動する形で条例を制定することで、宿泊施設において、ワクチンパスポート「的」な世界を実現することです。シナリオ2を地域単位で展開するようなイメージです。

宿泊施設だけでも、ワクチンパスポートが前提となれば、宿泊者起点の感染拡大懸念は大幅に低下させられます。

観光に対する不信感の払拭において、これは重要な第一歩となるはずです。

Withコロナ下におけるレスポンシブル

ワクチン接種が進んでも、それだけで元の世界に戻りそうにはありません。

世界的なデルタ株による感染拡大を見る限り、ワクチン接種では新規陽性者の発生を抑え込むことは出来ないからです。

つまり、ワクチン接種は、個々人にとっては強力なCOVID-19対抗策となりますが、それは個人に帰結するものであり、社会に面的な拡がりをもつわけではないということです。

社会全体として、コロナ禍が終息するには、まだ、年単位の時間がかかると考えておく必要があります。

その「Withコロナ」状態において、どのように「非難されない」観光を取り戻すのか。

「ワクチンパスポート」概念は、その手段として有力な選択肢です。が、これをちゃんと地域で活かし、実効性を高めるには、地域の観光振興をレスポンシブル・ツーリズムに移行させていくことが必要となります。

顧客に対して「地域への旅行の際に、自身の安全性を示してもらう」というのは、従来の千客万来型ツーリズムとは、本質的に異なる概念です。観光は、地域コミュニティあってのものであり、その持続性確保に寄与できるものであるべき…ということを、ホスピタリティ産業側が意識し、それをDMO等を通じて、マーケティングやブランディングに転換していくことができなければ、どんな制度、仕組みを入れたとしても、それは抜け穴を疲れ、形骸化してしまうことになるでしょう。

それは、アフター・コロナにおいて、オーバーツーリズムを再発させ、コミュニティとの不和を招くことになります。

現在、直面している状況は、とても厳しいものであり、先を考えられる状況ではないことは事実ですが、サスティナビリティという視点から、地域で、どのように観光を展開していくべきなのか。十分に、議論し、組み直していくことが重要と考えます。

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