失速傾向が確定的に

訪日客数は2019年10月、11月。2ヶ月連続で、対前年を下回ることとなった。

これは、以下で私が予測した状況のまま推移してきた状況にある。

予測があたったと喜んでいる場合ではなく、我々は、この状況に対していかなければならない。
そこで改めて、移動年計ベースで、訪日客数の推移を見てみよう。

訪日客数の推移

移動年計を見てみると、2018年4月以降、ほぼほぼフラットな状態にある。この伸び悩みの原因を、年間750万人を記録していた隣国との関係悪化に求める声も多いが、地域の人々と話をしていると、クルーズ船のキャンセルが相次いだり、かなりの値引きを行うことで客数確保をしているなど、実態は、かなり弱含んでいるように感じられる。

観光需要は経済要因に大きく左右される。
ただ、今後の経済動向は、あまり肯定的な展望はしにくい状況にある。米中の貿易摩擦は継続中であるし、欧州もブリグジットが決定的になったことによる影響は避けられないだろう。関係悪化中の隣国も景気は減速傾向にある。

さらに、気候変動に対する意識の高まりは、飛行機や自動車の利用抑制に繋がりかねず、従来の企業活動への影響も予想される。

しかも、自然環境の点でも、日本での台風災害のリスクは大幅に高まり、12月の下旬になっても、多くのスキー場が開業できない状態にあるなど、懸念材料は多い。オリンピックのマラソン競技が東京から札幌に移動されたことによって、東京の「蒸し暑さ」が世界的に発信されてしまったことも否めない。

現在の移動年計トレンドをみると、場合によって、(移動年計ベースで)3000万人を割り込む月が出てきても不思議ではない。

ダイナミック・プライシングがもたらす弊害

市場が拡大期を経て停滞期、そして、縮小期となる時、サービス業の現場では大きな混乱が起こる。それは、大幅な値下げ合戦だ。

前述のコラムでも示したように、価格戦略は、マーケティングの3大戦略の一つであるが、集客には強力な効果を発揮する反面、事業者側に大きな疲弊を招くリスクがある。

ダイナミック・プライシングが浸透、普及している現在、稼働率が低くなれば、どこでも値段は下げてくる。韓国の日本便LCCが数千円で運行しているのは、その恒例だし、繁閑差の大きいリゾート地域では、繁忙期と閑散期では、値段が数倍違うことも「よくあること」だ。

その意味で、需要を価格で調整すること自体は、各施設にとって当然のこととなっているが、成長期から停滞期(縮小期)というタイミングと、地域という単位でみると少し話が変わってくる。

成長期には、増加する需要をあてこんで、施設の拡充、新設が行われることが多い。宿泊施設などは、企画して実際に開業するまで、数年の時間軸が必要であるから、本格的な停滞期に入るまえに企画、着工された施設が、停滞期を通り越し、縮小期になってから開業するということも少なくない。しかも、そうした施設は大型で、高級路線を狙ったものであることが多い。これは、後発となる施設として、先行する施設との差別化を図っているためである。

すなわち、需要は減っているのに、供給は増えることになる。

こうした状況にダイナミック・プライシングが、作用すると「地域」は深刻なダメージを受ける可能性がある。

なぜならダイナミック・プライシングは、新しく、規模が大きく、基準となる価格帯が高い施設ほど有効に活用できるからだ。素の状態で、競争力が高い施設がダイナミックプライシングで需要の獲得に乗り出すと、地域内の、より小規模で、普及価格帯の施設が強くしわ寄せを食らうことになる。

小規模で普及価格帯の施設は、地元資本であることが多く、食材や備品などの関係で地域経済との関係性が高い傾向にある。そうした施設が厳しい営業環境に置かれれば、地域には波及的、連鎖的にネガティブな影響を及ぼし、地域の産業クラスターを破壊する。

こうした展望を踏まえれば、地域としては「それは民間の世界の話だ」と放ったらかしにすべきではない。

良い価格競争へ

停滞期となれば、価格競争は避けられない。しかしながら、それは地域内の施設が潰し合うのではなく、デスティネーション単位の競争として行うべきことである。

地域としては、地域単位の競争に転換する必要がある。

地域単位の競争に転換するということは、顧客からみて「お得」と思われるデスティネーションになるということである。地域単位の場合、顧客は、全体の旅行費用や時間も含めて考えるから、攻め方はいろいろと出てくる。

例えば、関東近郊の温泉地では都心部との間に高速バスを走らせているところも多いが、早期の予約決済や、閑散期の利用について、飲食やアクティビティの割引が受けられる滞在クーポンなどを絡めて「お得感」を出していくこともあるだろう。

また、カンフル剤的な効果を考えるとイベント開催も対策の一つである。例えば、花火大会は、小規模なものでも根強い人気があるし、プロジェクション・マッピングやイルミネーションも一定の魅力をもっている。特産品があるところなら、それらの食べ放題/詰め放題といったものは注目を集めやすい。

利用人数によってリニアに費用が変動しないものを対象とすることで、割引原資を圧縮しつつ、顧客には「お得感」を伝えることが可能となる。

また、この際、個々の価格を表に出すのではなく、できるだけパッケージ化することも重要である。特定のサービスの価格のみを減額すると、それだけを利用されてしまうリスクがあるからだ。
例えば、近年の災害復興で当然となってきた「ふっこう割」は宿泊費を減額するが、近隣の人々の利用が集中し、隣接施設の利用が進まないことが指摘されている。これでは、宿泊需要は確保できても、地域の産業クラスターへダメージが広がってしまう。

この他、割引は「それがないと需要が喪失する」セグメントに向けたものとすることも重要である。例えば、業務需要は、価格で左右されるようなものではないし、市場が縮小しても週末の旅行需要は堅調に推移するという地域も多いだろう。しかしながら、単純に割引を展開してしまうと、本来、割引をしなくても来てくれた人々にも割引を行ってしまうことになる。

早い時期の予約決済のみを対象とするとか、平日に利用可能な観光レジャー的な要素とのパッケージとするといった構成としていくことを検討していくことが必要となる。

このように地域単位でのお得感を出しつつ、出さなくても良い損失は最小限に押さえていくことは、単体の企業では難しい。
全体の利益を調整しながら、割引原資を確保し、具体策を展開するにあたってはDMOなど地域を束ねる主体の存在が果たすべき役割が大きい。

停滞期となるタイミングだからこそ、DMOが官民連携のハブとなり戦略を展開していくことが重要なのではないだろうか。

言い方を変えれば、こうした厳しい状況だからこそDMOの真価が発揮されることになるだろう。

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