インバウンド市場の主要セグメントを構成する隣国との関係性が悪化中である。

現時点で、しっかりとした統計データが出ているわけではないが、速報値的なものでは予約キャンセルが増大傾向にあったり、LCCの減便/休止といった報道が出始めている。

こうした状況は、当然、観光地、観光事業者にとっては大きな影響となるが、国と国との関係性で生じていることであるから、現実的に、地域や事業者が「状況」を抜本的に変えることは難しい。

「べき論」でいえば、「国際関係を修復/改善し、相互交流の増大を!」ということになるが、現実論では、その実現は難しいということだ。

このように観光動向に大きな影響があるものの、その状況の改善に、自分たちが関与できる余地が乏しいという状況は、地震や台風などの災害と通じる部分がある。

その意味で、以前投稿した以下の整理は参考となるだろう。

まず言えることは、観光客数の推移については慣性の法則があるため、一定期間を経た後には市場は戻ってくる可能性が高いということだ。ただ、自然災害は発災が突然で強烈に訪れるのに対し、国際関係ではじわじわと影響が拡がり、停滞期がいつになるのかが見えないという違いがある。
つまり、底だと思ったら、底割れするということが容易に起こり得る。

この感覚は、2000年代の国内市場減少期のソレと似ている。しかしながら、変化速度は大きく、短期間で致命傷を負うような被害を受ける危険性も高い。

個々の地域や施設では、こうした事態を踏まえた対応策を検討していくことが求められる。

影響を予測する

まず、求められるのは影響の予測である。

観光はサービスであるから、あとから需要を取り返すことは出来ない。
実際に需要がなくなってしまう前に、その需要減への対応を行っていくことが重要だからだ。

今回、どこまでの影響が出るのかは未知数だが、ざくっと言って30−50%くらいは影響を受けると考えておくべきだろう。なぜなら、旅行先選択において、他者に影響される人々が、その程度のボリュームを持っているからだ。

Ada S. Lo, Rob Law & Catherine Cheung (2011) Segmenting Leisure Travelers by Risk Reduction Strategies, Journal of Travel & Tourism Marketing, 28:8,828-839, DOI: 10.1080/10548408.2011.623044
※ツールについては筆者が加筆

ただ、どの地域(施設)も需要が一律で減るわけではない。表が示すようにセグメントによって、反応は異なるからだ。具体的には、団体客のように他者の意見に流されやすいセグメントから消失する。この団体客には、MICEも含まれる。

そのため、団体客を主体としている地域は、より大きな影響を受ける。
他方、ビジネスを含む個人客が主体であったり、従前から個人的な関係性(つながり)が強い地域は、相対的に影響は低い。

影響を受ける期間の見通しは困難だが、現在の状況や、海外旅行の予約は数ヶ月前となることが一般的であることを考えれば、最短でも半年。基本的には年単位の時間軸で想定しておくことが求められる。

ここから推計される「減少量」が、地域にとっての被害額ということになるが、単純な総量ではなく、さらに、影響予測を行っていくことで、その影響はどの施設、活動に及ぶのかということについての考察も進めたい。

例えば、前述のように団体客が大きな影響を受けるから、その種の客層を多く受け入れている施設では、より大きな影響が生じる。また、MICE系もボイコット対象となりやすい。これらについて各施設やMICE主催者と情報をやり取りしていけば、影響をより具体的に推計していくことが可能となる。

対策をDMOと共に検討する

そうやって、影響を特定していくことができれば、対応策についても具体的に考えていくことが出来るだろう。団体客に多くを依存している施設を特定できれば、当該施設を対象とした取組にフォーカスできるし、MICEについても影響を受けそうなものを特定した上で、その影響を抑えるように内容を調整することも可能となるからだ。

また、影響が半年以上続くであろうことを考えれば、秋以降に有効となるような取組を考えていくことが重要である。地域によって、季節別の集客構造は異なるため、一概には言えないが冬場はオフシーズンとなり、団体客やMICEへの依存が高まる傾向にあるからだ。

場合によっては、問題のある市場を「捨てて」、リソースを他の市場に割り当てるという判断もあってよいだろう。例えば、震災時に見られるように近傍市場の取り込みは、その一つの選択肢となる。

こうした対応は個別施設だけでは困難である。
個別施設で取りうる選択肢は「安売り」くらいしか無いからだ。

そのため、仮に、施設への対応に任せれば、被害を強く受ける施設は「安売り」へと走ることになる。一般的に、そういう施設は、地域の中で相対的に大型である。大型施設が、率先して安売りを始めると、その影響は地域全体へと広がり、影響の低い施設も巻き込まれることにもなる。

地域へのネガティブな影響を抑えるには、DMOと各施設、行政とのパートナーシップによる展開が必要となる。

リスク・マネジメントと統計

インバウンドが観光市場の中核を占めていく中、国際関係は大きなリスクとなっていくことになる。

観光を地域振興の核としていくのであれば、天災だけでなく、国際関係もあわせたリスク・マネジメントの体型を作り上げていくことが重要となる。

そのために重要なことは、通常期から、どういった人たちが自地域に訪れているのかということを把握し、生じうるリスクについて検討を行っておくことである。

観光統計は、結果を知るだけのものではなく、将来に対する備えを導き出す情報源ともなることを認識しておきたい。

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