仕事柄、国内外の地域を訪れる機会が多い。
その中で感じるのは、全体としての心地良さの違いである。

海外の都市やリゾートに出かけると、普通の空間であっても「綺麗だなぁ」とか「良い雰囲気だなぁ」と感じることが多い。そういう心地よさは、空間全体が作り出していて、例えば、写真などを撮ってもなかなか、その雰囲気を表現することはできないくらい「快適」だ。

これに対し、日本では、そう感じる機会に乏しい。もちろん、綺麗な場所とか、良い雰囲気の施設とかは数多くあるのだが、それは「ある画角」で見た場合に限定され、海外のように空間に包まれるような経験は得難い。

なぜ、こうなっちゃうんだろう…と思うが、私は、建築と土木の連携度が低いことが原因だと思っている。

例えば、日本の海岸線の多く、特に人が出入りするところに多く設置されているが(通称)テトラポット。護岸用途において画期的な工法であるが、これがあるだけで、どんなに綺麗な海であっても、海岸線の景色は完全にスポイルされてしまう。

大分県にて筆者撮影(2019/04/22)

当然、テトラポットに対する批判は少なくなく、土木サイドとしても、近年では、護岸を維持しつつ、景観や海岸線活用に配慮した対応を打ち出すようになってきている。例えば、大分県別府市では、防波堤の前にあるテトラポット(的なもの)の上にデッキを作り、海岸線に遊歩道的な空間を創出している。

別府市にて筆者撮影(2019/04/23)
別府市にて筆者撮影(2019/04/23)

確かに、この作りは画期的だが、これができたからといって、海岸線が人々でにぎわうような空間になっているかと言えば、そんなことはない。確かにテトラポットは見えなくなり、海が一望できるようになったからといって、ここにくる理由は乏しいからだ。
そうなると、通常のテトラポット設置に対し、数倍の工事費を費やした意味があるのか?とも思う。

一方で、沖縄県の北谷町にある「デポアイランド」では、同様に、テトラポットを覆う遊歩道(デッキ)整備が進んでいる。こちらも別府と同様に防波堤の先にテトラポットが設置されており、日本のあちこちにある「残念」な状況であったが、非常に魅力的な空間へと生まれ変われつつある。

最終仕上げ段階のデッキ整備/現地関係者撮影(2019/04/22)

両者の違いは何か?と考えれば、別府市の場合は土木が土木だけで完結しており、対して、北谷町デポアイランドの場合は、建築が作り出す空間と土木が作り出す空間とが一体的なものとなっていることが指摘できる。

デポアイランドは、民間主体で一体的なまちづくりが進んでいるところであるが、そこは建築も土木もなくシームレスだ。例えば、建築分野の建物と土木分野の道路は、通常、別の管理でありデザインも異なるが、ここでは一体的だ。そのため、無味乾燥になりがちな駐車場ですら、ここでは、景観の一部となり得ている。
そのため、デポアイランドは、どこか一点に視点を注目させなくても、ワイドな視野で、空間に浸れるという経験ができる数少ない所の一つとなっている。

筆者撮影(2018/11/1)

そのデポアイランドにおいて、最大級の阻害要因が、本来、もっとも資源となるはずの海岸線だった。なぜなら、海岸線はテトラポットが埋め尽くし、防波堤は建築空間から隔絶されていたからだ。そこをなんとか一体的な空間に取り込みたいという「想い」が、この事業を実現に導いている(この事業は民間ベースで実施)。

整備開始頃の海岸線/筆者撮影(2018/11/1)

こうした取り組みは、海外では、ごく普通に行われている。特に、リゾート地域では、当たり前のように行われる。

例えば、ハワイのワイキキ地区では、2000年代に大規模なリノベーションが行われたが、これは当初、行政、すなわち行政主導で行われた。
ハワイ州及びホノルル市では、ワイキキ地区の競争力を高めるために、リノベーションに取り組みが、当然ながら、民間の「建築」を直接いじることはできない。そこで、行政は、新しいハワイの「空間デザイン」を検討し、コードとした上で、自身が主導的に対応できる道路を中心とした公共空間、施設を、このデザインに基づき先行的に整備した。同時に、民間に対しては、リノベーション投資の減税措置を設け、新しいデザイン対応する投資を促していった。その結果、10年かからずに、全面的なリノベーションを実現し、非常に高い競争力を生み出すに至っている。

