2020年10月1日より、GoToトラベルが、フルスペックで始動します。9月19−22日のシルバーウィークの人手も多く、観光業界には明るさも戻ってきています。

しかしながら、欧米では、夏のバカンスの反動か感染拡大が止まっていません。理論上、集団免疫に達したとされるブラジルでも、抗体保有率が下がってきているという指摘もあり、どうも、抗体が出来ても社会的に安泰という訳ではないようです。

他方、陽性確認と、発症者、重症者との関係はリニアではなく、陽性確認者が増えていても、重症者、さらに言えば、死亡者はかなり抑え込まえている状況にあります。

そのため、コロナがどれくらい怖い病気なのかということについては、議論がありますが、高齢者や持病を持っている人には厳しい病気であることは間違いなく、感染拡大を抑制しながら、経済活動を展開していくということを覚悟し、実践していく必要があります。

感染症対策を恒常仕様へ

そのため、感染症対策を持続的に行っていくことは、議論の余地なく「当然」のこととなります。

春から夏にかけては、コロナ禍がどうなっていくのか展望のしようがありませんでしたから、感染症対策は暫定的な対応でも許されましたが、今後は、一連のサービスデザインと一体化するような仕様に変更していくことが必要となっていきます。

感染症対策として、椅子などに×マークを付けて使えなくしたり、ペラペラなアクリル・シートを天井からぶら下げたり、マスク着用などを求めるお願いポスターがあちこちに…といった対応が広がっています。しかしながら、これらは暫定的な対応であれば許されますが、恒常的、持続的な取り組みとしては、あまりに雑であり、顧客の心をささくれ立たせます。

観光地での経験が、そうした不用意な造作やサイン、そして、行動抑制によって、ストレスを感じるからです。

人が最も多くの情報を得るのは「視覚」です。
また、理屈で行う行動よりも、感覚、直感的に行う行動のほうが自然だし、ストレスも感じません。

「やれること」は変わらないのに、iPhoneを始めとしたApple製品が市場を席巻しているのは、その証左です。

よって、視覚情報からディスタンシングを自然と取っていけるようなサービスデザインを検討し、実践していくことが必要となります。

これは、最終的には個別施設での対応となりますが、来訪者の立場でいえば、ある施設では出来ているが、ある施設では雑多なままでは、現地での経験がスポイルされることになります。そのため、DMOがリーダーシップをとり、疫学に通じた専門家を招聘し、現地で共同で指導を受け、対策について考えていく、できれば、○○スタイルのような形で規定してくことが推奨されます。

地域単位で、直感的で心地よい感染症対策を視覚情報に投影していくことが、これからの観光地ブランディングに重要な取り組みとなっていくでしょう。

ダイレクト・コミュニケーションを充実

観光振興の手法は無限にありますが、With/Post コロナにおいて重要性が増大するのは、関係先との「直接的なコミュニケーション」となるでしょう。

今回のコロナ禍において、顧客に直接繋がることが出来た事業者は、いろいろな展開が可能でしたし、回復も早い傾向にあります。これは、これまでの震災時などでも同様で、顧客に直接、現地の状況を伝えることができるチャンネルを持っている事業者は、いわゆる風評被害を防ぐこともできるし、クラウド・ファンディングのような取り組みも展開できるからです。

他方、顧客と直接つながることのできるチャンネルを持たない事業者は、マスメディアなどに情報発信を依存する必要があり、身動きがとれない状況となります。

ただ、顧客とのチャンネルを持っている事業者でも、今回のコロナ禍では、動きが封じられることが少なくありませんでした。それは、地域コミュニティ、議会、首長などから観光に対する拒絶姿勢を示されてしまったためです。

現実的に、個人客対応の進んだ宿泊施設において感染が拡がるリスクは相当量に低いはずでしたが、観光客が地域に来訪することに対する恐怖心が拡がり、多くの観光サイドは為す術もない状況に追い込まれてしまいました。

