観光における「データの世界」とは何か
では、観光における「データの世界」とは具体的になんなのでしょうか。
「これからの世界」であるため、推測するしかありませんが、「サービス」をより、顧客に最適化していく方向だと考えています。
より具体的に言えば、CRM、すなわち顧客情報と、地域のIoT基盤を利用した顧客オリエンテッドな滞在プラン提示なのではないかと思っています。
既にロイヤルティ・プログラム(いわゆるマイレージ・プログラム)によって、顧客情報を管理し、それぞれの顧客に対して提供するサービスを変える取り組みは出ています。ただ、現状は、その企業のサービス利用に関して解るだけです。
顧客の立場からすると、その企業サービスを利用しているのは、自身の生活の一部でしかなく、その企業サービスの利用状況だけで、その人がどういう人なのかと言うことは解りません。
例えば、毎年、1週間、スキー目的でニセコを訪れるAさん、Bさんが居たとします。
来訪頻度だけでみれば、2人は同じ顧客レベルですが、Aさんは、日常、多忙を極めており年に一度の家族旅行として訪れており、Bさんは、ともかくニセコのパウダーが大好きで訪れている場合、両者のニセコに対する期待は大きく異なります。
それぞれの期待に対応していくためにはAさん、Bさんの来訪動機やライフステージ、ステータスなどを把握する事が必要です。
さらに、仮にAさん、Bさんの来訪動機などを把握する事が出来たとしても、それに合わせた滞在プランを提示するには、地域側のライブかつ将来予測した情報が必要となります。交通や道路の状況、天気、各施設の営業状況(混雑情報を含む)などなどです。
仮に、顧客の本質的な嗜好に関する情報と、地域のライブかつ将来予測した情報を組み合わせる事が出来るようになると何が起きるようになるでしょうか。
端的に言えば、それぞれの顧客に優秀な秘書が付き、自身の嗜好と現地の状況に合わせ全てアレンジしてくれるような世界になります。
現在のように膨大な選択肢に対し、紋切り型の検索クエリで各種「経験」を選び、組み合わせていく必要が無くなるわけです。
現在でも、ホテルの優秀なコンシェルジュは、着地において、顧客との対話から顧客の嗜好を把握し、さらに、自身の人的なネットワークで地域情報も把握し、顧客の嗜好に対応したライブな滞在プランを提示しています。こうした熟練の技が、ビッグデータとAIによって、多くの人にもたらされると考えられます。
仮にこれに対応した地域(デスティネーション)が出てくると、顧客は信頼できるデスティネーションを選ぶだけで、自身の嗜好にカスタムメイドされた「顧客経験」を実現出来るようになっていきます。
現出する新しいプレイヤーは誰か
イノベーションのジレンマには、破壊的イノベーションが生じる度に、プレイヤーが変わっていくということがあります。
観光の場合も、ハードからソフトへのイノベーションにおいて、所有と経営を分離したホテルオペレーターが多く誕生しましたし、ソフトからサービス(顧客経験)へのイノベーションでは、OTAやDMO、DMCが誕生してきました。
その意味で、仮にサービス(顧客経験)の時代から、データの時代に破壊的イノベーションが起きた場合も、新しいプレイヤーが誕生してくることが予想されます。
では、そのプレイヤーは誰かという予想は、単なる頭の体操でしかありませんが、顧客の嗜好などを日常生活レベルから抑えるということで考えれば、日常的なコミュニケーションに対応したITデバイスが考えられます。具体的には、「人手不足とAI」で示したタイプ1やタイプ3が該当するのではないかと。
現時点でいえば、日常的なやりとりを行うスマート・スピーカーが近いですが、これは「話し相手」というレベルにまでは至っていません。スマート・ウォッチは日常的な活動を記録するという点では優れていますが、これも現時点では断片的です。
また、この段階が機能するためには、データで武装されたデスティネーションの存在も不可欠です。顧客サイドのIT系の企業だけでできる訳でも無いということです。
IoTを基盤とするスマート・デバイスからのデータと、デスティネーションからのデータが繋がり、そこから、AIが顧客のコンパニオンとして旅行を含む余暇活動についてもプロデュースしていく…。
さて、どんなプレイヤーが出てくるのでしょうね。