リノベーション投資の一例 右手は義岩で偽装した公衆トイレ/筆者撮影(2018/12/5)

建築と土木の連動性が乏しいため、せっかくの自然景観の魅力を打ち出せないというのは、海だけではなく、山でも起きている。

例えば、高い地価上昇率となっている倶知安町ひらふ地区では、主要道路となる通称「ひらふ坂」を、ロードヒーティングを装備した新しい道路として改修した。この道路だけを取り出せば綺麗な空間となり歩道もしっかりと整備されたものの、この道路のデザインと、周辺に立地/新規整備されるコンドミニアムのデザインには、ほとんど協調性がない。さらに、シンボル的なランドマークとなるはずの羊蹄山への視線軸ともあっておらず、それが引き立つこともない。

これでは空間に浸ることはできない。

この景色を見て世界的なリゾートと思う人は少ないだろう/筆者撮影(2018/10/13)

これに対し、例えば、コロラド州のベイルタウンでは、中心部はカーフリー(車の進入禁止)にした上で、道路と建物を一体的に整備することで、ゲレンデーベースの空間を魅力的なものとして創造している。

ここには、これまでに何度か、日本のリゾート関係者を連れてきているが、皆、同様に「テーマパークみたいだ」との感想を漏らす。テーマパークという形容詞は必ずしもポジティブな意味だけでないが、特別なリゾートに来たという没入感が得られるという場所だと考えれば、日本との差は大きい。

ベイルタウン・ライオンズヘッド/筆者撮影(2109.02.02)

また、一見すると自然そのものである景色にも、実は、土木の手が入っているということも少なくない。例えば、コロラド州は冬はスキー、夏はフライフィッシングが盛んなところだが、そのフライフィッシングを盛り上げつつ、景観も高める取り組みとして、河川改修が行われている。この河川改修では、フィッシングの対象となる魚が生息しやすく、かつ、人の目から見ても美しく見えるように岩を並べ、淀みやアイポイントとなる場所を作っている。
さらに、こうしたオープンスペースには基本的に、屋外広告は一切なく、建物の形状や色彩も規制がかかっている。以下の写真の河川も、実は、アウトレットモール内を貫く河川であるが、落葉している冬の状態であっても、調和の取れた空間となっている。

そのため、「釣り人」は、山の奥地まで踏み入れなくても、自然に抱かれるようにフライフィッシングを楽しむことができる。これも建築と土木の連携がなせる技だろう。

アウトレットモール内を流れる河川/筆者撮影(2019/02/08)

観光ビジネスにおいて、収益をあげるのは「建築」である。これは、どんなに綺麗な歩道や海岸線を作っても、そこから収益が上がる訳ではないことを考えれば当然だろう。

ただ、建築が収益をあげるには、土木との連携が重要となる。どんなに建築が優れたものであっても、それだけで得られる付加価値は限定的だからだ。その建築物が置かれている環境によって、そこでの滞在経験は大きく変化する。

基本的に土木は行政分野であり、建築は民間分野である。その意味で、土木と建築の連携は、官民連携そのものでもあるとも言える。

インバウンドの伸びも息継ぎをし始めている現在、マーケティングなどソフト事業に偏った観光政策から、不動産投資(建築)も睨んだハード事業を取り込んだ観光政策へと転換していくことが重要であろうと、私は考えている。

これを実現していくためには、行政側は、かつてのハワイ州/ホノルル市が展開したように、現在でも5〜6兆円/円程度の予算額で推移している公共事業費を、建築と相乗効果が上がるように戦略的に展開していくことが有効なのではないだろうか。

また、北谷町デポアイランドの事業は、土木分野でありながら、事業費は民が調達している。ただ、海岸線の管理は行政領域であるから、完成後の所有者は行政となる。つまり、形式的にはPPPとなるが、実態としては、行政が民のやりたいことを受け入れ、許容してくれたために実現した事業とも言える。
このように「土木」の世界を、民間に解放し、一体的な展開を支援するといった取り組みも一つの選択肢となろう。

官と民、どちらが上とか、業務分掌がどうなっているとかそういうことではなく、地域を元気する、ワクワクする空間を作っていくという目的のために、互いの強みを活かしていく本当の意味での官民連携を進めていくことが重要だろう。

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