ホスピタリティ産業からみた観光振興の段階

ライフサイクルとパレート分布」で示したように、また「インバウンド需要はバブルかファンダメンタルか」でも示したように、観光振興というのは、経年的な積みかさね(ストック)によって、実現されていきます。

では、この積み重ねは、どういった段階をふんでいくものなのでしょうか。
また、その段階と地域振興との関係性はどういったものなのでしょうか。
今回は、その辺を、ホスピタリティ産業の視点から整理したいと思います。

ホスピタリティ産業から見た観光振興の段階は、国内外の観光リゾート地の状況より、以下のように整理できます。

  1. 観光資源に人が集まる
  2. 集まる人を顧客にホスピタリティ産業が張り付く
  3. ホスピタリティ産業の取り組みによって観光客が増える
  4. オフシーズン対策がなされ、生産性が向上する
  5. ホスピタリティ産業が地域経済をリードする存在となる

 

1.観光資源に人が集まる

まず、第1段階は産業に関係無く、一定の地点や地域に何らかの理由で人が集まる事から始まります。いわゆる風光明媚な景観があるところや、寺社仏閣、特徴的な郷土文化など、観光資源と呼ばれるものが対象となります。

近年では、「インスタ映え」のように、非常に断片的に切り取られたものや、「聖地巡礼」のように仮想空間との重なりが来訪需要を創造する場合もあります。

また、就学や就労、さらには、ビジネス出張など人が集まる理由は多岐に渡ります。

このように、観光資源の定義は曖昧であり、そもそも「資源」という表現が適切なのかという疑問もありますが、その地域に訪れたいという理由を生み出すものを、広義の観光資源と考えて行けば良いでしょう。

ただ、単に人が集まるだけでは、消費機会は生まれないため、経済的な効果は生みません。

2.集まる人を顧客にホスピタリティ産業が張り付く

一定の人数が継続的、または、反復的に集まってくると、それだけで一つのビジネスチャンスとなりますので、その人を目当てに、商売をする人達、事業者が出てきます。

例えば、自然景観を望む展望施設には「茶店」が出来、毎年多くの人が集まる花見や酉の市には、多くの屋台が出てくるようになります。

これが、その地域にとってのホスピタリティ産業の萌芽となります。

なお、「ホスピタリティ産業と観光産業の違い」で示したようにホスピタリティ産業は、地元需要も大きな市場ですので、その地域に一定の人口があることもホスピタリティ産業の萌芽となります。この人口には、就学、就労人口も含みますし、出張などのビジネス需要も対象となります。

いすれにしても、ホスピタリティ産業は、自らが需要を創造するのではなく、何らかの需要をベースに立ち上がってくるのが基本です。

3.ホスピタリティ産業の取り組みによって観光客が増える

ホスピタリティ産業が張り付くと、各事業者は、自分たちの事業を成立させるために、自身の商品力を高めたり、露出を高めたりするようになります。

そうした事業者の取り組みが、更に需要を喚起する、呼び込むことになり、地域を訪れる観光客が増えていくようになります。

「観光が振興されている」と一般の人達の目に留まるようになった段階とも言えます。

また、事業者によっては、観光資源の要素を自らの事業に組み込み、集客規模を増やそうという所も出てきます。スキー場やゴルフ場などを併設した大型リゾートは、その好例ですが、特徴的な「食」や「温泉」によって集客を図る旅館も、この範疇に含まれます。

サービス業は同時性と消滅性を持つため、売上を高めるためには、対応出来る需要規模を高めることが近道となります。そのため、事業が軌道に乗ってくると、より収益を拡大するため、各事業者は施設の増強に取り組んでいくことになります。

Share