世はSNS時代。

mixiに始まった我が国のSNSは、twitter、Facebookを経てLINEやInstagramへと変化して来ている。その中で、youtubeも底堅く推移して来ているし、短時間動画のTik Tokのような動きもある。さらに、中国系は諸々の関係で独自の進化、潮流となっており、それがアジア発のムーブメントを作っていくのではないかという話もある。

何が覇権を取っていくのかは、色々な巡り合わせになるが、共通しているのは「文字」ではなく、画像や動画といった「視覚情報」がコミュニケーションの中心になっていくということだ。

私は、こうやってブログシステム(WordPress)を使って、くどくど書いているが、こういうスタイルは、もはや時代遅れになりつつある。メッセージは、より端的に、直感的に、伝えるものとなっているからだ。

LINEがスタンプという概念を持ち込み、感情をイラストによって表現できるようにしたのは、その好例だろう。

これは、ある種の退化と捉えることもできるが、より多数の人々とコミュニケーション可能になったと考えることもできるだろう。なぜなら、従来、文章を読み込み、しっかりと理解することができる人々も、自身の考えを文章として表現できる人も、限定されていたからだ。

「見る観光」から「する観光」への誤解

「見る観光」から「する観光(体験観光)」へというのは、いわば、観光の常識となっているが、これは実は、大きな誤解も招いている。

それは「見る観光」と「体験観光」とは排他的な関係であり、見る観光ー>体験観光に置き換わったとするものである。この背景には、2000年代に起きた国内市場の急速な減少がある。

実際には、2000年代の市場縮小は、経済要因が原因であって、観光地が主因ではなかったのだが、需要が減った責任を供給側(旅行会社を含む)が負わされていた時代であった。

経済要因による縮小は、いわゆる「マス」セグメントを直撃する。
これは市場規模の量的な縮小に繋がり、いわゆる既存観光地の客数を大きく減少させた。一方で、高所得世帯は存在しているので、その「アッパー」セグメントは存続する。また、観光がライフスタイルとなっている「趣味人」セグメントも存続する。結果、市場縮小の中でも、アッパーセグメントや趣味人セグメントに支持された一部の地域は目立つ動きを示すことになった。

この現象から、「もうマスの時代ではなく、小口の時代であり、体験観光こそが重要だ」という認識が共通化されていくことになる。

これは一見、正しいが、実は、いくつかの落とし穴がある。

まず、「マス」を「団体客」、小口を「個人客」と捉えれば正しいが、単に集客規模の大小として捉えてしまう人が少なくなかったということ。つまり、大規模観光地はもうダメで、小規模なところこそ生き残ると考えることだ。
もう一つは、体験観光を必要条件と見るのではなく、十分条件と見る人が少なくなかったことだ。

前者については、冷静に見れば、市場縮小の中でも東京や京都、福岡といった大都市は好調であったし、リゾート系でも沖縄は順調。さらにTDRも集客規模を増やしていたので、大規模だからダメということではないことは明らかであった。
それは、旅行会社も同様であり、今日の巨大なOTAの隆盛を見れば、大規模化自体が否定されるものではない。鍵となるのは、規模の大きさではなく、個人客の支持を集められていたかどうかである。

後者については、観光客の立場で考えれば自明である。体験観光「しか」ない地域と、体験観光「も」ある地域が存在すれば、後者を選ぶのが自然だからだ。

間違った現状認識は、間違った処方箋、ミスリードを生み出すことになる。

顕著なのは、「見る魅力」に対する意識の低下だろう。
もともと、欧米に比して、景観など視覚情報への意識は高い方ではなかったが、体験観光への注目の高まりによって、見るという基本的、根源的な欲求への対応が低下することになったことは否めない。

端的に言って、日本の観光地の景観はノイジーで、写真を撮りたいと思う場所はとても限られるのが現状だ。ポスターなどで発信される景観は、ほとんど、誇大広告レベルであるが、消費者もそういうものだと思っているからクレームも来ない。

インスタグラムの隆盛

しかしながら、この状況に大きな楔を打ち込んできているのがインスタグラムだ。個人が、画像(動画を含む)を、非常に簡単なキャプションのみでガンガン発信するメディアが出てきたことによって、視覚情報を発信する、そして、それを見るという楽しさが爆発的に広まった。

中には100万円を超えるような機材で、泊まり込みで写したような写真もあるにはあるが、ほとんどは、スマホでサクッと撮影、発信したものであるから、特別な写真ではなく、身近な存在となっている。

結果、個々の観光客が旅先でワクワクした、美しいと思った景色、シーンがどんどん発信され、シェアされ、共感を呼び、来訪動機を掻き立てるようになっている。公式組織が発信する情報は、「どうせ誇大だ」と思われているから、スルーされるが、顧客が発信する情報には反応するからだ。今の観光地の観光客数推移は紹介意向のレベルと連動していることが、その証左でもある。

ただ、こうやってシェアされるシーンは、必ずしも地域側が発信したいものとは限らない。観光客によって、地域の隠れた面白さが発見されるのは楽しいことでもあるが、発信したい情報には触れてもらえないというのは悲しい。真摯に取り組んでいる人ほど、「なぜ、理解してもらえないか」と言いたくなってくる。

ここで考えなくてはならないのは、なぜ、その一押しコンテンツが撮影され、投稿され、シェアされないのか。どうすればシェアという行動を引き起こせるのかということだ。

投稿する人の心理とシェアする人の心理

インスタグラムに限らず、SNSへ投稿する人たちの心理については、色々な指摘があるが、基本的には「承認欲求」が主体になっていると考えて良いだろう。端的に言えば、自身が所属するコミュニティに対して、自分の存在をアピールしたいというのが、基本的な欲求となる。さらに、余暇活動にアクティブな層は、高次の欲求が高い傾向にあるので、観光関連の情報がSNS投稿へと繋がりやすくなる。

ただ、そうやって投稿されるコンテンツが、皆、共感を呼び、シェアされるわけではない。

例えば、#エアポート投稿おじさんは、もはやネタのレベルにまで昇華しているが、投稿者自身は控えめにアピールしているものの、見ている方から共感は得られにくい。また、デジタルネイティブである若い女性であっても、盛り盛りな投稿は「痛い」とされる(らしい)。

こうしたギャップは、もともとの投稿が、承認欲求に基づいた行動なので、ある程度、仕方がない部分もある。そうした投稿をシェアに繋げられるかどうかは、投稿者がもつストーリーが、視聴者の共感を呼び込めるかどうかだろう。

ソースは忘れたが、シャアされやすい投稿には、以下の5要素があるとされる。

Provoke 会話への刺激
Surprise me びっくり、見ていて楽しい
Make it relevant 自分に関連している
Make it credible まさにそのとおり
Make it wow  驚嘆の声

例えば、#エアポート投稿おじさんについては、飛行機に乗って出かけることをアピールしたいのであれば、空港で投稿するのではなく、旅先での食事や景色を、構図を工夫したり、裏話的なコメントをつけたりして投稿すれば、だいぶ、印象が変わるだろう。

地域側の対応

地域側では、こうした投稿する人、シェアする人たちの心理を理解することが重要となるが、並行して、体験観光のどこをビジュアル的に切り出せるのかということについて検討することが重要だろう。

これは、顧客経験を視覚情報まで含めてデザインするということともつながる。

視覚情報、すなわち「見る観光」は、「する観光」の極めて基本的な要素であり、その活用が顧客経験の水準を上下させ、さらには地域のブランディングにも影響していくということを理解すべきだろう。

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