観光消費は所得と滞在の変数

FBのタイムラインに流れてきた記事。

■豪華客船にお金持ちは乗って来なかった~クルーズ船寄港地の憂鬱https://news.yahoo.co.jp/byline/nakamuratomohiko/20190712-00133858/

率直なところ、「今更」感が強い指摘。
この種の指摘は、各地で既に顕在化しており、というか、就航時から起きていることである。問題は、そういう事実が動いているにもかかわらず、各地でクルーズ船誘致、バース整備が国税を利用して展開され続けていることだろう。

そもそも、1人あたりの観光消費は、来訪した観光客(顧客)の所得水準と、現地での滞在時間によって、ほぼほぼ規定される。無い袖は振れないし、消費意欲があっても時間がなければ消費できないことを考えれば、当然だろう。

さらに、地域での観光消費となると、これに「人数」という変数が加わる。
ただ、この「人数」は、基本的に単価(≒所得階層)とトレードオフの関係にあるから、事実上、人数を狙うということは単価を下げる(所得階層を下げる)ということになる。

そのため、観光誘客を考える場合、顧客が、どういった「所得階層」なのか。そして、彼らが、現地に、どの程度「滞在」するのかという2つを考えることが、まずは、重要となる。

受入容量という絶対値

その上で、地域にとって重要な視点は、「滞在」需要に対して、自分の地域にあるホスピタリティ産業が、どの程度の受入容量を持っているのかということである。

観光客に対応するホスピタリティ産業は、サービスの一種であるから、単位時間あたりの受入容量を超えた需要はゼロとなる。どんなに、その地域に観光客が訪れたとしても、経済効果につながる観光客数は、その地域の受入容量までである。

例えば、日帰り滞在の場合、ランチは消費単価をアップさせる要素であるが、その地域の飲食店が全部で10軒✕10席=100席しかなかったら、回転率を3としても、昼時に300人以上の人が来訪したら、そこから飲食需要は生まれず、ゼロである。

さらに、実際の現場では「観光客の嗜好」がサービス選択に発生する。
いわゆる人気店と不人気店に分かれるわけだが、パレート分布から、仮に2割の店舗に8割の需要が張り付く場合、前述の10軒✕10席=100席ならば、上位2軒の20席で8割の需要を賄うことになるから、観光客にとって「快適」な受入容量は、20席✕3回転/0.8=75人でしかない。これを上回った場合、観光客は不本意な店舗を選択するか、そもそもランチを取らないという行動をとることになる。
つまり、受入容量は、絶対的なスペックでは規定されない。

限定された受入容量の中で、相性の良い顧客をどれだけ集められるのかということが、地域の経済効果や(顧客評価を通じた)持続性を左右することになるのである。

なぜ、クルーズ寄港は憂鬱なのか

問題なのは、この「事実」に気がついていない地域が多く、単純に観光客数=観光振興指標と考えてしまうことにある。
クルーズ船問題は、その顕著な例だろう。

現在のクルーズ船のビジネスは「薄利多売」ビジネスである。

かつてのクルーズ船は、パナマ運河のサイズ(パナマックス)や、エンジン性能などから大きさが限定され、乗客が快適に過ごせる環境(例:アッパーデッキの面積)も限定されていた。そのため、運べる人数が限られる->単価を狙う>豪華客船という図式となり、結果、リタイア後の富裕層をターゲットした展開となった。

それが、パナマ運河の改修や、船舶技術の発展によってクルーズ船は急速に巨大化し快適性を増大させた。こうなると、受入容量がドカンと増えるから、大衆路線への転換が可能となる。そうやって生まれたのが、「お手頃な値段」で、数千人を一度に運ぶ現在のクルーズ船・ビジネスである。

■海のモンスター巨大豪華客船の心臓部、パワープラント
https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17237136

以上のことを考えると、日本国内においても地方部は、クルーズ船との相性が最も悪い存在であることがわかる。
地方部のホスピタリティ産業の絶対規模は低い。そこに、単価低めの3000人、5000人といった需要を投げ込んだところで、その需要を十分に消化することはできず、むしろ、道路渋滞や喧騒、地域サービスに対する低評価などによって地域を疲弊させることにもなるからだ。仮に、数千人規模への需要へ短期的にミートしようとすれば、いわゆる団体型施設を整備することになるから、更に傷口を広げることになるだろう。

