観光への注目が集まる一方で、地震や台風、豪雨災害などが相次ぐことで「観光危機管理」の手法は、一定程度、整理されてきている。
例えば、このコラムでも、以前、以下を提示している。
ただ、今回の新型コロナの場合、こうした旧知のフレームワークをそのまま適用できない。
その理由は以下である。
- 通常、災害などがあっても、その対応が終われば、需要がそれ以前のトレンドに復元する。
が、今回は、大きな経済クラッシュも予想されるため、需要そのものが従前よりも減少する。 - 通常災害においては、災害の発生(発災期)、その災害がもたらした損害(例:道路の寸断)によって客が戻ってこない「停滞期」の2つが明確に分かれる。発災期は一瞬であり、その時点で物理的な被害は確定する。そのため、停滞期を短縮することが第一の対策となる。
しかしながら、新型コロナの場合、両者が渾然一体となっており、被害がどこまで深刻化するかがわからず、かつ、その影響期間を人為的に短縮することが難しい。 - 通常災害の発災−停滞期の期間は、通常、数ヶ月程度であり、かつ、先が見える。
しかしながら、新型コロナは年単位となる可能性があり、かつ、いつ頃終息するかはわからない。
端的に言えば、通常災害の場合、公共事業の大量投入によって物理的な障害を取り除くことで停滞期をできるだけ短縮し、さらに、ふっこう割の投入によって回復期の立ち上がりを短縮化するというのが、基本対応となる。
更に、災害前後で、需要は大きく変わらないから、地域は従前の状況に戻れれば、引き続き需要を獲得することが出来る。
しかしながら、新型コロナの場合、発災期と停滞期が渾然一体で、人為的に短縮することができない。ワクチン&治療薬が開発されるまで、回復期への移行はできないから年単位の期間がかかると考えるべきである。これは、地域の観光産業(ホスピタリティ産業)の経営継続にとって、非常に大きな脅威である。
更に、ポスト・コロナの観光需要は、従前のそれとは大きく構造を変えたものとなるから、その構造に対応したものに地域も変化しないと、コロナが収束しても観光需要を取り込むことは難しい。
これをイメージ図として示すと、以下となる。
仮に、産業に対する支援策をほとんど行わない場合、相当量の事業者が倒産することになるため、コロナ終息後においても、物理的に、観光客を受け入れることは困難となる。我々が、2000年代前半に体験したように、破綻した事業者の債権関係は非常に複雑なものとなることが多いため、よほど力強くポスト・コロナの市場が再浮上しない限り、各施設は塩漬けとなる可能性が高いからだ。
他方、国などの支援策が一定程度、機能し、ある程度の事業者が存続できた場合、ある程度は、需要を戻すことが出来るだろう。しかしながら、現状、国の旅行クーポンの予算額は1.7兆円(事務手数料込み)。これに対し、2018年の国内宿泊旅行は16兆円、訪日旅行は5兆円。私の「今となっては超甘い」試算でも、7.8兆円の市場喪失であることを考えれば、とても損失の穴埋めとはならない。
また、雇用調整助成金を始めとする国の支援策も、基本的には全国一律・産業一律であり、もともと非正規雇用が多く、労働生産性に難点を抱えていた宿泊・飲食業にとって、十分な生命維持とはなりにくい。
そのため、この選択でも相当数の事業者は廃業を余儀なくされるだろう。
地域が、ポスト・コロナにおいて観光に対する挑戦権を維持するには、発災期・停滞期の段階から、産業維持に加えて、ポスト・コロナの世界を見据えて、準備を行っていくことが必要だろう。
もちろん、この期間は、新型コロナと共存している期間であるから、感染症への対応は欠かすことができない。
というより、ポスト・コロナの世界における新型コロナは、おそらく、現在のインフルエンザのように定期的なワクチン接種と、感染時の隔離&治療薬対応となる。そのため「感染症対策」は、ポスト・コロナにおいても従前に戻ることは無く、標準が、一段高いレベルとなるはずだ。言ってみれば、感染症対策は必須条件でしか無い。
つまり、このコロナ禍を生き抜き、観光を地域振興の手段に活用するのであれば、需要を失った地域のホスピタリティ産業を保持するだけでは不十分であり、合わせてポスト・コロナの観光需要に向けた構造改革を展開することが必要となる。
新しい発想での対応
いずれにしても、従来の危機管理フレームワークでは、今回のコロナ禍には対応できない。
発災期と停滞期が混在し、長期化するという我々が直面したことの無い世界に我々は踏み込んでいるということを認識し、出来ることをガムシャラに行っていくことが求められる。
そのポイントは、ポスト・コロナの観光リゾート地のあり方をどのように考えるのか。そして、その世界に向けて、いかに地域のホスピタリティ産業を維持し、育てていくのかにある。
これは難題ではあるが、うまく回すことができれば、従前の日本の観光地が抱えていたオーバー・ツーリズム、低生産性、環境やコミュニティとの関係性などについて、新しい次元に立ち上げることも可能であろう。
使い古された言い回しではあるが、ピンチをチャンスに変える意識をもって対応していくことが重要だろう。