Discussion of Destination Branding.

ファンを増やすと言う事

リテンションには紹介意向

地域を訪れる観光客数を維持増大させるのに、何が重要なのかと言えば、「インバウンド需要はバブルかファンダメンタルか」および「シェラからリテンションへの発想展開」で示したように、紹介意向を高めるということに集約される。

観光客数は、いろいろな要素で増減するが、中長期的なトレンドを作るのは「紹介意向」だと言う事だ。

リテンションが重要である事を考えれば、人が人を呼び込むことの指標となる「紹介意向」が重要である事は自明である。

問題は、紹介意向をどう高めるかにある。

私は、紹介意向を7段階で補足しているが、その最上位(Level7)は、前図が示すように10~30%位に分布している。これは、低い評価の観光地であっても10%くらいの人々は、高い紹介意向を持っていることを示している。

ここで2つの選択肢がある。

1つは、残る90%の人達の紹介意向を高めること。
もう1つは、高い紹介意向となる人達を増やすように取り組む事だ。

90%の人達の紹介意向を高める ということ

一般的に志向されるのは前者の取り組みである。

もともと、CS(顧客満足)やロイヤルティ(紹介意向や、再購買意向)は、製造業の品質管理の発想がベースとなり発展してきた概念である。品質管理は、サービス分野では知覚サービス品質と顧客の主観ベースとなったが、基本的には品質の管理だから、悪い所は直そうということになる。

その後、加納モデルや、IPA(Important Performance Analysys)などによって、全ての項目に対応するのではなく、CS(やロイヤルティ)に影響度の高い要素から優先で改善しようというように変わったが、「悪い所は直そう」という基本は変わらない。

ただ、これを観光地において適用しようとすると、かなり難しい。
地域は、複数の独立した主体の集合体だからだ。

例えば、ある特定の宿泊施設に対する評価が低かったとする。が、DMOや行政が、その施設に対してやれることはほとんど無い。その施設の経営者の対応に、ほぼ全てがかかっているからだ。

もう一つ、このアプローチに問題があることは、サービスマネジメント研究の進化によって明らかになって来ている。

製品の品質と異なり、サービス品質は顧客の主観によるものであるという整理は既になされており、サービス品質は、知覚サービス品質と呼ばれている。この「知覚」は、当初、事前期待と実際の体験のギャップによってもたらされる(GAPモデル/SERVQUAL)とされていたが、その後の研究によって、事前期待の高い項目ほど、知覚サービス品質も高評価となることが明らかとなった。

つまり、サービス品質やCS、ロイヤルティは、実際の経験より、事前にどれだけ期待していたのか、それに思い入れをもっていたのかということに大きく左右されるわけだ。

勘のいい人なら、ここで気がつくだろう。
事前期待が重要と言う事は、来訪前に概ねの決着がついているということだ。
つまり、地域側のサービス提供内容を改善と、「残る90%の人達」の紹介意向の向上は、必ずしも連動しない。

事前期待を高める ということ

ここで活きてくるのが、後者の取り組みである。

事前期待を高めていけば、結果として高い紹介意向となる人々が増えていくことになるからだ。

観光地に対する事前期待とは、観光地イメージと重なる。明確な観光地イメージがあれば、それは事前期待の形成に繋がるからだ。この時点で、イメージを不快に感じれば、その顧客は来訪しないし、快適に感じれば、それだけ地域と相性の良い顧客が来訪することになる。結果、高い紹介意向を示す顧客がセレクトされる事になる。

この構造は、実はブランディングの考え方と、ほぼ合致する。

観光地のイメージ、ブランドにはいくつかの「レベル」があるが、共通するのは現地での経験がカギとなることだ。つまり、その地域で何が出来るのか、どんな経験が出来るのかということが観光地のイメージをつくり、ブランドを形成するのである。

当然、「経験」がありきたりのものであれば、イメージもありきたりなものとなり、明確な事前期待は形成できない。

また、「経験」が雑多な物であれば、イメージも拡散することになるから、これも明確な事前期待の形成には繋がらない。

シンプルかつユニークな「経験」が作れるかどうか。
そして、その「経験」を広告や広報、SNSを通じて伝播させていくことができるかが、ポイントとなる。

経験とターゲットは対の関係

経験がユニークな物になればなるほど、それに響く人々は限られることになる。

ここに矛盾が出てくる。
ユニークな経験をつくっていくことは、リテンションによって観光客数の維持増大を図るためであるが、ユニークな経験は、そのユニークさ故に反応する対象者は絞られることになるからだ。

こだわりすぎたコンテンツであるが故に、客が付かないというのは、よくあることだ。

そのため、多くの場合、対象者を絞り込む事に「怖さ」を感じ、経験をふわっとしたものに、しがちである。が、それでは一見客を呼び込むは出来ても、リテンションには繋がらない。

この矛盾を打破して行くには、経験と対象者(ターゲット)とをセットで考えることが必要となる。つまり、地域側で「勝手に」経験を作り上げるのではなく、その対象者となる人々のイメージも平行して検討し、そこからフィードバックすることで、経験をブラッシュアップしていくわけだ。

これは、結局の所、「何を誰に売るのか」というシンプルな問に答えられるかどうか…ということになる。

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