狩野モデル

観光のとらえ方は様々ですが、私はサービス活動として捉えるようにしています(状況によって、視座は変えますが)。

サービスとして考えれば、その基本要素は、サービス品質となります。

サービス品質とは「なんぞや」という話は、それはそれで、いろいろあるのですが、観光振興という文脈で考えれば、あらかじめ整理しておくべき事があります。

それは、サービス品質の高低と満足度などは、必ずしも比例関係には無いと言うことです。

実は、この考え方は、サービス品質という概念が出来る前。製品品質の時代に、既に整理されています。それは、狩野モデルとされるものです。

この基本的な考え方は、製品を構成する要素は「魅力的品質」と「当たり前品質」の2つに大きく分けられるというものです。

魅力的品質(Performance needs)は、それが一定水準以上に向上すると製品に対する満足度が大きく高まるが、仮に、それが低くても満足度は大きく減少しないというもの。一方の当たり前品質(Basic needs)は、それが向上しても満足度は上がらないが、ある水準以下まで低くなると大きく満足度を減少させるというものです。
狩野モデルでは、この他「一元的品質(品質と満足が比例関係にある)」、「無関係(品質と満足の関係性が弱い)」という2つのタイプを提示しており、計4タイプで品質と満足度の関係を整理しています。

変化する「品質が持つ特性」

この整理フレームには、続きというか応用があります。
それは、魅力的品質は、時間を経ることで当たり前品質へとシフトしていくということです。

Kano Model(1984) Wikipediaより

本ブログでも何度も言及しているように、観光集客は競争環境にありますから、まずは誘因となう「魅力」を持つ必要があります。これが「魅力的品質」です。
ただ、この魅力的品質は、時間経過と共に当たり前品質にシフトしていきますので、また、新たな「魅力」をつくり出す必要があります。

さらに、当たり前品質は、一定水準を保つ必要があります。
この「一定水準」は相対的なものですから、他地域での取り組みが進むと、例えば、それがその地域にとっての誘因にならなくても対応しなければならない状況になります。

例えば、90年代であれば「露天風呂」は魅力的品質でしたが、今や当たり前品質です。

相対性がもたらすということは、多くの地域が取り組めば取り組むほど、当たり前品質へのシフトが早くなります。例えば、個人で参加できる着地ツアーやWi-Fi、訪日客向けの多言語対応や免税店などはあっという間にシフトが進んだ分野でしょう。

これらの「相対性」は、国内だけでなく、海外との比較でも生じます。Wi-Fiは、その一例ですが、中心部への観光案内所の設置や、スマホ対応のホームページ(しかも多言語)、SNS対応、国際的なホテルブランドの進出、民泊をはじめとするシェアリングエコノミーなどは、グローバルに起きている事象です。

このように、観光地として対応すべき「当たり前品質」の分野は、どんどん増えていく訳ですが、そうした中でも「魅力的品質」を作り続けなければ、積極的な誘客は望めません。

SCSEという考え方

投入可能な経営資源が限られている中、こうした無限とも思われる展開において、どう対応していく事が有効なのでしょうか。

まず基本は、投入可能な経営資源量を増大させるということです。
なんだかんだ言っても、物量に敵う物はありませんから。

とはいえ、どんなに経営資源が豊富であっても、無限の投資は出来ません。また、バラバラな対応では費用対効果もあがりにくい。闇雲に対応するのではなく、一定の塊を持って戦略的な対応をしていく必要があるでしょう。

その一つの指針となるだろうと思っているのは、ディズニーの掲げるSCSEです。

詳細はリンク先を参照いただきたいですがSafety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)の頭文字を取ったもので、キャスト(ディズニーのスタッフ)の行動指針となっています。順番にも意味があり、優先すべき項目順になっています。

このCourtesyを快適性(Comfort)とでも変えれば、そのまま観光地でも適用できるのではないでしょうか。

まず、最も基本となるのはSafety。これは日本の場合、海外に比してアドバンテージがある分野ですが、地震や台風といった自然災害は多いですし、今後はテロ対策も「当たり前品質」となっていくことを考えれば、改めての議論が必要な分野でしょう。

次に、Comfort。これは「受け入れ環境整備」とも重なりますが、来訪者の視点でストレスフリーとするにはどうするか。日々変化していく外部環境の中で3年、5年といった時間軸でどのようにComfortな観光地を作り上げていくのかを構想し、対応していく事が必要でしょう。これも「当たり前品質」。

3つ目のShowは、そのまま「魅力的品質」。Showにあたる自地域の魅力はなんなのか。それを「当たり前品質」化させない(=コモディティ化さえない)ようにする事は可能なのか。ソレが出来ない場合は、新しいShowをどのように作り上げていけるのか。観光地の価値を決める最も重要な取り組みです。が、他方、当たり前品質となるSとCが出来ていなければ意味は無い領域でもあります。

4つ目のEfficiencyは、今風に言えば、生産性に直結する話です。これまでのS.C.Sに対応した上で、いかに効率を高めて生産性を高めていくのか。最終的には、これがどこまで出来るのかで、持続性が変わってきます(再投資余力に繋がるため)。

単にサービス品質の領域に留まらず、最終的に収益につながるEfficiencyに言及する辺りがディズニーらしいところです。

マネジメントとマーケティング。そして、ブランディング

先ほどのSCSEフレームを振り返ると、実は、ShowとCourtesy(Comfort)にはマーケティング概念はありません。強いて言えば、ターゲットにあわせてComfortを考えるというのはありますが、基本は万人向けの対応が求められます。

つまり、当たり前品質は顧客を獲得するというマーケティング以前、サービス提供を成立させるための取り組みだと言う事です。これは(狭義の)マネジメント活動と言い換えることが出来るでしょう。
すなわち、ShowとCourtesy(Comfort)は狭義のデスティネーション・マネジメントの分野ということになります。

マーケティング概念が強く影響するのはShowです。誰にどんな価値を提供するのかというのはマーケティングの基本的な考え方でもあるからです。
つまり、Showは、デスティネーション・マーケティングのレベルと呼ぶことが出来ます。

ただ、競争環境の中でShowの優劣を競うようになると、消耗戦となります。
マーケティング発想だと、過当競争となるような分野を避ける(レッド・オーシャンからブルー・オーシャンへ)、ニッチ市場を攻めるニッチャーとなるといった競争戦略が一般的ですが、観光の場合、すぐに似たような取り組みがあちこちで生まれるため、そうした展開は容易ではありません。

そこで注目されるようになっているのが、顧客との強い関係性を構築していくブランディングです。単に、商品やサービスを提供するのではなく、顧客にとっての特別な存在となることで、再購買(再来訪)率や紹介率を高めていくやり方です。これが出来ると、販促費や新たな商品サービス開発費用が圧縮できるため、Efficiencyが高まる事になります。

さらに、自地域がどういう地域なのかという事が明確になることは、住民や従業員などの行動にも方向付けられます。スノーピークの社員は、皆アウトドア好きといったことです。そうなれば、さらに相乗効果が生じていきます。

このようにブランディングがEfficiencyの鍵となるのでは無いかと考えています。

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