ただ、これも見方を変えれば、観光セクターが(観光に直接関与しない)住民や、行政、議員、首長とのコミュニケーション・チャンネルを持っていないか、持っていても弱かったことが原因だったとも言えます。

対「世論」についても同様です。

某Hリゾート代表が、観光産業の代表のようにマスメディアに出ていることを、苦々しく思っている関係者も少なく有りませんが、仮に彼すらマスメディアに出てこない状況であったら、「まずは近隣の旅行は解禁しよう」という世論形成は出来ず、東京都を除外してのGoToトラベルでさえ、実施も困難になっていたかもしれません。

今回のコロナ禍を通じて我々は、「自分の事業を、真面目にコツコツとやっていればOK」ではないという教訓を得たと言えるでしょう。観光は、顧客はもちろん、幅広いステークホルダーの「了解」が無ければ事業を展開することは難しいことがわかったからです。

もちろん、幅広いステークホルダーに、個々の事業者が対応するのは困難です。この役目はDMOが担うべきものであり、DMOの位置づけも、コロナ禍を通じて変化すべきでしょう。

また、関係者と持続的に繋がっておくということは、事業者としての「与信」を得ておくということにもなります。人は、接点を持つ対象に対して、好意を持つ傾向があるからです(単純接触効果)。

特に、現在はネット時代。従来と異なり、多様な主体と広く繋がるようになっています。繋がっているのが「当然」の時代です。関係者と直接繋がっていくことは、今後、さらに重要となっていくでしょう。

ハイブリッド化

今回のコロナ禍を通じて、人の移動が全世界的に止まるということを、我々は経験しました。これを100年に1度と考えるか、10年に1度はあるかもと考えるかは人それぞれですし、おそらく、正解はありません。

しかしながら、新型コロナは「COVID-19」であることを考えれば、また、再来することは想定しておくべきでしょう。また、そもそも、今回のコロナ禍自体が、有効なワクチンによって、完全に終息するという将来予測ですら「神のみぞ知る」です。

さらに、ある程度早期に、コロナ禍が終息したとしても、その時には、国内の観光市場は大きく変質している可能性も指摘できます。

一方で、少子化による人口減少社会かつサービス経済社会の中で、地方は地域資源を「サービス」によって付加価値を高めていくことが出来なければ、存続していくことは厳しい。そして、観光以外の手法で、地域の価値を高めていくことも難しいのが実情です。

つまり、観光のリスクが示された一方で、観光を地域振興の手段として否定できないという状況に置かれています。

この状況に対応していくために私は、観光を「人の物理的な交流」だけに留めず、オンラインでの交流や、特産品などの売買へも広げていくことを推奨しています。

観光は、地域外の人々と、直接的にコミュニケーションできる手段です。この特性を活かし、観光振興を地域ブランディングの手段として再定義していけば、オンラインでの交流、イメージ作りや、特産品を付加価値を高めて販売していくということは、必然的に、観光セクターが対応すべき地域課題となっていきます。

いきなり、全てを展開していくことは難しいですが、観光が持つ「外部とのチャンネル」を、地域がもつ広報宣伝チャンネルとして展開していくことを検討していきたいところです。

改善か変革か

「明けない夜はない」とは、よく使われる格言です。

そのとおり、どんなに厳しい状況でも、いずれ、打開策が出てきて、新しい時代が始まっていくことになります。

一方で、全ての人々、主体が、従前と同じように過ごせるわけでもありません。状況、環境は常に変化しており、その変化への対応ができるか否かが、順応できるかどうかにも関わってくるからです。

以前、私は「コロナ禍は谷か山か」という投稿をしています。

谷と見るなら、最低限の改善によって乗り越えていくことが出来ます。
他方、山と見るなら、基本的な戦略フレームから切り替えていく必要があります。

正解はありませんが、戦略検討を行っていきたいところです。

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