リゾートの「環境」はホットなテーマ

昨年、ハワイではサンゴに悪影響を与えるとされる一部のサンオイルについて、販売を禁止した。

コンビニ袋(プラスチックバック)も禁止となっているが、マウイ島では、ポリ容器も禁止となり、インスタントラーメンの流通が止まっている(袋麺はOK)。

また、東南アジアのビーチリゾートでは、急増した来訪者からサンゴなどの自然環境を守るために、ビーチ閉鎖が相次いでいる。

これらは、崇高な環境意識のみが理由かといえば、それは違うと私は考えている。環境を意思を持って維持していくことが 商業的な価値を維持上昇させ、 リゾートとしての持続性を高めていくことに繋がるという認識があると考えている。

なぜなら、リゾートにおける最大の誘因は、そこにある「憧れのライフスタイル」であるからだ。大都市での生活に憧れる人にとっては大都市がリゾートになり得るし、豊かな自然景観やアウトドアレジャーを嗜好する人は自然豊かな地域がリゾートとなる。

ビーチリゾートであれば、憧れのライフスタイルを支えているのは、海であり、サンゴである。山岳リゾートであれば山岳景観、トレイル、田園などが鍵になるだろうし、都市部であれば都市のコミュニティ、文化などが鍵となろう。これは万人の共通的な理解であるが、一方で、これらはある種の公共財であり、民間サイドによる個別最適な行動では維持管理することは難しい。そのため、我が国を含め「かつて美しかった」「豊かだった」資源が壊され、喪失してきたのもまた事実である。

こうした現象は、これまで「観光地化」と呼ばれるように、観光振興に伴う負の特性だと言われ、ある意味「仕方ない」と諦められていたものでもあった。しかしながら、近年は、冒頭で示したように、「仕方ない」で片付けるのではなく、現地のライフスタイルをしっかりと守っていこうという動きに変わってきている。

これは20世紀後半以降「持続性」ということに感心が集まったこともあるが、なにより、顧客(観光客)の意識が変わったこともあるだろう。かつては「旅の恥はかき捨て」と、旅先(デスティネーション)のことなどは、ほとんど考えなかったが、観光旅行の経験値が上がった人々は、訪問先とのつながりを重視する傾向を強めているからだ。

特に、リゾートに訪れる所得の高い人々は、一般的に学歴も高く、文化や自然環境への関心も高い。自分たちの行動の結果が、どういった影響を地域に及ぼすのかということを想像できるし、自制できる人たちが多いということだ。これは、地域住民や事業者に対する「期待」ともなる。

そのため、リゾートが、通常の都市や地域よりも高い水準の環境を作り出していくことは、そのまま、そのリゾートの競争力を高めていくことにつながっている。

こうした中で、レスポンシブル・ツーリズム、つまり責任ある観光という考え方も生まれてきており、この考え方を観光客にもってもらうことで、オーバーツーリズム対策を行い、持続性を高めようという動きが広がっている。

環境対策が後手に回る日本のリゾート

これに対し我が国では、環境や、それを背景としたライフスタイルが、リゾートの主たるコンテンツとはなってきていない。

これは、現在でも大半を占める「国内需要」が、それを欲していないということだろう。環境対策は、新しいコストアップ要因となるが、それが競争優位につながらないのであれば、供給側が積極的に対応することにはならないからだ。

日本人でも、欧米同様に高い環境意識を持った人は多くいるにもかかわらず、それがリゾートの競争力に反映されないのは、マーケットの構造に原因があると考えられる。

それは、日本のリゾートは、基本的に「誰でもが行ける」ところとなっていることにある。いずれのリゾートも大都市から数時間の距離にあり、アクセスが容易であるし、高級ホテルからバジェットホテルまでが同じエリアに集積しているからだ。もちろん、高級ホテルであればセキュアな状態となっているが、一歩外に出れば、いろいろな客層が混在しており、環境意識の低い人達もたくさん来訪しているのが実状だ。

そのため、「ゴミのポイ捨て」なんて、もってのほかと考えている家族客の隣で、別の家族客がポイポイとゴミを捨てているなんてのは普通に起こり得る。また、カーボン・オフセットのような地球サイズの取り組みに理解を示せる人は限定されてしまう。

こういう状況では、リゾートが環境対策を進めるインセンティブは生まれにくい。

持続性を目指すなら

単純に、観光客が来るだけでよいというのであれば、多様な人々が来訪できる(ターゲットにできる)というのは、悪いことではない。

しかしながら、市場がインバウンドへと広がる中、顧客の多様性をそのままに任せていることは、地域の環境に大きな負担をかけることになる。それは、リゾートとしての地域の魅力を低下させ、持続性を喪失させる。

この矛盾を解消するには、他地域よりも高水準にある環境そのものを武器に、それを評価し、寄り添ってくれる顧客層を呼び込んでくることが有効だろう。

これは、短期的には地域(のホスピタリティ産業)に苦痛をもたらすことにもなる。「量か単価か」や「ラグジュアリーは儲からない」でも整理したように、ローワー方向に客層を広げるほうが量を確保することができ、収益も確保できるからだ。

つまり、地域としては「意識の高い」顧客が来てくれることが望ましいが、事業者としては、必ずしも、その必要はない。特に、短期的な収益を狙っている事業者にとっては、高い環境ハードルは、むしろ、事業上の障害ともなる。

こうしたコンフリクトを理解した上で、各主体がWIN-WINの関係が作れるような「地域の持続性」について、関係者で議論を重ね、それぞれの地域での観光と環境の共存方法について答えを出していくことが重要だろう。

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