なお、東京や横浜、福岡といった大都市は、十分な受入容量を持っているため、単価が低くても、クルーズ船就航の恩恵は十分に受け取ることが可能である。それこそ、ラーメン一杯でも、飲食店としては売上増になるからだ。

同じ需要であっても、地域によって、その効果は異なるということを意識すべきだろう。

どうすれば良かったのか

そもそも、クルーズ船は宿泊は飲食も内包する巨大な装置であり、クルーズ船事業者は、できるだけ自身の顧客の消費を囲い込みたいと考える。事業者は、寄港先に対して膨大な「送客」を約束することで、着地での対応を促すが、着地で大量に消費されては船会社は面白くない。こういう矛盾を抱えているということを意識しておくべきだろう。

地方部が取るべき戦略は、いきなり大量の需要を取り込もうとするのではなく、現在より単価の高い(所得階層が上の)顧客を狙ったり、閑散期対策を行ったりすることでホスピタリティ産業の収益を向上させ、民間投資を呼び込み、徐々に受入容量を増やしていくことである。

ただ、これは迂遠な取組でもある。
何かしら、「巨大で大衆的なクルーズ船」というビジネス・スキームを利用した振興策はなかったのか。

その一つの答えは、寄港地ではなく、発着港を目指すことだったろう。
発着港であれば、前泊、後泊という形での宿泊需要が見込めるからだ。その場合でも、受入容量の問題は出てくるが、クルーズ船の発着曜日を平日にすることで、閑散期対策と組み合わせることも可能となるし、発着港としての持続性が担保できれば、民間投資も進むだろう。
また、発着港であれば、クルーズ船の整備需要や食料や消耗品の調達は発生し、船会社のオフィスも立地することになる。これらは地域に安定的な雇用と税収を生み出すことになる。

これからでも遅くない

私は、まだ、この「発着港」の可能性はあると思っている。

現在、日本に多く寄稿しているクルーズ船の乗客は、自身の居住地の近くから船に乗っている。東京の人が横浜港でクルーズ船に乗るようなものだ。
これに対し、カリブ海とか地中海のクルーズは、フライ&クルーズといって、飛行機で飛んでいき、そこからクルーズ船にのって周遊を楽しんでいる。

フライ&クルーズを成立させるには、なによりも「飛行機に乗って、でかけていっても、クルーズ船に乗りたい」と思わせる商品づくりが必要となるが、寄港地での楽しさが、クルーズ船の魅力の構成要素だとすれば、現在、国内各地で行われている観光振興の取組を、一定のテーマで横串でつなぐようなことができれば、大きな魅力となりえる。

言ってみれば、JR九州が「ななつ星」として展開し、その後、JR東日本や西日本などに広がった「テーマ型列車の旅」を、クルーズ船に置き換えるようなものである。

「ななつ星」がそうであったように、発着地と寄港地が、当初から連携し、その商品づくりを行うようにすれば、寄港地におけるギャップも抑えていけるだろう。そのためには、敢えて、人数キャパシティの低い船を用意し、受入容量にあわせた対応を寄港地が行いやすくしたり、顧客向けに船内でのエンターテイメントを充実させることで魅力を高めることも考えられる。
例えば、ディズニーが運行するクルーズラインの初代シップは、客室数875、定員2500名である。これくらいの規模のクルーズ船を確保し、日本全体でシナジーが出るように連携を行っていけば、面白いものになるのではないか。

https://en.wikipedia.org/wiki/Disney_Magic

自らでビジネスモデル構築を

観光に注目が集まりながら、それを事業的に動かしているのは「外資」という状況が続いている。日本の旅館は件数を減らす一方で、外資のバッチを付けたホテルは、どんどん増殖しているし、コンドミニアム(ホテル)などのビジネスモデルも、ノウハウをもった国内事業者は乏しい。今回のクルーズについても同様だし、政府が起爆剤とするIRも、外資のノウハウがなければ、とても展開できない。残念ながら、日本が強いのは外食産業くらいだ。

観光立国を目指すのであれば、観光客を呼び込むことだけでなく、世界と戦える「事業者」の育成に取り組むことが重要なのではないか。

産業政策不在の状況が、クルーズ船寄港地の憂鬱な状況を作り出しているように思う。

Share

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です