財政規模は人口規模に比例する

以前、以下の投稿にて観光振興は「無理ゲー」であることを示した。

今回は、これをもう少し補足しておこう。

自治体の財政規模は、基本的に「基準財政需要額」によって規定される。なぜなら、ほとんどの自治体は「赤字」であり、その差額(基準財政需要額との差額)が交付税によって補填される構造にあるからだ。

そして、その基準財政需要額は、人口規模によってほぼほぼ規定されるようになっている

つまり、自治体は、自身の税収に関係なく、人口規模に応じた歳入を得ることができる訳で、ある意味、非常に安定的である。

ただ、この「安定」が長続きしないことを示したのが、増田レポートである。
非常に単純かつ機械的な推計手法ではあったが、広範な地域で人口減少が「半端なく」進行するだろうという指摘は、自治体に大きな衝撃を与えた。

前述のように地域の人口規模と、財政規模は連動しているから、人口が減少するということは財政規模が減ることを意味していたからである。
例えば、10年後に1割、人口が減る地域は、財政規模も10年後には1割減ることになっている。中長期的に財政規模が縮小することが既定路線となっている組織…というのは、なかなか厳しい。
そのため、「消滅都市」という言葉は、多くの地域、特に行政に強烈なインパクトを与えることになった。

一部地域における人口減少は、高度成長期から生じていたのでは?という指摘もあるだろうが、日本全体で人口が増大していれば、減少している「一部」地域に対して特別な支援をすることが可能である。過疎対策というのは、その典型例だろう。
しかしながら、人口減少が当たり前となってしまえば、そうした特別対策も難しくなる。

すなわち、各自治体における今後の人口推計は、そのまま、地域の財政規模の縮小予測に繋がることになる。

観光と地域振興

他方、すでに整備済みの公共施設の維持管理や、雇用済みの職員人件費を考えれば、歳出を絞り込んでいくことにも限界がある。

例えば、市町村における人件費の比率は2000年代半ばには20%を超えていたが、一貫して減少を続け15%代にまで落ち込んでいる。財政規模が低減傾向にある中で、また、この人件費の半分は教育や消防、民生で占められていることを考えれば、かなり限界に近い。

その上で、大規模に絞り込むといわゆる変動費を絞り込むことになるから、将来に向けた投資は難しくなり、財政の硬直性を高めることになる。これは、さらに地域を閉塞的なものとしていく恐れも高い。

こうした「文脈」の中で、交流人口を対象とする観光が地域振興の手段として注目されることになった訳だが、観光業(ホスピタリティ業)は、製造業のように「安定的な収入」をもたらす職業ではない。そのため、観光が振興されても定住人口は必ずしも増えない。

人口が増えなくても、経済的な豊かさが生まれてくれば…という指摘もあるだろうが、沖縄県ですらうまく稼げていないというのが実情。

それでもなんとかして経済振興に繋げ、観光による税収が若干増大したとしても、自治体は、そもそも大きく「赤字」なので、(人口が増えない限り)その財政規模は増えない。

一方で、観光振興に取り組む以上、自治体は定住者だけでなく、観光客にも対応しなければならない。つまり、観光客向けに従前にはない支出を強いられることになり、これは減少傾向にある財政を、更に圧迫することになる。

地域振興のために観光に注目したのに、財政を悪化させ、住民サービスまで絞り込むことになっては本末転倒だろう。

このように、多くの地域は、このまま人口縮小に手をこまねいているだけでは先はない。かといって、観光に取り組んだとしても、それが定住人口増、少なくても地域経済の拡大に繋がらなければ、むしろ状況悪化を早めることになる。
これは、相当に「無理ゲー」であるのだが、この閉塞感を突破しないことには、明るい未来を描くことはできない。

そのために何をしていくのかというのが、真の知恵の出しところだろう。

閉塞感の突破口

私は、その答えの一つを「労働生産性(=給与額)」を高めることだと思っている。

特に日本の場合には、人口が縮小しているのだから、労働生産性を高めることは、海外よりも積極的に取り組むべき課題である。

そして、労働生産性は、稼働率の平均値と分散によって約6割が説明できる。
つまり、基本的な集客力を高め、季節波動を抑制していけば、労働生産性は高まっていくことになる。

宿泊産業の生産性と稼働率との関係性(山田作成)

集客力の高低はブランディング力と言い換えることができる。また、季節波動の調整は、(観光需要だけでは厳しいため)MICEの取り組むが重要となる。
いずれも、地域単位での取り組みが必要となる。

私が、マーケティング/ブランディングを研究テーマとし、観光政策を産業政策として捉えるように訴え、宿泊税導入の支援を行っているのは、これが理由である。

労働生産性はDMOが作るもの

こうして整理すると、地域振興におけるDMOの戦略的価値というのは、非常に高いということがわかるだろう。

観光地のブランディングを進め、閑散期対策としてMICEを呼び込むというのは、まさしくDMOのミッションであるからだ。

言い換えれば、マクロ的な労働生産性は、DMOが作るものだと言えるだろう。
(もちろん、最終的には個々の施設の経営力が決定する)

良かれと思って取り組んだにも関わらず「観光振興で貧乏」にならないよう、しっかりとした戦略にて着実に展開していきたいところである。「観光」だけが地域振興の手段ではないのだから。

Share