日本のスキー場の対応

このように降雪機会が多い事によるパウダー遭遇のチャンスが多く、かつ、高地過ぎない事による快適さという絶対的なアドバンテージに加え、急成長する東アジア市場に隣接する立地を考えれば、日本のスキー場が持つポテンシャルは高い状況にあります。

しかしながら、資源性だけで優劣が決まるのであれば、世の中苦労しない…というのが現実です。

実際の集客、それも持続性のある物とするには、資源性に加えて経営力が必要となります。
90年代前半までの国内スキー場は、溢れるように生まれる国内需要を背景に、造れば稼働するという状態でした。実際、この時期のスキー場別の索道輸送人員数(≒来訪者数)は、各スキー場の輸送能力(≒リフト基数)に比例していました。

しかしながら、インバウンドを呼び込むというのは、海外に住むスキーヤーに自身のスキー場を選んでもらうことが必要です。これには、資源性に頼るのではなく、活かすマーケティング/ブランディングが必要になります。

製品志向、価格志向から、顧客志向にシフトする必要があるわけですが、日本ではデスティネーション・マーケティングの概念も希薄であり、そのノウハウをもった事業者は乏しい状態にあります。

もう一つ。日本はスキー場のストックは多くありますが、その多くは、20年余り、ほとんど投資されていません。そのため、様々な物が「古い」状態です。例えば、未だに「紙のリフト券」は広く流通していますし、索道仕様も海外のものと比べて見劣りするようになっています。

これに追いつくには、多額の投資が必要となります。が、現在の我が国のファイナンスおよび事業者では、資金調達の幅に乏しく再投資原資を確保することが難しい。

それに加え、仮に資金があっても、実際に建設する場合、いろいろな調整に時間と交渉力が必要となり、一朝一夕の対応は難しく、どうしてもスピード感に欠ける部分が出てきます。

また、海外では、リフト券が1日あたり1万円を超えるようになっていますが、日本では値上げすることも難しい。これはデフレ圧力が依然として大きいということもありますが、これまでの商習慣や商品流通が制約になっている部分もあります。

コロラド州ビーバークリークの初心者向けゴンドラ。世界で最も短いゴンドラとも言われる。

競争環境の変化

日本のスキー場が持つ恵まれたポテンシャルはスキーヤーだけでなく、海外資本にとっても魅力的な存在となります。資金量があり、経営力もあるような事業者にとって、日本のスキー場は「とってもお買い得」な存在となるからです。

実際、ニセコの4山の内、2つは外資ですし、キロロやトマムもオーナーは外資です。

宿泊事業との付き合い方」で整理したような変化が、スキー場においても起きてきている訳です。需要の国際化が起きれば、供給側も国際化していくことになります。

今後の国内スキー場の方向性は3つ考えられます。

1つ目は、特異なポテンシャルを活かし、自立的に国際リゾートの道を歩んでいく道。
2つ目は、自身での展開をあきらめ外資や投資ファンドにオーナー・チェンジ(売却という出口)する道。トマムのように所有と経営を分離するというやり方もあります。
3つ目は、敢えてインバウンドに取り込まず半減した国内市場を対象に自立していく道。ニッチャー戦略となりますが、立地場所や規模によっては、これが最も有効な選択肢となるスキー場も多いでしょう。

インバウンド時代のスキー場経営という新しいパラダイムに、どのように対応していくのか。
北京五輪に向けて、東アジアでのスキー・リゾートが大きく変化していく、これからの数年間は、各事業者の判断が「本格的に」求められるタイミングとなっていくのではないでしょうか。

国際化に対応して行くには

3つの選択肢の内、最も困難なのは1の「国際リゾートを目指していく」でしょう。
各種の制約の中で、自力で展開するのは、容易ではないためです。

仮にこの選択を行う場合、基本戦略は東アジア市場の取り込みとなります。
それが、前述の3段ロケットを機能させることに繋がるからです。

ただ、日本の高度成長期やバブル期がそうであったように、経済成長の著しい地域では、各種の嗜好が短期間でどんどんレベルアップしていきます。そのため、旧式の設備では、あっという間に幻滅され、無視されることになります。

つまり、対象が東アジア市場であろうと、提供する「顧客経験」は、最先端レベルを目指していくことが必要です。

そのためには、多額の再投資が必要となります。現状では、ここで壁にぶち当たってしまう。

この突破口の一つが、不動産事業です。

日本では、バブル期のトラウマもあり「開発」に対するアレルギーが少なくありませんが、コンドミニアムをはじめとした不動産事業との組み合わせは、スキー場の投資余力を引き出すことに繋がります。

また、コンドミニアムなどでベース部分の宿泊容量が増大すれば、スキー場の入り込み客数のベースラインを高める事にもなります。

このモデルは、海外リゾートでも多く実践されているものであり、言わば「定番」となっています。日本でも、ニセコやキロロ、ルスツで、こうしたビジネスモデルの展開が進められつつあります。

今後の動きに期待したい所です。

Share

「国内スキーリゾートの展望」に1件のコメントがあります

  1. 野球が目的では訪日外国人は伸ばすことはできないが、スキーではまだまだ伸ばせることが出来ると思います。パウダースノーは日本の宝であります。世界的な夏のリゾートはハワイワイキキですが冬はニセコと言っても過言ではなくなりました。やはり一般スキーヤーは氷河で滑るよりパウダーで滑ったほうが絶対おもしろい!なので世界のスキーヤーの目は極東に向いています。ヨーロッパのスキー場は外国人が多い、当たり前です。陸で繋がっているから皆んな隣国から来るわけで、日本も隣国から呼んで来るようにすれば、さらに伸ばせる。スキー場も淘汰されるかもしれませんがスキー産業捨てたもんじゃないはずです。日本のスキー界のリーディングカンパニーとして頑張ってください。

コメントは受け付けていません。